※Sフロイトの『夢判断』について:J     

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【J・B】

 ここに、いろいろに解釈される要素が、幾つも織り込まれて、複雑なものになるのだが、わかりに
 くいのは、ウェイトがはっきりしない文章であるからというのも、確かだ。

 イルマの病気の症状も赤痢の治療に関しても、現実とかけ離れていて、ナンセンスなもので、全体
 を通してみると読み方によっては訳の分からない夢になってしまう。事情を考えて解釈すれば・・
 フロイトの指導でも、イルマの病気は良くなっていないのだが、それはイルマが彼の治療法を十分、
 受け入れていないからフロイトに責任はないということを表わした部分、といえる情景があること。
 それは、他に病気があるのであって、精神科が専門のフロイトに責任のない、内臓関係の病気らし
 いという話しになって行く。しかも、そのような病気の原因は、前日にフロイトの治療に文句を言
 ったオットー医師の不適切で、不衛生な注射にある・・という意味を中心に持つ夢なのである。
 その幹に、夢の中の現実と違った幾つもの情景、現象が重なる。その変形された部分を、フロイト
 は各々、理由を見つけ説明していく。
 
 イルマののどの白い斑点のディフテリティスの症状は、現実に「ディフテリアの偽膜を持っている
 」といわれた、イルマの友人の女性(もっと知的な人物と書かれている・・)の事が、重なってい
 るらしく、また 夢の中のイルマが、現実とは違った「青白くむくんだ皮膚と、偽歯」を持ってい
 るのも別のもう1人の女性の特徴であって、そのもっと扱いにくい女性と合わせて3人が、イルマ
 の中で 一緒になっているのは、イルマの扱いにくさと、もっと別の知的な女性を患者にしたい気
 持ちの反映 ・・・とする分析。

 注射したプロピール製剤から、トリメチラミンを連想して、しかも強調するゴシック体で夢の中に
 浮かんだのは、この性化学に関する物質に関するフロイトの学説に対して理解を示してくれた友人
 のことがあるからで、彼は副鼻腔疾患に詳しく、イルマののどの腫れ物にも関係していて、それを
 診察してもらってもいる。この友人を通じてたイメージで、自分の学説の将来を案ずる気持ちが夢
 に反映されている・・・

 実際に一緒に仕事をしていた、オットーとレオポルド医師をフロイトは、性格が対比的だといい、
 夢の中で、オットーをけなし、用心深いレオポルドを賞賛する意図が、夢の中にあるという・・

 Dr、M医師が、(唐突に?)赤痢Dysentterieと診断したのは、ディフテリアDiphtherrieの方に、
 音が似ているということや、フロイト自身の診察したヒステリー性腸疾患患者が、エジプトにいっ
 て、赤痢と誤診(?)された最近の出来事と重なって、ヒステリー性の病気に疎い医師への嘲りの
 気持ちがあって、Dr、Mへの全体的な批判の気持ちが投影されている・・・・という分析。
 
 その他・・etc

 フロイトのこういった描写を読んだ印象は、確かに 我々が日常よく見る夢の姿ととても近い、
 “ある種の生々しさ”の感じが、表れていると云わねばなるまい。ひとつは、この夢のフロイトに
 元々ある傾向のペダンテックなような叙述が、却って細密なリアルな印象を生み出していることが
 挙げられる。そして、それまでの小説や、伝統的な物語のなかに登場するような“夢”描写と、一
 線を画す描写であることは、確かであろう。しかし、この分析が終わって、1ページくらいの記述
 の後、

 この夢が、オットーやイルマに対しての責任転嫁にあり、そこから、夢の内容は、ひとつの願望充
 足であるという結論にまでもっていくのは、重要なところだけに普通なら強い疑問が湧くだろう。
 ここまでの“分析”が、いかにフロイトの自然主義文学風の人間観察力として、印象に残ったとし
 ても、反論のしようのない当人の夢の解釈に関することでもあるわけだから。しかし、確かに フ
 ロイトの叙述スタイルそして、何よりそのテーマとする問題の”異様な力”のようなものが、本来
 なら見えて良い話の骨格の弱点を相当見えにくく、目立たなくしてしまっている現象が、ここには
 実際あるのである。
 

 





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