asleep
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All along the darktower
ヘヴィメタル(Heavy Metal)と呼ばれる音楽が人々に誤解され正しい認識をされておらず、被害妄想的な事件に巻き込まれていることは御存知でしょうか?
その象徴的な出来事として有名なのが、
JUDAS PRIEST
の『Stained glass』をめぐる訴訟事件です。
「1986年、米ネバダ州リノ市にて、JUDAS PRIESTの熱心なファンであった二人の少年、レイモンド・ベルクナップとジェームス・バンスが散弾銃で自殺を図った。
レイモンドは即死。ジェームスは奇跡的に助かったが、顔面はグシャグシャに潰れていた。
レイモンドとジェームスの両親は、JUDAS PRIESTとCBSレコードを訴えた。
彼等のアルバムに意識的に知覚できない音量で"Do it"と命令する音が
マスキングされ、サブリミナル・メッセージとなっており、
"悪魔の魂を救え!神を強姦しろ!"というバックワード・マスキングが入っていたというのである。
生き残ったジェームスも事件後3年目にクスリの飲み過ぎで亡くなった。
死ぬ直前までJUDAS PRIESTを聞いていたという。」
JUDAS PRIESTとは、金属的なギターの音と金切り声で歌う、というメタルの一般的な概念を生み出したバンドです。
黒のレザー、スタッドといったSMめいた服装をメタルのユニホームにしたのも彼等です。
この裁判ではJUDAS PRIEST側の勝訴の判決が出されました。
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Bind ! No bind !
争点となったバックワード・マスキングとは、逆さ言葉を歌詞の中に入れることによって特殊なメッセージを織り込ませる手法のことです。
このバックワード・マスキングが一躍知られるようになったのは、1982年のことです。
CBSのニュースキャスターのダン・ラザーが、
「ロックスターたちは、
レコードや歌の中に逆さまに潜在的にサタンの情報を伝えることによって
彼等のメッセージを広めサタンの崇拝を実践している」
と悪意に満ちた中傷を行い、音楽を逆回転させた実例をいくつか紹介したのです。
(例えば、"Dog is natas"は"Satan is God"になります。)
そして、『メタルには、こうした「目に見えない」形での巧妙なサブリミナル・マスキングが埋め込まれている』と視聴者の意識にメタルに対する偏見を印象づけようとしたのです。
AC/DC
の『Hell Bells』という曲の歌詞にもバックワード・マスキングがあるという主張を行っています。
「君に黒いセンセーションをあげよう。背骨のいたるところで、君は悪に入っていく。君は僕の友達」
この歌詞をひっくり返すと「君に催眠術をかけよう。しかし彼はサタン。
僕をだしてくれ。サタンに捕らわれの僕がいる」
とバックワードされているとしています。
AC/DCとは労働階級に強く支持されている古典的でエンターテイメントを重視したバンドです。
電流の交流、直流を表わしたバンド名は"After Christ, Devil comes"の略であり、"Anti Christ ,Devil's child"の頭文字でもあると心無い人々によって伝えられているようです。
彼等のアルバム・ジャケットに度々大砲が登場することを理由に、
彼等が男根礼拝と同時に、「女性を征服したい」という強姦願望を意図しており、女性蔑視的である、と言われ無き批難を受けたりもしています。
大砲以外にもジャケットに度々描かれる「長くて硬い直立したもの」は、ほとんどすべて男性のシンボルとして曲解をされているようです。
例えば、拳銃・蛇・ステッキ・ほうき・魚・ネクタイ・バナナ・キャンドル・摩天楼・樹木・塔・ロケット・煙突・刀・シャンペン・葉巻・ギター・マイク・指・
などその他、細部にわたってその象徴を見出そうとしています。
これは
「全ての凸型のものは男性器の隠喩であり、凹型のものは女性器の隠喩である」
というフロイトの言葉の悪しき応用とも言えます。
AC/DCの場合、ライヴにおいて大砲が登場し、盛り上がりが最高潮に達すると空砲が撃たれます。
これが偏見を持つ人達の如何なる解釈を導き出すかは、言わずもがなというところでしょう。
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Dead man walking
