※Sフロイトの『夢判断』について:K     

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【Kb・C】

  ”命題の一般形式”というものを、とらえる際の前提となる考えは、”構造的系列”とウィトゲン     
  シュタインが呼ぶもので、

  『 わたしは、構造的系列 ”a、0’a、0’0’a、・・・・・”の一般項を、”〔a、x、0’x〕”
    と書き表す。括弧で囲まれた表現は、一種の変数である。括弧の中の最初の項は、構造的系
    列の初項であり、2番目の項は系列の任意の項xの形式であり、3番目の項はxの直ぐ後に続
    く系列の項の形式である。                    (TLP 5・2522) 』


  ウィトゲンシュタインの系列も、xがyに先立ち、yがzに先立つとき、xはzに先立つ・・・・・と
  いう、いわゆる移行性の関係のような変化した記号列の一連の一般に多く見られる形と言ってよい
  が、正し、フレーゲ、ラッセルが自然数列などを定義するときに使った”遺伝的関係”などの発想
  に、根本的に批判する立場からこの”系列”という表現は選ばれている。すなわち、ある共通性と
  変化を持った記号の連なりは、見る人に何かそれ自体、なにかある対象を表しているような、錯覚
  を与えやすいが、それは真理関数などとは根本的に違うのである。こういったものは、”操作”と
  いわれるもので、ウィトゲンシュタインの”論理的形式”という考え とともに、事象(事実)を
  語る命題とはっきり別の次元に置かれることを、強調するのが『論考』の独自な最も中心的な主張
  といっていい。すなわち、こういったっものは、初項とある項、そして続く項、というような変数
  での表示しかできない。aということがらに、操作”0’ξ”(ξは操作の元となる要素の命題群
  を表す)のを3回適用したことは、”0’0’0’a”と書き表される。だから項が3つ以上あれ
  ば”a、0’a、0’0’a、・・・・・”となる。これはもっと一般的に考えれば命題が、3つ変化した
  かたち、初項とある項、そして続く項、となる。
  それが、であり、この場合の”操作”が、要素命題をくっつける”否定連言”に
  なり、そしてそれだけで済むのである。というのは、シェーファーの棒記号でも結局そうなったよ
  うに『プリンキピア・マテマティカ』などで基本的な記号と考えられた「・」「∨」「⊃」などの
  個別的記号は、別に不可欠のものでなく消失しうるのである。すなわち、その所属する命題全てを
  否定する操作を、「N」という記号を用いて表すと、例えば
  否定は、「〜p」=「N(p)」、選言(または)は、「p∨q」=「N(N(p、q))」で、
  そして、連言(かつ)は、「p・q」=「N(N(p)、N(q))」などとなる。この「N」
  を、ウィトゲンシュタインは所詮一種の論理定項のようなシェーファーのようなレベルでなく
  命題の真理値で表してしまおうとするのである。すなわち、

  『 あらゆる真理命題は、(---W)(ξ、--) という操作を、
     諸要素命題に継続的に適用した結果である。        (TLP 5・5)   』

  これは、あらゆる命題は、要素命題を複合して出来たもので、その複合の仕方は対応する真理の値
  、真偽すなわちWとFとの、関数の形(真理関数)をとる。要素命題は非常に多数となるが、重要
  なのは2者の関係となるから、例えばpとqの2つの要素命題がある場合、ξという扱われる要素
  命題の素材を表す右の括弧内は、(p、q)で表される。
  p、qの2つの場合その真偽の組み合わせは全部で4通りしかなく、その組み合わせの順序を定め
  ておくとpとqの作る関係は、その順序に対応した各々の真偽の値が違ったパターンで、固有の順
  序を持って表される。すなわち、「p・q」という関係なら、pqの両方とも真である場合しか、
  2者の作る関係で真は出来ないので(真偽偽偽)という固有の値を作り、これが左の括弧の中身と
  なる。(これらを掛け線の欄で表せばいわゆる”真理表”となる)ウィトゲンシュタインの写像理
  論によれば、偽は事実と対応がないということを示すので、空欄のーで表すと(W---)となる。
  また「p⊃q」も数理論理学では結果的に包含関係というより真理関係のみで理解されるようなも
  のであったから、その真偽値のパターンの一つとして、(--W-)となり、また 同語反復命題、
  トートロジーはどの場合も真になるので(WWWW)、逆に矛盾命題はどんな場合も偽となるので、
  (----)となる。だから、所属する命題全てを否定する「N」は、(FFFW)もしくは(---W)
  のパターンで表されるし、ξとなる要素命題が増えても、この全部否定する場合の真理値のパター
  ンは必ず最後だけWとなる値を示すので、Nは一般に(---W)となる。
   
