※Sフロイトの『夢判断』について:K
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【Kb・A】本稿はフロイトのつながりから、ウィトゲンシュタインの論述を考えてみる流れになってい る格好なのだが、別にウィトゲンシュタインの哲学が『心理学的』だと、私は述べたいので 全然ない。例えば、 『4・1121 他の自然科学に較べ、特に心理学に親しい訳でもない。・・・』 (論理哲学論考・TRACTATUS LOGICOーPHILOSOPHICUS・・・以後TLPと略記) とはっきり言っている。(ダーウィンの理論と同列にして・・・4・1122) しかし、 先程の引用部分に直ぐ続けて、 『・・記号言語に関する私の研究は、かっての哲学者の論理の哲学に不可欠とみた思考過程の研 究と一脈通じてないだろうか?ただ、彼らの多くはつまらない心理学的詮索にまきこまれ た。そして、同じ危険は私の方法にも潜むものだ。』 と、結ぶのであり、心理学的要素は危険要素と言いつつも、自分のやり方の中にも根本的には 存在するのだと認めていることに注意する必要がある。『心理学の哲学が認識論である。』と 言われるにせよ その心理学的なものとの微妙な関係には明らかにより、注目すべき糸口があ る。 一般に、従来 ウィトゲンシュタインの哲学は、何か実証主義的もしくは何らかの科学的ムー ドの思潮のために、都合良く全く部分的に また表面的に引用され利用されるのにおあつらえ 向きの箴言形式の本とされる傾向があって、ウィトゲンシュタイン自身が真面目に主張してい る発言ほど、エキセントリックな扱いをされ、素直に受け取られてないところがある。 まず、 『4・0312・・・私の根本思想は、次のものである。 「論理定項」 が、なにかを代表することはない。 事実の論理がある記号によって代表されることはない。』 (TLP) この発言は、極めて重要にも関わらず その”論理定項”の扱いを巡って、『論考』の哲学の特 徴が、十分論じられることはなかった。 『論考』の中心的な主張のひとつであり、また いろいろな理由においても、この書の内容を典型 的に示すものに ”命題の一般形式” の提言があるが、これは、「否定連言の連続的適用」の考 えを元にしている。そして、これはラッセルによって書かれた序文(結果的にこの序文が付いた形 で殆どの場合出版されているが、著者本人は強く不満を表明してもいた・・・)で『シェーファーに よって示された”与えられた命題の組みの真理関数は、すべて「pでないかqでない」または、「 pでない、そしてqでない」の2つのいずれか1つで、構成できる」という知識を前提として、後 の方の真理関数を利用する・・』ことを機縁として出来たものだと説明しているし、確かにTLP 5・ 1311で、「内的関係が明らかになる・・」と”シェーファーの棒記号”による表現を導入している。 実際、否定連言による構成と”シェーファーの棒記号”による論理定項の扱いとは、機縁と見られ ないこともない。 すなわち、シェーファーの記号法で、記号論理の基礎の表記をするなら p|q = pでもなく、qでもない。(TLP5・1311から)であり、 同様に否定記号〜 と連言記号(そして)・を用いるなら、 p|qは、〜p・〜q さらに、選言(または)∨は、 p∨q=(p|q)|(p|q) となり、それを またTLPの「.」による区切り記号を用いれば、p|q.|.q|p =p∨qである。 しかし、最も単純なはずの pは、(p|p)|(p|p) 同様に = p|p .|. p|p となっていしまい、また、 否定のない連言 p・qの方は、 すなわち、p|p.q|q .|. p|p.q|q となってしまう。 ”プリンキピア・マテマティカ”のような次々に新たに出てくる記号の羅列を、当然と思えばそ うも見えないが、上記の例のように、本来、表記が一般的にずっと複雑化し、また その各々の 場合の違いを認識しにくいことを考慮しなければならない。 ∨や〜といった”直感的な”イミが失われてしまい、元来 簡潔な記号法を主張するウィトゲン シュタインの立場と一見 全く逆の表記であるようなのがシェーファーの方法である訳だが・・・ しかし、 『・・・これらの表示方法は、・・例えば、‘〜p’‘p∨q’という表現方法によって 代用される、という点で共通している。 (真理関数の表示法の共通な性質について、TLP3・3441)』 と、言われるし また、(TLP5・42)でも、 『・・・フレーゲやラッセルののいう論理的「原始記号」(最も基礎的な論理記号・・・本稿筆者注) が、交互に定義可能であるという事実は、すでにこれが原始記号でなく、いわんやいかなる 関係も、表示しないことを教えている。 そして、明らかに、‘〜’と‘∨’によって定義される‘⊃’は、‘∨’を定義するさいに ‘〜’と共に用いる‘⊃’と同じであるし、また後の‘∨’は先の‘∨’と同じである。 以下同様に考えよ。 』 と、されるように∨や〜など(また、含意記号⊃は、LWに限らず一般的に言って2つの命題の真偽 関係によって定まり、日常的意味合いでは使われない典型で、他の論理記号との関係で実際表され ているのが論理学では普通である。)が、独立的存在でなく、相互的なものであることを、この書 の全体で何度も強調されている。すなわち、 『・・・例えば、2重否定によって肯定命題を作ることが出来る場合。否定は、何らかのイミで 肯定の中に含まれていたのだろうか。〜〜pは、〜pを肯定しているのか、あるいはその 両方なのか。〜〜pという命題は、1つの対象を扱うごとくに否定を扱っているのでない。 というより、肯定の中にはすでに否定の可能性が予定されているのだ。・・・(TLP5・44)』 『・・・〜pは、pが偽の時真になる。・・・では、波線〜は、この偽なる命題をどうやって世界と 一致させることができるのか。しかし、〜pにおいて否定を行っているものは〜でなく、 むしろ、この表示法にあってpを否定するすべての記号に共通な要素なのだ。したがって、 それは〜p、〜〜p、〜p∨〜p、〜p.〜p等々を無限に構成するための共通な規則な のである。そして、この共通要素が否定の影を写し出す。 次のようにもいえる。pとqをともに肯定する全てのシンボルに共通しているのがp.q であり、pないしqを肯定するすべてのシンボルに共通するのがp∨qである。 (TLP5・512&5・513)』 だから、シェーファーの‘|’のような記号は、〜や∨のような独立した意味合いを持たず、それ 自体右も左もないものであり、(〜の記号は、〜で打ち消すことがその本質であるような表示であ る)その否定が肯定と全く別のものと思わせず、同等なものとするし、何か対象を扱っているとは 思わせないほど、消極的な記号であることによって、ウィトゲンシュタインにおいても、内的関係 をより表した記号といえるのである。さらに 『・・・p∨qと〜pから、qを推理するとき、このような表示方法ではp∨qと〜pの命題間の関 係は隠蔽されてしまう。だが、例えばp∨qの代わりにp|q.|. p|qと書き、〜pの代 わりにp|pと書くと内的な関係が露わになる。・・・ (TLP 5・1311)』 といわれるのも、シェーファーの記号により、表現がある一元化をするので この対称的な記号の 左側を比較すれば、(LWにおいてはこのような見方は重要で、例えば論考の立方体の投影図は同時 にプリズムの結合した図となるetc)単純に包含関係が見て取れ、否定によってqが推理できるし、 項を増やしても、fxから一つの項faが推理できるような関係を示すことに置いてより内的関係を表 している。 とはいえ、シェーファーの記号法は、むしろ、単調化、無性格化の進んだ記述としか見れない面が あるし、序文でその名をわざわざ付け加えたラッセルも交叉定義で真理関数を展開する方法自体は 「プリンキピア・マテマティカ」ですでに述べておいた考えだと同時に宣伝しておいてある。 実際、ウィトゲンシュタインも本文で、シェーファーの名前を特に挙げる必要を感じなかった程度 の評価といえるだろうし、ラッセルもまたウィトゲンシュタインの主張を”シェーファーの発見” に留まるものでなく、さらに『・・・ところが、W氏はきわめて興味深い分析を行い、この手続きを 一般化された命題の場合、すなわち、当の真理関数による独立変数の値となる命題が枚挙によって 与えられず、ある特定の条件を満たすものの全体として与えられている場合にまで拡張することに 成功する。・・・・』と強調し述べている。ラッセルの与えた評価はともかく、実際、全称命題、特称 命題の扱いは、ウィトゲンシュタインの意図がシェーファーと全く異なる大きな背景を持っている ことをもっと示している。すなわち、・・・
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