雑記帖 - つれづれのことのは
- No.171
神無月 -
あっという間に10月がやってきました。先日までの暑さが嘘のような肌寒い風が吹き、夕方も6時が近くなるともう暮れなずんできます。昨夜は劇団東演「長江─乗合い船」をみました。「袖すりあうも他生の縁」ぎくしゃくしていた夫婦と同居人との仲も、波に揉まれながら浮き沈みするうち、固い絆で結ばれてゆく人間の情の確かさに心温まる思いがしました。中国のおばさんや船長さんが、ほんとにそれらしくうまい演技で拍手しながらうなりました。百年修得同船渡、千年修得共枕眠。
(2004-10-03)
- No.172
「田舎亭」と「なかひがし」 -
今朝は、嬉しくて、高台寺さんの鐘の音でかっきり5時には目が醒めてしまい、しばらく読書の後は、トさんとお散歩に。何度も京都にいっているのに高台寺周辺は歩く機会がなく、かねて行きたいと思っていたところだったのです。石塀小路の街並みの美しさは、まさに日本建築の美。片泊まりの宿「田舎亭」さんは、古く傾いだ処も大切に手入れされ利用されるているのが、とても気に入りました。小さいのですが、お風呂も木造り、とてもよく手入れされて気持ちよく、お布団もお気に入りの煎餅布団でぐっすりねむりました。
朝食は、昆布出汁のきいた湯豆腐、野菜の湯葉包み、里芋と烏賊の炊合わせ南瓜の含め煮、温泉卵、焼き魚は若狭がれいの一夜干し、エノキと若布の味噌汁、漬け物そして御飯もおいしく、朝の散歩でお腹もすいて全部たいらげました。朝食を食べる1階の座敷は、こじんまりした坪庭に面し、つわぶきや葉蘭、南天、山帽子に椿に竹と見慣れた樹もの葉ものが取り合わせよく配置され、苔も手入れされてお洒落な石の橋がさすがでした。こんな風なお庭もまたいいなという雰囲気。私にも手入れできそうな広さというのが、眺めていても一番しっくりします。
昨夜の「なかひがし」さんは、味はもちろん、その考え方もとても気に入りました。和食はつきるところ、ごはんとめざしとおしんこ味噌汁と日頃思っています。草をはむという名の通りで、野菜の取り合わせが種類も量もたっぷりで、野菜好きには大満足。日頃の家庭料理にも通じて応用できるのが嬉しく、料理好きとしては興味のつきない「おやっさん」の話しをもっと聴きたかった。べんがらのへっついと磨き込まれた漆塗りのカウンター、きびきび働く和服姿がお似合いのおかみさんや仲居さん達の笑顔がお料理をよりいっそう美味しくさせていました。あれ以上お店が大きく忙しくならないようにと願うばかり。
(2004-10-07)
- No.173
共に生きる -
最近、北陸三県では熊の被害が毎日のように報道されています。襲われて負傷する人の数が急増しているそうですが、人里にやってくるのはまだ人を恐れることを知らない小熊も多く、熊さんがしとめられたニュースを耳にするたびに胸が痛みます。
猛暑と度重なる台風が原因とも考えられているとか。今年は熊の大好物ハチやアリがこれも気象の影響で少なかったそうです。確かに、梅の蜂蜜漬けや赤紫蘇ジュースになくてはならない蜂蜜が、今年はハッキリ品不足で値が高騰していました。養蜂家のお宅へ蜂蜜を買いにいったところ、「今年は異常だちゃ!」と嘆いておられたのです。冬眠前にドングリをいっぱい食べる筈のくまさんも、きっとお腹をすかせて「たいへん、たいへん」と人里にきて叫びたいのかも知れません。
現在もまたぎの方が活躍される東北の山では、人里で発見された熊は、捕獲してまた山にもどしてあげる方法が一般的だとのこと。自然保護と動物との共生を真剣に考えてゆきたいもんだなぁと考えさせられるニュースです。だって、「熊さん、八つぁん」といえば、代表的な落語の登場人物となるほど、日本人に愛されて来た筈なのですから…。
この夏の話題の一つだったオリンピックが開催されたアテネの街における動物との共生の話題をひとつ。捨て犬猫や迷い犬猫、そして野良犬猫がとても多かったアテネでは、オリッピック前に大捕獲作戦が展開されました。動物にはチップを埋め込み、予防注射を打ち、避妊手術がほどこされ、その間に飼い主が現れるのを2週間待ち、飼い主が現れなかった場合は、もと生息していた場所に帰してやるそうなのです!素晴らしい人間の知恵とやさしさ。年間40万匹もの罪のない犬猫達を始末してしまうのが日本です。なんという違いでしょう。
(2004-10-07)
- No.174
昆布巻き -
