※Sフロイトの『夢判断』について:K     

◆ p,13 ◆

                                       


【K・D】

 ところで、
 特に、この夢の分析が判りにくいのは、このように多岐にわたる説明をこの短い夢のシー        
 ンに与え、却ってこの夢においてフロイトの云うところの本当の願望が、何なのかピンと
 来にくい点、p226で、「・・つまり、私はコカインに関する有益な論文を書いた人物で
 あり、・・自分は・・有為勤勉な大学生・・といって自分を弁護」するのが目的であり、
 そこがフロイト自身のこの夢の願望とみているようなのだが、書き方が非常にぼんやりと
 していて、また子供の頃の本を破いた原体験みたいなもののことも、そこにある程度含め
 て書かれているのだとも思う。(フロイトが、そう書いてかているわけではないのだが、
 むしろ、大きいのは千里眼的な友人が見たという「夢に関する著述が完成して、目の前に
 あり、ページをめくっている・・」p224 というイメージであって、この夢のありそ
 うな最もピンとくる願望はフロイトの今書いている本を”立派な書物として”完成させた
 いというようなもので、それを中心に上述のいろんな記憶や出来事が重なっている夢と考
 えたほうが、本当はこの夢全体を素直に理解しやすくなるということはあると思うのだが
 ・・逆にフロイトはむしろ混沌とさせたいのである・・)

 この夢が、圧縮の例であるというのは、特に「研究書」と「植物学」という2要素があり、
 これらが非常に多くの”夢思想”(夢内容でなく本人が本当に夢でいわんとしていること)
 が関係しうる「交叉点」を表現しているから、上述のような多くの夢思想を圧縮することに
 なるといい、そしてそれは、「これらの2要素が多義的である」からとする。フロイトの圧
 縮のような夢作業を、考えるとき重要なのは、上の2語のようなものが相当する多面的制約
 性という概念で、そういった要素の言葉を中心に主として夢内容が成立するとされ、また願
 望自体を隠蔽検閲する傾向から、元々の夢思想の中心から、夢内容の中心が、ずれてしまう
 移動を起こすという。ただこのようなフロイトの考えで、注意すべきなのが言葉に多面的制
 約性というものが、くっついて考えられたり言葉の圧縮、移動といったものが物理学の概念
 のように用いられていることである。言語には、使われる中で確かにある自然なウエイトを
 持つ部分、多くの注意を喚起すべき部分があったりするが、一方で言語の意味はいろんなつ
 ながりで様々に成立するものでもあり、省略・圧縮も同様である。こういう物理的な固定的
 な表現は錯覚を及ぼしやすい。もちろんこういった比喩が有効な場合もあるが、そのときは
 叙述全体をもっと見通せる、どのていどの言い方でこの比喩が云われているか常にはっきり
 するような感じで、用いないとこういった概念自体が一人歩きし、ある偏った見方を強制す
 る危険性をもつ表現といえる。

 またこの夢はフロイト自身の夢だったが圧縮の例として次に挙げられる『黄金虫の夢』(上
 巻・p373)は、『植物学研究書』の実際、複雑な社会の反映した願望であったのに対して、
 より直接的な人間の願望のあらわれた例としてフロイトが続いて取り上げた(男の夢として
 の『美しい夢』p367を介して女の夢として)とみることもできる。 

 夫が旅行中の14歳の娘を持つ母親の見た夢。
 
 夢内容としては、『・・女性は、箱に黄金虫(コガネムシ・ある時期、大量発生する”5月
 の甲虫”)を2匹入れておいたことを思い出して、外に出さないと窒息するだろうと考えて
 彼女は蓋を開ける。1匹は開いている窓から飛んで逃げていった。誰かに命じられて、その
 女性が窓を閉めると、窓の観音開きの扉にもう1匹の方は潰されてしまう。・・そこで女性
 は嫌悪感を感じる・・』
 というような、これも短い光景の夢。

 これに関して、いろいろ関連することがあるとフロイトは書いていく。


 まず、動物虐待に関する現実の記憶が関連していること。

 夢を見る少し前の晩、コップに蛾が1匹落ち込んでいて、娘が助けてやってと頼んだが、女
 性は忘れて寝てしまい、翌朝死んでいる蛾を見てかわいそうに思ったこと。
 また、前の晩、子供たちが猫を熱湯にほうり込んで殺すという話しを読む。   

 また、過去にさかのぼると
 娘はもっと子供の頃、甲虫や蝶の羽根をむしって遊んでいた。また数年前、娘は、蝶の収集
 をやっていて、蝶を殺す砒素を欲しいと言っていた。また、娘が刺したピンを付けたままの
 蝶が部屋を飛び回ることもあった。など

 娘が、蝶の収集をやりだした頃、黄金虫の大発生があり、近所の子供たちがその虫をむごた
 らしく押しつぶしていた。
 また、ある男が、黄金虫の羽根をむしって食べる姿を女性は見ている。

 そういった事実に連想的にして、その女性の愛情や結婚生活に関することが、出てくる。 

 まず、5月は、その女性の生まれ月で、結婚も5月だった。その時両親に結婚生活がとても
 幸福だと手紙を書き送るが、それは本当でなかった。
 (→5月の甲虫)

 最近、昔もらったラブレターみたいなものをまとめて読んだ。 

 昔、動物虐待していた娘と最近の蛾を助けてくれというやさしくなった娘の2面性。女性の
 2面性への連想。

 娘の1人が、モーパッサンの小説を隠れて読んでいた。またモーパッサンの『ナバブ』中に
 回春の砒素の丸薬の話がある。
 (→娘の蝶の収集に使おうとした砒素)また甲虫を潰して作る同様の薬を、その女性は知っ
 ていたという。

 クライスト『ケートヒェン』での”黄金虫のように惚れ込んでいる”というセリフ。

 黄金虫を外に出してやる(自由にする)といういいかたが、モーツアルトの魔笛の”お前に
 愛情を強制できないが、お前を自由にはしてやらぬ。”というセリフを、思い出させる。 

     etc・・・

 もうひとつ、重要なことは最近、老人臭さを感じる夫に対して「首をくくってしまえ」(こ
 れは性不全に関係する)と思ったことがある。

 こういったことから簡潔化していうと、この夢にたいして、表面的な夢内容と全く別に、結
 婚生活に関する事柄が多く圧縮されており、甲虫を潰すということは、回春的イメージが強
 くあって、ここに関連する様々な残忍さも、夫の性的不全への不満から移動して成立してい
 るというような解釈を、フロイトはしているといえよう。


 全く関係ないような短い内容の夢から、こういった解釈をフロイトは、導き出すのだが 実
 際に上述のような関連することがあり、その女性に精神的不安があり、そういったことも自
 然に連想できる状況があるとしたら、この夢から、このように読みとっていいかもしれない
 し、そういった性的方面の注意の喚起は、有効な治療になるかもしれない。ただし、先程の
 フロイト自身、本人の夢と違うわけだから、そういった分析をささえるため、本当にその女
 性にうかがわせる病的兆候があるか、挙動や周辺の人間関係を見ることも、本当は同等に重
 要なので、それ無しにはこんな解釈は、成り立たない。また、分析医の立場や傾向なども、
 ある程度考えなければならない。フロイトは実際それに近いようなことを注意としてのべて
 いるが、フロイトの文章の記述スタイルがこのような分析が、独立的であるような書き方に
 なっているのは否めない。







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