雑記帖 - つれづれのことのは

No.191
映画の世界・世界の映画

映画好きな人にはとっくに知られていることなんでしょうが、先日、サイモンラトルさんの「ベルリンフィルと子どもたち」が観たくて渋谷のユーロスペースまで出掛け、びっくりしました。お客さんへの接客マナーのよさ、待っている間のソファーもきちんと用意され、お客さんに愉しんで貰うんだという明るい雰囲気が伝わってきました。これまでの映画館ってなんとなく暗く湿っぽく、どこか猥雑で川原物の崩れた雰囲気が漂う一種独特な様相があったのですが、それとは別次元の世界。そして、また観客のマナーのよいことにも驚きました。

ユーロスペースは、1982年創業のミニシアターの草分け的存在であり、映画製作にも関わり、アテネ・フランセと共に映画学校までも運営しています。金沢のシネモンドの生みの親でもあります。皆に愛される映画館も、どんどん横の繋がりができていけばいいのにと思います。

(2005-01-18)

No.192
獅子は内

息子夫婦のちぃ凸さんが、バリ土産を持って遊びにきてくれました。なんと立派なキンキラキンのたてがみがついた獅子頭です。人の頭ほどもあるりっぱな大きさで横に広がるたてがみは50センチもありそうです。他にも手編みのコースターやらランチョンマットやトレー等。みんなへのお土産を背中と両手にさげて帰国したその姿を想像すると、ありがたくて笑いと涙が浮かびます。

思えば、親であるト・ぺこの始めての海外旅行、ネパールからの帰路もただならぬものでした。ポカラから1週間ばかりのトレッキングにも出かけたので、登山靴(昔の革製はどっしり重かった)はもちろん、シュラフや防寒具等…、それだけでもそれぞれのキスリングは一杯だというのに、餞別を貰った親戚知人にお土産をどっさり買いこんだのですから。更に1畳のチベット絨毯を3枚、小さな50センチ角のものを6枚も買い込み、リュックの上に丸めて更に積み上げて持ち帰ったのです。

火事場の馬鹿力というのは聞いたことがありますが、ト・ぺこの場合は旅の馬鹿力。今思い出してみても、悲壮感も漂うような旅疲れでやせ細った身体に、ぱんぱんに膨らんだリュックをしょって、両の手にはこれ以上は詰められないだろうというくらい膨らんだバッグを下げ、どうにも滑稽な姿だったと思います。思い出深い絨毯は居間の椅子のクッションとして現役で活躍してくれています。ここにまたひとつ若かかりし頃を思い出す息子夫婦のお土産が新たに加わりました。大きく鼻膨らませて居間にでんと飾られている様子が、なんとも逞しく微笑ましいのです。

(2005-01-26)

No.193
蜜柑

芥川龍之介の珠玉の短編を江守徹さんが朗読する舞台を聴きながら観ました。「蜜柑」「はんかち」そして名作「羅生門」。「蜜柑」は、まだ幼さの残る娘が奉公に旅立つため汽車に乗り込んで来てから、幼い弟たちに見送られながら別れるまでの短い時間とそれを見つめる私(作者)の心情が語られています。鉛色の空と暗いトンネルに煙る汽車というモノクロの世界に宙を舞う蜜柑だけが鮮やかな色彩で描写されていて、まさに映像を観ているように情景が思い浮かび、語り手の江守さんとはちょっと感想が違って、不安と希望を抱いた乙女の人恋しい気持ちに心ゆさぶられました。

中学生の時、その頃のお小遣いではとても買えない芥川龍之介と夏目漱石が欲しくて、お年玉も全部つぎ込んで買ったのを丁寧に丁寧に頁を繰って読みました。そんな思い出の作品なのですが、あの頃はただ読み流していただけだったのか、今回はまた随分違う印象を持ちました。歳を重ねると言うことは、なんと多面的に感情を面白くするものかと思います。

(2005-01-29)

No.194
まるかぶり

太巻きならいつでも食べたい程大好き。ところが、今夜は、まるかぶりはまるかぶりでも、ハンバーガーを毎日まるかぶりしていたらどうなるかという映画「スーパーサイズ・ミー」を観てきました。

