アルコール依存症の治療コーナー |
アルコールの治療に興味を持って、アクセスしていただきましたが、この場では、みなさんの日頃のアルコール治療に対する一般常識、例えば、「アル中は治らない。」、「アル中は意志の弱いものがなる病気だ。」などを棄てることから始まると思います。アルコール依存症になった人は、回復し、新生できると確信しています。
このコーナーは、最新の治療方法はもちろん、なかなか難しい治療へのいざないから、治療後のアフターケアの必要性など多彩な項目があります。急ぐ方は、興味のある項目から読んで下さい。どうもよくわからないようであれば、順に読んでみて下さい。
◆【アルコール治療劇の開演】 | ◆【体の治療では不十分なの?】 |
◆【治療導入への手引き】 | ◆【アルコール依存症社会復帰プログラム】 |
◆【回 復 へ の 道】 | ◆【専門治療機関ガイド】 |
◆【一般医が得するコーナー】 |
体の治療では不十分なの
アルコール依存症の治療は、アルコールによって傷つけられた体を治すことは大事です。しかし、例えば障害された肝臓を治すだけでは、再び飲める体を作り上げるだけにすぎません。飲んで体をこわし治療を受け、また飲んでを繰り返し、慢性自殺をするだけになります。病んだ身体を治療することは、アルコール依存症治療の第一歩でしかありません。理想的には、身体の病気の専門家の一般医と薬物に対する依存の専門家の精神科医との併診治療が望まれます。
アルコールという飲み物は、体にはいると薬物として働き、過量になると体のいろいろな部分の働きを低下させ、時に働かなくさせます。それは、次のようないろいろなレベルで障害を認めます。細胞の構成成分のミトコンドリアや、細胞と細胞の間の情報ネットワークの一つの受容体(レセプター)や、肝臓や脳や心臓などの臓器、臓器が集まっていろいろな働きをする中枢神経系や消化器系など、体の各部はエイリアンのアルコールによって侵略されます。臓器だけでなく、人間性も変化し、飲むためにはいろいろと嘘をつくようになります。まさに、人が酒を飲むのではなく、エイリアンの酒が、酒を飲む形になります。さらに、アルコールの問題は飲んでいる本人だけにとどまらずに、夫婦や家庭の問題、最近話題になっているアダルト・チルドレンや、職場や地域社会の問題へとその波紋が拡がっていきます。
アルコール治療の対象は、厳密に言うとミトコンドリアから地域社会、しいては日本という国になります。しかし、それでは漠然としすぎており、実際の治療対象はアルコール依存症本人やその体、配偶者、両親、兄弟などの家族、職場の上司や同僚などが該当します。大事なのは、アルコール依存症本人だけではない事です。
ですから、アルコール治療は、身体治療、精神療法(個人療法、集団療法)、家族療法などを駆使して挑戦しなければならない病気です。言いかえれば、アルコール依存症者のシステムを揺り動かし、ゆがんだ機能を新しく健康な機能に新生する一連の試みでもあります。
治療導入への手引き
アルコール依存症は否認の病と言われており、周囲がアルコールの問題を感じても、当事者のアルコール依存症者は問題や病気を否定しやすいのが実状です。自分のアルコール問題に気づいて治療機関を受診する場合は、滅多にありません。そんな場合に、周囲がどのように介入したらいいのか、その方法が大事となります。また、アルコール依存症者が専門治療機関を受診しないと治療ができない訳でなく、問題だと認めた方が受診、ないし相談される事が必要です。実例として、妻のみが治療を受けて、アルコール依存症者の断酒ができたケースもあります。
以下に、家族の方や職場や地域の方に次のような事を実行していただければ、アルコール依存症者はいつまでも否認続けることは困難と考えています。
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アルコール依存症者の治療は、外来治療と入院治療の2つに大きく別れます。昔は「アル中の治療は格子の入った精神病院に入院して行う」というのが一般的でしたし、大抵の方はそんなイメージがあるため、精神科(病院)に治療を求めにくくしてきました。しかし、治療技術の進歩に従い、アルコール専門病院の治療は外来治療がむしろ主になりつつあります。その前提には、家族の協力(勉強と行動)や病気の早期発見・早期治療があります。外来治療でで思ったような治療効果がなければ、アルコール依存症社会復帰プログラムに従い、入院治療で回復を求めた方が確実だと考えます。 では、実際の入院治療契約をした方がどのようなアルコール依存症社会復帰プログラム(ARP)によって行われるのか実例をあげましょう。通常は入院期間が3ヶ月というのがポピュラーです。以下に、私が勤務している市立富山市民病院におけるアルコール依存症社会復帰プログラムを紹介しましょう。各治療機関によって治療プログラムは多少異なる点はありますが、大きな違いはないので治療を受ける際の目安となるでしょう。個別のプログラムの内容について知りたい方は、クリックして下さい。
*離脱症状の可能性がなければ、開放病棟からの治療ができます。 |
病棟ミ−ティング(3・4F)