  だから、

  『 命題を項に持つ、括弧にくくられた表現ー括弧の中の各項の順序は問わないーを、私は
    ‘()’という記号で示すことにする。‘’は括弧でくくられた表現の各項を値と
    する変数である。変数ξの上に引かれた横棒は変数が括弧の中その全ての値を代表する
    ことを示している。    
   ・・・そこで、ξが仮に3つの値P、Q、Rを持つとすると()=(P、Q、R)となる。』

  『 (---W)(ξ、--)の代わりに、N()と書く。
    N()は、命題変数ξの全ての値の否定である。     (TLP 5・501&502) 』

  と、記号表現が定義されれば、
    は、 が、始めに与えられた(実際的にはわれわれの使用される命題から
  要素命題の存在が要請されるといえるのだが)”すべての要素命題”を表すので(ラッセルの序文
  より)  それを素材として ”任意の幾つかの選ばれた命題” が  であり、それをさらに
  (---W)(ξ、--)という操作を括弧を使って何度も加えると要素命題をつなげていくことが出
  来るから(N())、また真理関数の表現の中に全称、特称命題も含むようになるので、原理的
  には、あらゆる命題を構成できる。(否定の特称の否定は全称となる・・(5・441))また、
  この、記号表現での”すべての要素命題”でなく”適当に選ばれたある命題の要素”であるなら
  ば、命題から命題を作る一般的形式になるから、それを()とするならば〔、N()〕
  は、”操作”というものをも命題に関して別様に一般的に表すことが出来るようになる。
  しかし、半面、此処で重大なのは「⊃」「〜」「∨」「・」でつないでいくのと違って、むしろ
  現実的に何をやっているか、(---W)を介してやっていくということは非常にわかりにくくなる
  し、非常に煩雑にもなることで、むしろ、単にこの記号表現の手続きを説明するだけでは何の理
  解にもならないのに等しい。
  実際の記述ではウィトゲンシュタインも、全称、特称記号を使うわけだし、その消去だけが問題
  である訳はない。こういった命題の一般形式の導入に関する論理学的記述は、論考の大半を占める
  わけだし、そこはまた多く論理定項、限量記号にかんする記述でもある。ここで最も大事なのは、
  結局 要素命題の全体構造から、直接 論理学的題材(”論理の命題”)が、一貫して導き出され
  うることを証しているのであり、もっといえばわれわれの言葉の文章の本質から、論理学全体を導
  き出しうるということでもある。
  すなわち、論理定項や限量命題は全命題の構造の中に消去しうるものであり、論考の最大の主張は、
  (フレーゲ、やラッセルらとの違い)は、『・・私の根本思想は、次のものである。「論理定項」が、
  なにかを代表することはない・・』として、論理定項などに対する、”独立した”過大な錯覚を消去
  するための一貫した表現を与えることにあるのを、を強く意識しないでは 理解は殆ど混沌とした
  煩瑣なだけのものとなってしまう。
    (こういう論理定項に関する全体のつながりと必要性を、意識して『論考』を“説明”して
     いる解説書の類を少なくとも、私は全く見たことは無いし、この書の肝心なところを、誰
     も判っていないのでないか、私はといいたくなるのだが・・・・)

  だから、同じく論理定項がただ必要というなら、有り得ない書き方がされている以下の重要な部分
  など、その他『論考』の記述の多くの部分が さ程、まじめには受け取らないで、”ある種の言い
  方”として流され済まされてしまう。




  『‘∨’‘・’などによって、互いに結ばれるものが、命題でなければならないのは、われわれの
    シンボルにとって、自明のはずである。そして、これは、現にまたそうなので、pとqという
    シンボル自体が、実際‘∨’‘・’を前提としているのである。もし、p∨qにおける記号p
        が、複合的な記号を表現するに役立たなければ、pそれだけでも意味を持つことが出来ない。
    さらに、pと同じ意味の記号、p∨p、p・p、等も意味をもつことが出来ない。 しかし、
    p∨pが意味を持たぬ時、p∨qもまた意味を持てない。        (TLP 5・515)』



                                     (2002/9/10記)



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