他にも、メタルが言われ無き迫害を受けた残虐な事件を幾つか挙げてみましょう。
「ニューヨークのリバーヘッドでトム・クランシーという少年がナイフでめった刺しにされ、
眼球を抉り取られて殺害された。犯人はすぐ逮捕された。
殺された少年の友人のイアン・フレミングが犯人だった。
動機は、トムがイアンのドラッグ(エンジェル・ダスト=PCP)を盗んだためだ。この犯人の少年はBLACK SABBATHの熱狂的なファンだった。
残虐な犯行に及んだのは、見せしめの黒魔術的な儀式と思われた。」
英国バーミンガム出身の
BLACK SABBATH
は、メタルの元祖と言うべきバンドです。
彼等の1stアルバムは13日の金曜日に発売されました。アルバムジャケットが黒魔術的な印象を強く与えた事から、歌詞、服装、その思想に至るまで黒魔術的なものに傾倒しているとの誤解を産み、後の活動に大きな影響を受ける事になりました。
そのBLACK SABBATHのフロントマンだった
OZZY OSBOURNE
こそ、マスコミが生んだ被害者そのものと言うことが出来ます。彼はライヴにおいて些細な手違いをカバーするために行った鳩を食い千切る、意識が混濁した状態でのアラモ遺跡に排尿するといった行為によって、人々の偏見を一身に受ける事になりました。
「1987年、米アーカンソー州レイク・シティで、一人のティーン・エイジャーが両親を殺害した。少年の名はジョン・ソール。
彼は、ゴルフ・クラブで親を滅多打ちにした後、肉切り包丁でその死体を切り刻んだのだ。
彼はSLAYERというバンドのファンで、殺人の動機についてこう語った。
"蛇口を捻ったら命令が来た。親を高次元の意識に解放するために殺したんだ"と。」
SLAYER
とは「殺害者」という意味であり、スラッシュ・メタルの帝王と言われるバンドです。
アウシュビッツ収容所においての残虐行為を行ったヨゼフ・メンゲルを表現した曲、『Angel of death』はその題材に対する周囲の偏見から発売中止という事態になりました。
かつてオランダ政府は青少年への悪影響を理由にアーティストの自由な表現活動の場である、彼等のライヴを中止しています。
殺人だけでなく自ら命を絶つ痛ましい事件も数多く起きています。
「ミシガン州のモンローでは、ジェフリー・ハウスホールドという17歳の少年が、自室で首をアイロン・コードに巻き付けて自殺した。
彼はMETALLICAというバンドの熱狂的な信者で、日頃好んで『Creeping Death』という曲を聞いていた。
この曲は"死ね、自らの手で"というリフレインが何度も登場する。」
METALLICA
は、
MEGADETH、
ANTHRAX、
SLAYERと並ぶスラッシュ・メタル出身の代表的なバンドです。
黒色がトレードマークで、死や操作、政治や司法の腐敗といった世界の暗い側面に関連した曲を多く歌っています。
彼等は現代のメタルの象徴と目されており、世界的な人気を誇っています。
スラッシュとは、鞭打つという意味で、文字通り鞭打つような激しいビートと過激な歌詞で知られています。
他にも、
OVER KILL、
TESTAMENT、
KREATOR、
SEPULTURA、
SUICIDAL TENDENCIES
といったバンドが殊に知られています。
しかし、いずれの裁判においてもバンド側の勝訴に終わっています。
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Valor,valor,valor
フィラデルフィア州マウント・サイナ病院精神科長グレゴリイ・ベンフォード博士は、こうした過激な音楽が子供に与える道徳観、世界観、思考について多大な懸念を示し、こう語っています。
「仲間から取り残された若者の多くがメタルに救いを求める。
マイノリティーとしての裏返しの優越感を満たすためだ。
良識ある大人なら眉を顰める行為を、若者というのは逆に歓迎したがる。
大人は分かってくれないという、それこそ子供じみた思い込みをメタル・バンドが利用している。
確かに、思春期の青少年にとってフラストレーションの解消の一手段として過激な音楽も有効ではある。
しかし、その危険性(サタニズム・暴力の助長・女性蔑視など)について余りに無知な人が多い。」
デス・メタルとも呼ばれる
MORBID ANGEL
は、「ピュアなスピリットを伝えるために音楽をやる。」
と語っています。前述の若者の自由を束縛する偏見や思想からの解放をティーン・エイジャーに促そうとしているのです。