今日は雨上がり。昆布を沢山頂いたので、これも到来物の鮭を巻き込んで昆布巻きを煮ることにしました。いまはもういないじぃちゃん(父まさおさん)の大好物だったので、ばぁちゃん(母きみさん)は、いつもいつも昆布巻きを炊いていました。「かぁさんの、昆布巻きが一番うんまいぞ」が口癖で、海産物屋さんの自家製昆布巻きを買ってきても、ちぃとも喜ばず、箸もすすまない。材料は一緒な筈なんですが…。母の味付けはとても薄味で、昆布の柔らかさがとろとろという程でもなくほっくり軟らかく煮ふくまって、ほんとに美味しかった。炊きあがりの頃に「どれどれ」とよくつまみ食いしたなぁ~。今日は、とぎ汁で下茹でした大根と人参・牛蒡・生椎茸を炊き合わせてみました。なかなか、まだまだ、母の味におよびません。
(2004-10-10)
- No.175
クレーメルシリーズ -
三夜連続でギドン・クレーメルさんとクレメラータ・パルティカを金沢から富山へと「追っかけ」しました。曲目はショスタコービッチとモーツァルト。ブタペストのレストランで、見事にヴァイオリンを弾いてみせてくれた大きな目の少年を思いだしました。彼は、演奏が終わった後も、親の手元を熱心にみつめ何度も繰り返し練習していました。先日観た「わが故郷の歌」のクルドの人々の音楽する姿も重なり、躍動的な東欧の音の雰囲気に浸りました。
モーツァルトを聴くと、いつもベルトラムカでみた自筆の楽譜が頭の中に蘇ります。勢いのある流れるような筆跡で、カッカッというペン先の音が聞こえてくるようでした。次から次とあふれるてくる音の構想を書ききれず腱鞘炎になりそうだとモーツァルトさんは毎日のようにせっせと書いた手紙で嘆いています。悪妻で名高い妻は、苦労して工面した生活費も一夜のパーティで使い尽くしてしまうし、出張で移動するたびに、乗り心地の悪い馬車の為に疲弊し、気の合わない司教に悩み、モーツァルトさんの心労と苦労は耐えることがなかったようです。あまりにも明るすぎるモーツァルトさんの音楽は、なぜか涙が溢れるほど繊細です。
(2004-10-19)
- No.176
台風の被害? -
そのいち
あまりの強風に、只今改修中の古家が心配になり、仕事の帰りに偵察にでかけた処、案の定、とりはずして立てかけてあった格子戸が横の空き地に倒れ込んでました。やれ立てなおさんと、持ってみてから判ったのですが、想像をはるかに超える風圧に足下すくわれて、よろけて、水たまりに革靴のままベシャッ!「一間幅の格子戸を持ったとたん突風にあおられ吹き飛ばされた老女1名怪我」と発表されるとこでした。そのに
お向かいでは、現在倒産物件が取り崩し中。ちょうど10時を過ぎ、風が一段と強まってきたあたりから、トタンや波板が通りを飛び始めました。「と~さん、と~さん、タイヘイン!」と気の小さな私が大騒ぎしてたら、消防車がかけつけてくれました。そのさん
今朝みざめてみると仏間の畳がいっかしょぼろぼろに。雷で、大風で、地震で、外猫の侵入で、とその度にぼろぼろにされる場所がふえてゆきます。「ぽこちゃん、だめでしょ」と叱ると、耳をふせながら「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃもしとらん」。(2004-10-21)
- No.177
地震対策 -
今朝は6時前にふっと目覚めたと思ったら、それは余震のせいでした。ぐらぐらっときて「と~さん、と~さん、また地震」と起こしてしまったので、トさんは早朝から事務所へ仕事に。私もなんだか心配で寝ていられない気がして起き出しました。
距離は離れているとはいえ、隣県の新潟で中越地震が起きて以来というもの、心配性で気の小さな私はどうにも気持ちが納まらず、食器棚の入れ替えを始めました。普段は重い物から軽い物、大きな物から小さな物へと、下から順に上の棚へと並べていたのですが、どうも上の方の沢山の小皿や小鉢が気になってしょうがない。
旅も好きなら骨董も買い物も好きと来ているので、ついつい思い出に「この逸品・この一品」と買い込み、いつの間にか歳の数より(はるかに)多いと思われる種類の器類が揃っています。散乱した食器やガラス類の様子が報道されてから、被害が少なくなくなるように、高価な物や不安定なものをなるべく下の段へと移動することにしました。熊の出没と猛暑に台風に地震にと天変地異が相次ぐ今年は、ほんとにどうなるのだろうと、毎日食べる魚や野菜が心配になるのです。
(2004-10-25)
- No.178
はたきと箒と雑巾 -