入院中の患者さんに、病棟スタッフも加わり、ミーティングが行われている。会はテーマを決めて話し合われることもあるが、フリーの時もある。ミーティングを繰り返すことによって、コミュニケーションの仕方が変わり、自分の考えを述べたり、人の話が聞けるようになったりして、プログラムの中で重要な位置を占めている。
個 人 精 神 療 法
アルコール依存症に対する個人精神療法は、時間をかける割には効果があがらないと言われています。単に支持療法や説得療法では、やはり思うような結果がでにくいようですし、ややもすれば家族と似たような役割(イネイブラー)を果たす結果になることもあります。それに対して、システム理論に基づいて行う精神療法は、ボーエンが述べているように有効な方法と私は考えています。治療効果については、治療者間でいろいろな意見がありますので一つの意見として思っていただければと考えます。はっきりした点は、個人精神療法単独でアルコール治療はうまくいかなかったという歴史的事実が存在することです。
しかし、断酒がきちんと行われた後に、小さい頃の傷ついた自分の問題が回復する際に集団の場で扱うことができない時など、個人精神療法は是非必要になります。
女性アルコール依存症ミーティング
女性のアルコール依存症者が増加していますが、まだ主体は男性のアルコール依存症者です。そのため、富山市民病院では、男性中心のミーティングにおいて、女性のアルコール依存症者の悩みや問題がやや異なっているため、同性同志の方がよりミーティングの内容が深まると考え、外来通院や入院を問わずに参加していただいています。時に、摂食障害や他の薬物依存の方も参加することもあります。自分と同じような飲酒体験や家族間の葛藤、社会の因習、AC問題などを聞いたり語ったりできたときに、このミーティングが輝きを持つときと考えます。女性だけのグループ(アメシストの会)が近々誕生しそうです。
地域断酒会参加
入院中から地域断酒会に参加していただきます。ただ、現在は病院に最も近い場所で開催される「のぞみの会」に出席していただいています。入院患者さんにとっては、断酒して回復、新生の道を歩んでいる先輩の姿を目の前にすることは、勇気を与えるとともに、自分を見つめ考えるチャンスにもなります。家族の方も、断酒会に参加することをすすめています。家族が変われば、アルコール依存症者も変わる可能性が高まります。アルコール依存症者と家族が、車の両輪のように回復するのが理想的であり、その実現の場が自助グループの集まりにあり、参加することによってその一歩を歩むだすことができると確信しています。
内 観 療 法
内観(療法)は、吉本伊信によって浄土真宗の一派で実践されていた身調べという方法を改良した精神療法です。改良点は、宗教色を取り払い、誰でもやれる方法になった点です。この方法は、特にアルコール依存症の治療に有効であると言われています。
富山市民病院では、富山市民病院方式となづけたやり方で内観療法を実践して、効果をあげています。この方式は、一般的に行われている集中内観が1週間を必要としているが、治療効果が低くなる可能性があるが、入院2ヶ月目より週に1回(水曜日)、朝の8時より夕方の5時半まで内観を実践していただいています。面接指導は、内観を体験した看護士酒井・看護婦九十九を中心に、北陸内観研修所の長島正博氏、医師吉本らが行っています。
入院期間中の内観療法を受けることにより、引き続き北陸内観研究所での集中内観を実践したり、集中内観を行わなくても内観的発想を身につけ、アルコール依存症から新生をはかっている方々が増加しています。
内観(療法)については、次のようにリンクがはられています。アクセスして見て下さい。
@北陸内観研修所
A塚崎病院
B蓮華院誕生寺
CSEIN指宿(指宿竹元病院)
また、全国には多くの内観研修所があり、自己啓発や治療がおこなわれています。
■北日本新聞平成9年4月21日(月)社会2面に内観療法が紹介されました
合同ミ−ティング
参加者は、アルコール依存症者や家族、先輩、病院スタッフ、時に会社や地域住民、保健婦、福祉担当者などです。名前は、ミーティングですが、実際に行われているのは名前とは少し異なります。私は、山野心理士を中心とした集団精神療法の場と位置づけています。断酒の動機付けから始まって、単に断酒だけでなく、断酒以前の問題にメスを入れる場であり、感情表出やコミュニケーション改善の場であります。治療にとって大事なプログラムですが、入院中のアルコール依存症者や家族にとっては一番つらいメニューですが、問題点が明らかになる治療の要として考えています。
集団精神療法が有効な理由
@コミニュケーション技術の獲得
Aアルコ−ル関連問題への洞察や否認機制がかかりにくい
B治療共同体ができやすく、治療動機が増す
C孤独や寂しさからの解放
D病気の理解や病識の獲得がしやすい
E自助グループ参加への抵抗感の減少
F再発予防
G回復や新生の真の意味が見つけやすい
コスモス会(第2・4)
アルコール依存症を持つ妻の会で、平成1年12月14日に1回目が開催されてから、月に2回今日まで継続されています。最初は第一、第三木曜日に開催されましたが、途中から第二、第四木曜日の午後一時半に変更されています。