ファーストフードを毎食1ヶ月食べ続けるとどうなるか?を自らの身体で実証したところが凄いですし、説得力もあるのですが、食が産業化すること、巨大化すること、作り手の顔が見えなくなること、食がマニュアル化すること等々の弊害と怖さになんか食欲なくしてしまいました。

いつもだったら、仕事が終わった時間でちょうど小腹が空いていることでもあるし、おやきにウーロン茶だったり、バナナにコーヒーだったり 饅頭とお茶だったり、ちょっとはらごたえする物食べながらみているのですが…。

毎日、ファーストフードだけを食べ続けることは実際にはないでしょうが、しかし、これが毎日おにぎりや太巻きを食べ続けるのだったら、あんなにも怖い健康状態にはならないだろうと、あらためて和食を見直したよ。

(2005-02-04)

No.195
重曹

今月は月初めの手入れついでに、最近流行の重曹使用で重点的美化対策を図りました。重曹は、手が荒れず、意外に簡単に汚れが落ちるのでオレンジエードと一緒に昔から使っています。日頃見て見ぬ振りというか、いつのまにこんなに!と感嘆詞を3個ぐらい並べたくなるほどの汚れを順番にチェック。

まず、毎日のように使う魚焼きグルリを分解して重曹を振りかけ30分後にたわしでごしごし。あれよあれよというまに綺麗にピカピカに。新品同様によみがえって嬉しくてなりません。使用前・後をデジカメ撮影すればよかった。年末に念入りに掃除した筈の冷蔵庫の棚も奥の物を動かして重曹でしめらせた雑巾できゅっきゅっ。いつのまにやらまだら模様に汚れがこびりついたヤカンもつやつやに。

さて、今度はめったに使わないオーブントースターだととりかかったら、「うえ~」という具合に汚れている。これも分解できる受け皿バメ留めになっている棚を外し、重曹をふりかけ…と3回は繰り返したのですが、こちらは思うようにとれてはくれません。2980円のバーゲンものは、やはり素材も作りもおざなりで手入れのし甲斐も劣るもんだと、ぶつぶつ独り言。だけど、せっかく手入れしたので、やっぱりもうしばらく使ってやろうか…。

(2005-02-09)

No.196
酔狂

富山松竹で韓国映画「酔画仙」 を観てきました。観客は10人と2桁がうれしい。ところが、前の席に陣取ったおっちゃんが、既に酔っている上に更にお酒を飲みながら見ているのです。酒の匂いがぷ~んと漂ってきて、くら~。ものずきが集まっているとはいえ、正真正銘というか酔画仙を地でいくような酔狂な客だったようです。朝鮮三大画家と称される山水画の巨匠のひとりの実話なので、是非、本物の絵を見てみたい。

(2005-02-19)

No.197
春一番

先日来、高断熱高気密作戦を展開していたトさんは、DIYで大枚はたいて隙間テープなるものを買い込んできました。あっちにも、こっちにも、そっちにも!と隙間という隙間は、親の敵とばかりに容赦なくふさがれてしまったのでありました。おかげで心なしか暖かくなりました。

ところが、ひとつ問題がありました。勝手口の戸がしっかりきっちり押さえ込まないと閉まらなくなったのであります。貼ったテープの厚みが災いし、閉めたはずの戸がひらいちゃうのです。日頃から多少自信のある腕力ですが、更に筋力アップを目指し、ここの所、「うっ!」とドアを力一杯押しながら閉めるのが仕事でありました。

昨日は、春一番が吹き荒れ、そうでなくても風通しの良い古屋が、明け方から家毎うなってました。
「ガッシャーンッ!」
凄い音とともに風呂場の戸が風にあおられ、敷居に激突! ガラスがあたり一面飛び散っておりました。
「ありゃ~、こりゃだちゃかんわ!」
閉めたはずの勝手口の戸は、やはりしまってはおらず、お風呂場から勝手口へと、思わぬ風の通り道となったのでありました。

年明けからの大当たりは、これで何度目?でこぼこ家族にお似合いのどじ話はつきないので、ちと用心、用心。

(2005-02-24)