先日、冬に備えて煙突掃除にきてもらいました。 ところが、煤を吸い込む筈の持ち込みの掃除機の紙パックがはまっていなかったから、さあたいへん!!あっという間に、部屋中に煤の黒煙が立ちこめ「ううっ、げほっ、げほっ」
新しい漆喰や木製のくさまきの戸も当然すすけてしまい、気持ちは泣きそうなんだけど、ストーブ屋さんも、煤で黒くなっているし、ぽこさんも私も鼻は黒いしで、まるでチャップリンの映画かミスタービーンの登場人物になった気分で、怒るよりも笑えてきて、トホホホと泣き笑いしながら掃除しました。その時、掃除に役に立ったのが、はたきと箒と雑巾。壁にひっついた煤は掃除機ではきれいにとれず、なんと言ってもはたきが一番。そして、床は、ほうきで軽く掃いた後は雑巾がけにきまり。
その昔、小学校の家庭科の時間。「はたきや箒と掃除機との差を科学的に比較する」という実験映像を授業で見ました。単細胞でバカ正直で素直に「きょうつけい!」をする子供だった私は、「そのとおり!」と簡単に洗脳されすっかり思いこんだものです。それ以来、お茶がらをまいて箒で掃くのも、はたきをかけるのも、かえってゴミをまき散らしているのだと証明していた映像が頭をかすめるようになってしまいました。もしかするとあれは家電製品会社の製作だったかも知れないと今となっては思いますが、教育というのはなんとオソロシイものか。
実は、箒は畳に優しく傷つけず、音も静か。掃くことで畳の艶も増すし、戸の桟に貯まった埃の掃除にもむしろはたきの方が効果ありだと今では思えるようになってきました。その上、はたきは、使い古した衣を利用できる再生利用製品。竹はそこらじゅうにあるのを利用しただろうし、そうそう買う必要もありません。昔、母が汚れたはたきの先を取り替えては糸で結わえていたことを思い出します。そして、何より電気のお世話に成らず、地球にやさしい方法なのです。はたきや箒を見直しているこの頃です。
(2004-10-28)
- No.179
風が吹けば -
ラプラドールのアニちゃんと事務所の前の公園を散歩していた友人のたっちゃんが、事務所に駆け込んできました。「台風被害で伐採された木々が山になっとる。造園やさんも処分が追いつかんから、好きに持っていっていいがやと」。突然舞い込んだ情報に、「すぐやる課」としては動かざるを得ません。受話器を取り上げ、手配と段取りにかかり、かくかくしかじか、あれあれこれこれ、よろしく頼む。大工の☆さんにトラックをだしてもらい、たっちゃんとパートナーのゴママさん、6人がかりで、山と積まれた桜の樹をトラックに積み込んできました。
「風が吹くと桶屋がもうかる」ではないけれど、いつもとは逆の風が吹いた今度の台風では、老木や人工植樹の木々の被害が目立っていて、造園屋さんと廃棄物処理業者さんは大忙し。裏の神社の木もひどいことになっているし、トさんが通い親しんでいるテニスコートのヒマラヤ杉の大木も根こそぎ倒れ、工場などの外壁に添って植えられたヒマラヤ杉等も将棋倒しのようになっています。最近の熊の被害についで、風で被害を被る惨状のひどさに悲しい思いをしながら、自然に逆らった開発や道や宅地造成のもろさを目の当たりにして、つくづくと我が身を振り返ることしきり。河川敷に作られたテニスコートや市民菜園もすっかり水に浸かり泥沼化していました。
夏の旅で訪れた沖縄・竹富島のシンプルで自然に溶け込んだ暮らしぶりを思い出します。いろんな意味で、改めて土と共に生きる「身土不二」、三里四方のもので生きる「地産地消」、風と水と空の動きと共にある暮らしを足元から見つめ直さなくてはと考えさせられます。さて、まずは空き地に運び込んだ採木を薪にする作業が控えています。地球に優しい暮らしは、心愉しく働くことよ♪
(2004-10-30)
- No.180
ぽっかん -
「ぽっかん」というのはいりがしのことです。その昔 ぽっかんやさんがくると、どこからともなく集まってきた子供達の目、目、目が取り巻いていました。「ボッカァ~ン」というのが、待ち遠しくて、コワイモノ見たさに どきどきしながら耳をふさいで遠巻きにして。そんな懐かしいぽっかんを作ってくれる「ぽっかんや」さんが市内に1軒だけ残っています。先日、有機栽培の玄米を持ち込み、作ってもらいました。半分は加糖なしのそのままに、半分は中白のお砂糖をまぶして。出来上がってきたのを、小袋に詰めて、仲良しのお友達や日頃お世話になっている人達に配り歩きました。手渡すと、「わぁ~、ぽっかんや!」と、みなのヒトミが輝くのです。
(2004-11-08)