「上納金」払えぬと末寺に
訴えられた「お東さん」
上納金を払わないなら、ご子息の得度は認めかねる−能登の和尚が、そんなヤクザまがいの本山の脅しに怒った。
訴えを起こしているのは、石川県輪島市の正覚寺の山吹啓住職(47)。被告は「お東さん」で親しまれる浄土真宗大谷派の総本山、東本願寺(京都市下京区)である。
山吹住職が言う。
「懇志金″というのをご存じですか?
教団の運営のために、末寺が本山に上納するお金のことで、門徒さんから広く募ります。志″というぐらいだから、いくらでもいいように思われますが、実際はそれぞれの末寺ごとに御依頼額″と称する目標額が設定され、その金額を果たさなければならないんです」
で、この御依頼額を果たせないとたちまち本山から厳しいペナルティーを受けるのだという。
「うちは239万7000円が1年の御依頼額ですが、とてもそんな額は払えない。
でも、満額上納しなければ息子の得度を許さないとか、坊守(妻帯)を認めないとか、いろんな手で圧力を掛けてきます」
加えてこの御依頼額の算定法が明治時代に申告させた門徒数が基準になっているとかで、寺によってまちまち。中には数万円でめでたく完納″する寺もあって、住職の怒りはますます収まらない。
「能登は真宗の中興の祖、蓮如上人が京を追われて再起を図った地でもあり、門徒数は多い。しかも北前船の寄港地で栄えていたこともあり、御依頼額は高くなっています。でも、それはかつての話。現在は過疎化が進む一方で住民はお年寄りばかりです。僅かな年金からなけなしのお金を捻出してくる門徒の方々にもっと出せと言えますか」
厳しい経済状況にあえぐ門徒を慮る住職だが、訴訟を起こすには、さらに理由があった。
未納分の志〃
「今から5年前に蓮如上人の五百回忌法要があって、いつもの懇志金とは別に、約500万円の御依頼があったんです。もちろんうちとしては精一杯頑張りましたが、270万円が限度でした。法要が無事終わり、出せなかったものは仕方ないと思っていたところ、不足分の約200万円を翌年の御依頼額に上乗せして請求してきたんです」
まるでタチの悪い取り立てである。ということで山吹住職は昨年の7月12日、『債務不存在確認請求事件』として本山を訴えたのである。すでに裁判は5回目を数えるが、双方の主張はいまだ平行線のまま。
本山の総務部に訊いた。
「懇志金は門徒さんの志で自由です。目標額はありますが、お願いに過ぎません。訴訟は和解できるように努力しています」
が、実は以前に同様の件でクレームがついた時、詫びて、懇志金を一部地域で自己申告制にした経緯もある。さる真宗の住職が言う。
「本山は世間の景気さえ分かっていないんです。坊主に頼まれれば誰もが金を出すと、いまだに思っているんでしょうね」
金は苦悩の根元である。
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