嘘発見器(ポリグラフ)の専門家でもあるオレッグ・タクタロフ博士は、ドラセナという植物とリーフバイオセンサーという装置を使って、音楽が植物にもたらす影響を実験してみました。様々な音楽を植物に聞かせたところ、メタルのみを大音量で実験を行いその対象のドラセナが萎れた事を確認したそうです。
また、タクタロフ氏によると、彼の息子も心根の優しい子供であったが、メタルを聴くようになって人柄が変わり、いつもイライラするようになって親に反抗的になり、目付きまで悪くなってしまったそうです。
このように意図的な不公正ともいえる実験過程の差別を行う、博士の教育方針に彼の息子が反抗心を持つのも当然の事であり、メタルはその偏見からの解放を与えていると言えます。
米国では、ドラッグ中毒で強制入院させられた患者の約60%がメタルのファンであるという主張がありますが、蔓延するドラッグ渦を音楽に転嫁しようとするマスコミの影響が見られます。
日本及び、ヨーロッパその他の国々ではドラッグはミュージシャンを蝕むものであるという共通認識ができているようです。
PANTERA
というバンドはマリファナを奨励し、麻薬を合法化しようという運動にも関わっているようです。
またフロントマンのフィリップ・アンセルモは、人権問題に対する過敏性を警告した発言が人種差別的であるとマスコミから非難を浴びた事があります。
ラップ・ミュージックが黒人の音楽であるという偏見と同様に、メタルが白人優位主義の産物であるとの偏見が産み出したものであるといえます。
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Monomania
人間が日常生活で感じる音量は約60デシベルですが、
メタルのライヴの音は日常では体感する事の少ない約190デシベルもあると言われています。
絶えず激しく律動するビートを高い音量で長時間聴きつづけることにより、精神の解放を促す事が出来ます。
メタルのコンサートを見れば、これらオーディエンスとバンドとが一体となった、現実世界では味わうべくも無い共通幻想空間を産み出している事が分かります。これらを体験した人々は現実世界のストレスを解消し、再び自らの生活と立ち向かう事が出来るのです。
例えば、
BLIND GUARDIAN
のライヴにおいては、バンドと一体化した聴衆が合唱団と見まがわんばかりの壮大で勇壮なコーラスを聴かせることで知られています。それら観客の精神の同調が同時代に生きるものとしての認識を強くさせています。
MANOWAR
というバンドはライヴにおける音量の大きさを売物にし、
ギネスブックにまで登録されています。
"Death to false metal(偽者メタルに死を)"
という純粋に自らの音楽を追求する思想を掲げるMANOWARは、アメリカ人の正義を重んじる国民性が生んだバンドと言うことができます。
彼等はメタルの持つ神秘性、不屈性、英雄的な部分を極限まで高め、意図的かつ戯画的に強調しています。ベーシストであるジョーイ・ディマイオは、
「我々はサムライである。刀の代わりに音楽によって戦うのだ」
と語っています。
この精神を重んじる主張に日本人ですら既に失った信義、礼節といった武士道にも通じる思想があることはよく指摘されるところです。
こういったメタルが素晴らしいのは、聴いている者の中に自主独立、抑圧への抵抗といった社会的な偏見や差別に立ち向かう精神を養う事が出来る点です。
つまり、メタルバンドが主張している自由、希望、解放、平等へと若者を駆り立てるのです。
多感な若者がこういった主体的な音楽を聞くことは、非常に自立心を高めます。
例えば
THERION
というデスメタル・バンドは、明確な形で反キリスト主義を打ち出しています。
既存宗教を破壊し、殲滅してきたキリスト教への不信を、それらの抑圧された土着宗教の象徴としてのドラゴンに託して、キリスト主義に傾倒する危険性と失われつつある他宗教の思想の権利を訴えています。
デスメタルとはスラッシュの過激な部分のみを抽出したような音楽で、歪んだギターリフと「デス声」と呼ばれる吐くような叫び方がその特徴です。
NAPALM DEATH、
BRUTAL TRUTH、
BOLT THROWER、
DEATH、
CARCASS、
OBITUARY、
MORBID ANGEL、
CANNIBAL CORPSE
といったバンドが有名です。
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Angels in heaven