会の目的は次のようである。、@アルコール依存症を家族病と考え、自分も病気にかかっていることを認め、自らの病気を治すことを、努力目標としている。Aアルコール依存症の夫の問題行動巻き込まれ情緒的に不安定になっていることに対し、同じ仲間と語り合う事により、共感を得たりすることにより、メンバーの精神的安定をはかる。
この会のメンバーより、アラノン(富山山王、富山今泉、富山新川)が誕生しています。
行 軍(第2)
作家の なだ いなだ が、医師として勤務していた国立久里浜病院で発案して行った方法です。行軍は期日が定まっており、天気とは無関係に実施され、散歩でなく、集団で、脱落者を少なくし、かつ迅速に目的地まで移動するという方法です。行軍という名称は、軍隊用語です。精神科では散歩が良く行われていますが、それをわざわざこの名前をつけたのは意味があるのではと推測しています。久里浜で行われている行軍に参加した経験がありますが、隣の人としやべりながら歩いていると集団から離されてしまうという体験を何度も持ち、まさに敵地を移動するスピードと思いました。しかし、スピードを上げすぎると脱落者を多く認め、敵地での脱落者は死を意味するのですから、日頃の鍛錬と適正はスピードが軍隊では求められるのだと思います。アルコール依存症者の行軍でも、まさに傷ついた体を背負いながらの行軍ですので、敵地を移動するという感覚はピタッと一致すると思います。
アルコール教室(第1・3)
アルコール依存症全般にわたって、知識を得ることを目的にしたプログラムです。実際は、アルコール依存症についてのビデオを供覧し、その後にお互いにその感想などを述べたりなど、ミーティングの形式で運営されています。
外泊(3F)
外泊は、アルコール社会復帰プログラム上、大きな比重をしめている。退院前の1カ月前より開始され、前半は、土、日曜日の1泊2日で、後半は、金、土、日曜日の2泊3日である。単に家族と顔を合わせるというのではなく、家族間のコミュニケーションが学習通りに実行できるか試す時期であり、できないとすればどうしてなのかと考えるプログラムである。一方、治療者側にとっても、患者や家族のとりやすい行動パターンを知る上でも重要なプログラムと位置づけている。
外泊中の飲酒は、ほとんどなく、飲酒を認めれば問題点が退院前に明らかになるのでかえって良いという側面もある。
一般医が知って得になるコーナー
一般医の先生は、アルコールによる臓器障害のみに目を奪われる傾向がある。背景にあるアルコール依存について患者や家族に告げることを怠った場合、重大な不利益をこうむる事がある。ある裁判の一審で、肝硬変患者に断酒指導をしなかったと内科医が訴えられ、敗訴になっている。面倒でも、インフォームド・コンセントの時間をけちらないようにしたいものだ。@アルコール依存症の可能性があればきちんと告げる
アルコール依存症は、治療してもすぐに断酒にいたらないのが普通である。例え断酒の意志が強くても、病気のために再飲酒に陥りやすい。むしろ、再発を繰り返しながら、人間的に成長して回復する病と考えた方が良いかもしれない。とは言っても、現実の治療場面では、一般医が熱心であればあるほど、アルコール依存症者の臓器を治し飲まないように指導し、さらに飲まない約束をしても、間もなく再入院を繰り返すために裏切られたような気持ちがして、一般医の方が燃え尽きてしまうことがある。専門医と相談して併診医療にするか、専門医への紹介をして、自分のやれる役割を明確にした方が良いと思われる。A燃え尽きる前に専門医に相談・紹介する
自分が適量でアルコールをストップできるからと言って、アルコール依存症者にその方法を勧めたりしない。アルコール依存症者は節酒ができない点が病気で、意志が弱いのではないからである。その他に、寝酒を勧めることもアルコール依存症を作ることになったり、アルコール依存症者の飲む口実を医者自身が提供することになる。以上に述べたような対応をした時に、後にその問題点にアルコール依存症者が気づくと、今までの信頼関係が崩れてしまうからである。B自分自身の飲酒体験でアルコール依存症に対応しない方がよい
夫がアルコール依存症の初期であればあるほど、又は静かなアルコール依存症であればあるほど、妻や両親は患者のアルコール依存症という病気を認めようとしない場合がある。病気が進行して、家族はアルコール依存症者の問題について認めることができても、自分自身の問題に気づくには時間を要する。C妻(夫)や両親も家族病にかかっているという視点をもっていた方がよい
アルコール依存症者は、連続飲酒の状態から急に体内よりアルコールが減少した場合、離脱症状(禁断症状)が出現しやすい。その現象をなるべく最小限度で防ぐ方法として、アルコールと交叉身体依存性の薬物(バルビッレート系、ベンゾジアゼピン系薬物)と置換することによって目的を達成できる。バルビッレート系の薬物は呼吸抑制などがあり危険なので、ベンゾジアゼピン系薬物が一般的に使用される。ジアゼパム(商品名:セルシンなど)を1日量として15mg程度使用することによって、重篤なせん妄の発症をかなり防ぐことが可能です。D飲酒量を急に減らしたり、止めたりして来院した場合、マイナー・トランキライザーを利用