No.198
春の足音

冬の寒さ対策に貯えた2キロばかりの霜降り肉?をそぎ落とす宣言をしました。さっそくと、今日の用事は寒風をものともせずに、えっちらおっちら自転車漕いで出かけました。事務所から公園抜けて銀行さんを2箇所、ぐるり市街を北から南に抜けて建具やさんへ立ち寄り、帰りは郵便局で仕事の用事をこなして走行距離は5キロ。

公園の梅園の梅がほころび始めていました。白も紅も。小竹藪では鳥のさえずる樹の下でおじぃさんがひとり瞑想にふけっています。藪を抜ける坂の小道は朝の雪が凍ったままで、ばりばり音たてて快走しましたが、実はちと恐かった。郵便局の近くの家では、前庭のジンチョウゲが蕾を膨らませかすかに匂っています。風や香りや音を感じる自転車は心が弾む。お使いは自転車に乗って♪

(2005-03-01)

No.199
ボンタンアメ

春のなごり雪が、全国を驚かせているようです。アナウンサーがニュースで「1センチも雪がつもりました!」となんか大事のようなので、ちと苦笑いしながら聴いてます。でも、慣れない人にとっては、思いがけず足元が掬われることもありますので、やっぱり気を付けて下さい。

で、なごり雪になるとそろそろ文旦がでまわる頃になり、文旦というとボンタンアメだなと、ぽこにゃんの鰹節を買いに出かけたスーパーで久し振りに手に取ってみました。来週のスキーには知り合いの子供達もくるかもしれないし等と考えながら買ってきました。ちいさなかわいい箱といい、懐かしい文字のデザインといい、しらずしらず笑顔がこぼれて口元がほころびます。やさしいオブラートに包まれて程良いやわらかさがまた嬉しい♪

(2005-03-04)

No.200
パッチギ!

松山猛さんのエッセイをおもしろく読んでいたこともありますが、なによりも、イムジン河の美しいメロディーに惹かれ、かつて何度も口ずさだ唄だけに、観に行かないわけにはいきません。あの歌が、唄ってはいけない歌だったとは、知りませんでした。美しいメロディーを誰が止めるんでしょう。「かなぁしくって、かなしくてぇ~♪」映画を観ながら、私も大声で唄いたい気分でした。

富山には有名な黒四ダムがありますが、そのダムの建設に伴い沢山の方達の犠牲で高熱隧道も作られました。桃源郷のように美しい紅葉で有名な秘境へのルートにもなっています。現場に勤めるEさんの案内で毎年下廊下や十字峡、白竜峡の紅葉狩りを愉しんだのですが、熱い隧道を通る度に手を合わせてうつむいてしまいます。そのあたりのことは、吉村昭さんの小説「高熱隧道」に詳しく書かれています。生野のトンネルもそうだったとは全く知りませんでした。

若い頃観た別役実さんの不条理劇や安部公房さんの世界等も思い出され、度々の暴力シーンの表現も痛い気持ちでみました。小心者の私は、殺人のある時代劇は、小さい頃から好きにはなれず、片目で観ていたのですが、平和を切望した21世紀になっても戦争という名の大量殺人が止まない人間社会の愚かさを想うと、殴り合って喧嘩する止めようのない怒りと悲しさと不条理さが判らないでもないのです。でも、やっぱり「死」はいけない、許せないという思いで、お葬式のシーンにも、泣かされました。

国ってなんだのだ?地球のどこに誰が線を引けといったのだ?誰がゆるしたのだ?誰がそれを望むのだ?人間の平等と平和の宣言を高らかに唄った住井すゑさんの「橋のない川」を胸熱くして読んだ事、なんどもレコードきいたジョーンバエズさんの澄んだ歌声、友の部屋で月をみながら小さなポータブルレコードで聴いたベートーヴェン、アーサーミラーの「セールスマンの死」を観た衝撃、早朝3時起きで出かけた登山やスキー等若かりし日のいろんな事を思い出しながら見ました。

そして青春の愚直なまでの純粋な想いを今日まで忘れていない作者のロマンに涙が流れて止まらなかったのです。是非、もう一度観たい映画です。

(2005-03-04)