雑記帖 - 旅日記
- No.9
2005夏~沖縄 その3「三食三寝つき」 -
パイナップルネコピナイ川に漕ぎ出したカヌーは、アキちゃんの密かな期待?を裏切り、沈することもなく意外にスムーズにすすんでいく。マングローブの生い茂る深い緑の中を、ゆら〜りゆらり、青空に流れる雲を眺め、ゆっくりたゆたいながら漕ぎ進むのは実にここちよい。まだまだ怖さを知らない台風を予告するかのように水面を波立たせる風も、今は頬に爽やか。周りを群れになって魚たちが泳いでゆく。ちょっと竿をたれればすぐにでも手応えがありそう。体力のないぺこどんは、途中からはアキちゃんに漕ぎ手をまかせてお姫様気分。
ジャングル地帯がすぎたところでカヌーを下り、こんどはパドルをストックに持ち替え、いざ滝壺目指してトレッキング。帽子に長袖、サングラス、世界最小虫除けグッズもスイッチオンで準備は万全。 「これが「サガリバナ」、ほらほら飛んでいるのが「おおごまだら」、血のような樹液を持つこれが「あかぎ」、「きのぼりとかげ」は、シャッターチャンスですよ」とアキちゃんが一つ一つ丁寧に教えてくれる。マイペースなプライベートツアーは実に贅沢。滝壺に到着した処で、そのまま、ぼっちゃ〜ん。ばっちゃ〜ん。汗を流した後の水遊びはこの上なく快適なのだ。夢中になって遊び泳いでいるふたりに、「おやつの時間ですよ〜」とアキちゃんがにこにこと呼んでくれる。「わぁ、パイナップル!」これが、また、すこぶる甘い。遊び疲れた体に、爽やかでジュ〜シィな甘さがこの上ないご馳走。
すっかり要領を得た帰りのカヌーは、さらに快適。かって、40代で自動車学校に通い出した時、「リストラにあっても大丈夫。自動車で稼ぐんだ!」と自信で鼻を膨らませていたのだが、またもや「トラバーユ先がみつかった。カヌーで稼ぐんだ!」と、すっかりその気(?)になって「おおっ、こんなにすすむじゃないか。あっれよっ、こっれよっ!すいっ、すいっ!」と気分はすっかりいっぱしのカヌーイスト。
途中、とんでもなく大きな鳥が近くのマングローブ林に降りてきた。「わぁ〜、かんむりわし!」すっかり興奮してしまい、そぉっと、しずかにカヌーを近づけてゆく。カメラマンのトさんは、まだまだ後方にいる。「はやく、はやく」と身振りで教えるのだが、相当距離がある。ようやくトさんが漕ぎ寄ってきたときには、ばさばさっ羽音を残して飛び立ったあとだった。残念無念、幻のかんむりわしを撮り損ねた。
宿に帰り着くと、掃除中だった隣の部屋を覗いてみたトさんが「隣は眺めがいいよ」。どれどれと部屋を見せて貰うと、ちょっと広めの上にベットも広くて硬い。「どちらを使って貰っても結構ですよ」と心よい返事に、「では」と我儘を述べて荷物を移動し、ひと風呂浴びて、ぐっすりひとねむり。
おばあの畑の野菜は新鮮で、おかみさん手作りの夕餉はどれも美味しい。ふたりして元気に「おかわり」「おかわり」。食べ放題のパイナップルがすこぶる美味しい!汗して遊んだ体に程よい甘さとすっぱさがすっきりとして体中にひろがってゆく。もちろん、とさんは、泡盛で乾杯につぐ乾杯。翼はすっかりのびひろがっている。
2日間の予定を1日でこなした安心で、翌日は、朝餉の後にまず朝寝。お風呂につかって読書しながらもちろん昼寝。風の中、近くを散策に出かけたトさんも引き返してきてまた夕寝。「なんて寝心地のいいベットやろか」とにかく快適で気持ちよく眠れるのだ。窓の外を吹いている風は、まだまだ風速30メートル程度。ちょうど程よい子守歌。「台風がやってくるので、夕飯は、早めにすませましょう。」と声がかかった処で、「バシャッ」とブレーカーが落ちた。停電。あたりは真っ暗。島では、こんな事ではびくともしない。白い貝殻にのっけたローソクに灯がともり、「まるでパリのレストランだね」と泡盛の杯がすすむ。
夕飯を済ませ一休みした処で「さわやかバンド総出演・スペシャル演奏会」のはじまりはじまり。「れでぃ〜すあんどじぇんとるまん。べりぃウェルカムさわやかそう。今夜は2せんにんのお客様をお迎えし、メンバー一同張り切って舞台を努めます。どうぞ、おたのしみくださぁ〜い♪」と、いきなり威勢よく始まった。楽しい団長さんが率いるさわやかバンドは、三線が4竿、エイサー太鼓、さんばが2名、ピアノ伴奏までついた本格派。役者が揃って演奏も堂に入っている。大きな紙に唄が大書され、準備も万端。音楽の先生だったおかみさんは、ピアノ演奏に歌い手に、時にはさんばで調子をあわせて大活躍。いよいよ興に乗ってくると、おばぁも登場で、カチャーシィーがはじまった。「はいっ、襖を両手でそぉっとあける要領ですよ」とアキちゃんは踊りの指導もわかりやすい。運転手のナベさんも加わって、踊りはいよいよにぎやかに…。外では風速40メートルの台風が吹き荒れていても、全然おかまいなしなのさー。
2階のお部屋に戻ると、さすがに風の音がすごい。東の窓におろされた雨戸がひゅぅひゅぅびゅるびゅる唸っている。「あれぇ、そういえばクーラーも扇風機も停電であかんしなぁ」。風呂の小さな窓だけは開けて、風通しを確保しているというものの、さすがに暑い。「あじぃな〜。あじぃねぇ〜。すごいかぜだなぁ〜」といいながら、「低気圧がきていると、いつもにましてよく眠れるもんじゃ〜」などと述べながら、またもや、ぐーすーぴー。夜中にドッス〜ン、ジィダァ〜ンというような地響きがした。「わぁ〜、民宿ごと、ふっとぶかも〜」と心配しながらも寝ている。さすがにお風呂の窓を閉めないと部屋ごともってかれそうな突風だ。むにゃむにゃ、もそもそ起き出し、窓を閉める。そして、またもや安らかな寝息がすぅ〜。
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