社会に対して強い関心を持つメタルは現実社会の病巣や問題点、さらには様々な問題によって困難な状況にある人々に注目しています。
ドラマティックなヘヴィメタル・バンド
SAVATAGE
は民族紛争のために戦火に見舞われる事になったサラエボの悲劇、また社会の底辺で希望を求めてさまよい続ける男の姿を描き出しています。バンドを支える存在のプロデューサー、ポール・オニールは「いくら小さくても、とにかくアクションを起こすことに意義がある」と語っています。
また、
ROYAL HUNT
は日本に訪れた際に、未曾有の災害だった阪神淡路大震災の被災状況に強い衝撃を受け、哀悼の意を込めた曲を被災者に向けて発表しています。
このように現実世界にはびこる悲哀を描き出すことによって、自らの役割を理解し世界の一員としてのあるべき姿を聴き手に思い起こさせようとしているバンドには、
ACCEPT、
RIOT、
QUEENSRYCHE、
STRATOVARIUS、
といったものが知られています。
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Hell is here
「…メタルのグループのステージや演出には、投影による同一化の例をみることができる。
音楽産業の巧みな手腕によって、親たちが反感をもち子供に害を及ぼすと騒ぎたてるようなイメージが作り出されている。
彼等は未成熟な受け手にたいして、両親の監視下に置かれることや、道徳的な締め付けへの抵抗を呼びかけ、あらゆる種類の権威を公然と侮辱してみせる。
その操作は、彼らのファンの年齢層に特有な不安定さに狙いを定める。
他にも、下層労働者階級の神経症的な傾向の強いティーンエンジャーに向けて、救済者としてサタンの幻想を訴えかけるような演出ががなされている。
メタルは、レコード会社に莫大な利益をもたらしたが、
実は思春期のさまざまな問題にたいする回答として、
自殺や反社会的な暴力行為を奨励してきたのである。」
これは、サブリミナル研究で有名なウィルソン・ブライアン・キイ博士の言葉です。
キイ博士の『潜在意識の誘惑』(1973年刊)はTV広告、雑誌、ロック、
映画に隠された様々なサブリミナル・テクニックを暴いて話題になりました。
米国では、キイ博士の著書は多くの大学で教材として用いられており、上院の各種委員会でも引き合いに出されます。
しかし、サブリミナル効果は過去の実験のデータが捏造されたものである、被験者を誘導していたなどの不信な点が多く、また追試験でもその効果が大きな影響を与えるものではない、との報告がなされており、博士の言葉の真意に職業的な蔑視や若い世代への偏見が無かったかどうかは定かではありません。
米国でのグランジの流行と前後して台頭してきた
NINE INCH NAILS、
ALICE IN CHAINS、
HELMET、
BIOHAZARD、
RAGE AGAINST THE MACHINE、
KORN、
TYPE O NEGATIVE、
MARILYN MANSON、
WHITE ZOMBIE、
MACHINE HEAD、
FEAR FACTORY
といったバンドも一様に米国での社会状況を表わした陰鬱なイメージを売り物にしています。
アメリカにはPMRCという規制団体があります。この団体はゴア副大統領夫人が中心となった選挙の集票のため団体であり、常にスケープ・ゴートを必要としておいます。社会的な立場の弱いメタルは何度となく攻撃対象とされており規制に苦しめられています。未だ文化的偏見の根強いイスラム文化圏では、
こういったバンドのレコードを所持しているだけで逮捕されることもあります。
翻って、日本ではこの手の音楽が何の規制もなく自由に聴けるようになっています。
(現在では世界的にメタルは下火であるようですが、日本及びヨーロッパにおいてはヨーロッパ圏の正統的なバンドが正しく評価されています。)
メタルに否定的なリスナーの中には、極端な音楽を聞くのは有害であるとか、子供じみた歌詞には興味を覚えないという人もいます。
また、強烈なビートやギターの音は雑音にすぎない、という人もいるでしょう。
しかしヘヴィメタルは、自由、平和、さらには独立主義などの本来人間に備わった事柄を助長します。
老若を問わず私たち各自は、聞く音楽の選択によって自分は徳と悪徳のどちらを追い求めているだろうか、
という点を改めて考えてみるべきではないでしょうか。
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