COLUMN  重金属雑談

第十六回 「ヘヴィメタルとドラゴン」

 古来、悪魔の化身とか神の御使いもしくは神そのものとして恐れられてきた、西洋で言うところの“竜”東洋では“龍”は世界中の物語や伝説の中に登場し、その姿を人々に知らしめてきました。特に「指輪物語」を始めとするファンタジーストーリーやロールプレイングゲームでもその存在は欠かすことが出来ません。もっともMMO-Massive Multi-player Online Gameでは大勢の人に毎日のように狩られていたりするわけですが。

 もちろん、ドラゴンの存在はヘヴィメタルでも欠かすことが出来ません、が、ヘヴィメタル内においては「“剣と竜”みたいな現実離れしたおとぎ話は古臭い」とアーティストから言われることの多い蔑視に満ちた対象であったりします。皆ドラゴン好きに違いないのに、恥ずかしがり屋さんが多いみたいです。しかし!そんな逆風の中、己の信念を貫き通す熱い心意気を持ったバンドも確かに存在しています。
 その中から幾つかのバンドと楽曲を紹介していきつつ、メタルにおけるドラゴンの意味を探っていったりいかなかったり。

■竜殺し

 メタルバンドの多くは西洋文化圏で活動することが主なので、必然的にそこで描写されていくドラゴンも、キリスト教的な邪悪だったり、純粋な力の象徴だったりします。ゆえに、ドラゴン退治と言う冒険が伝説として語られていきます…。

“剣と竜”と言えば、ファンタジック・ヘヴィメタルの始祖と称されるカリスマヴォーカリスト、ロニー・ジェイムス・ディオ率いるディオですが、バンドが満を持して発表したアルバム
KILLING THE DRAGON/DIO
で正面切ってドラゴンを屠る意志を示したタイトルトラックを力強く唄い上げています。

 さらに竜殺しと言えば、新進気鋭の正統派ヘヴィメタルバンド、スウェーデン出身のドリーム・イーヴルです。
DRAGONSLAYER/DREAM EVIL
 先述のディオのアルバムタイトルからバンド名を取ったバンドのデビューアルバムではオリジナルのファンタジーストーリーを基に一曲目の“Chasing the Dragon”や“DRAGONHEART”などでドラゴンの追跡劇を描き出します。

 そして、ドラゴンの追跡と言えば、ドイツ出身のネオクラシカルメタルバンドであるアット・ヴァンスの発表したサードアルバム、
DRAGONCHASER/AT VANCE
 このアルバムは「ニーベルンゲン伝説」を基にしたコンセプトアルバムになっており、ドラゴンを捜し求める勇者ジークフリードを描き出しているドラマティックな楽曲がタイトルトラックになっています。

 また同じテーマを扱っているバンドに、同郷のベテランバンド、グレイヴ・ディガーがいますが、
RHEINGOLD/GRAVE DIGGER
 そのアルバムでそのものズバリの楽曲“DRAGON”でジークフリードとドラゴンの死闘を描き出します。

 さらにドイツ出身のマインド・オディッセイはサードアルバムの、
NAILED TO THE SHADE/MIND ODYSSEY
“ST.GEORGE AND THE DRAGON”において、キリスト教における7人の英雄の一人、聖ジョージのドラゴン退治を描き出します。


 ドイツ出身のブラックメタルバンド、ミスティック・サークルはセカンドアルバム
DRACHENBLUT/MYSTIC CIRCLE
“DRAGONSLAYER”という楽曲で邪悪さたっぷりに竜殺しを描き出し、

 アメリカ出身のインペリテリは6thアルバム「CRUNCH」で
CRUNCH/IMPELLITTERI
“SLAY THE DRAGON”という曲を発表しています。


 スウェーデン出身のメロディックスピードメタルバンド、インサニアはセカンドアルバム「SUNRISE IN RIVERLAND」では
SUNRISE IN RIVERLAND/INSANIA
 “BEWARE OF THE DRAGONS”において楽曲でも取り上げ、さらに続くサードアルバムでもドラゴンをジャケットに登場させています。

FANTASY/INSANIA


 スウェーデン出身の正統派メタルバンド、ハンマーフォールもデビューアルバムで、
GLORY TO THE BRAVE/HAMMERFALL
 “THE DRAGON LIES BLEEDING”において竜が横たわる戦場を越えて、希望の地へ。

 さらにイタリアのメロディックメタルバンド、ネットでは異様に知名度が高いスカイラークの日本デビューアルバムとなったセカンドアルバム、
DRAGON'S SECRET/SKYLARK
 において、ホワイト・ウォーリアーが竜の秘密を発見します。


 ゲームや物語の世界ばかりでなく、ヘヴィメタルでもやっぱり殺されまくってます。

■使役される竜

 創作上のファンタジーでは、竜が当たり前のように存在する世界が描き出されることも、しばしばですが、その世界ではドラゴンもまるで車や道具のように描写されていきます。

 このサイトでお馴染みのヒロイックファンタジー小説「エルリック・サーガ」関連でドラゴンを描写するのはイタリア出身のドミネです。セカンドアルバムである
DRAGONLORD(TALES FROM THE NOBLE STEEL)/DOMINE
 の2曲で飛竜を支配する皇子エルリックの雄姿を鮮やかに映し出します。

 さらにイタリアからは超ドラゴン好きのファンタジックRPGバンドと呼ばれるドラマティックメタルの雄、ラプソディーのアルバムです。






LEGENDARY TALES/RHAPSODY
SYMPHONY OF ENCHANTED LANDS/RHAPSODY
EMERALD SWORD/RHAPSODY
POWER OF THE DRAGONFLAME/RHAPSODY
 ジャケットを見ての通り、今まで発表したアルバム、シングルの半分近くにドラゴンが描かれると言う徹底振りは、そのサウンドにも如実に表れており、徐々にグレードアップしていくジャケットアートと供に大仰さと壮大さがドラゴンの飛翔のように天空を駆け巡る衝撃のシンフォニックメタルを作り出します。さらにバンドの中心メンバーであるルカ・トゥリッリは自身のソロアルバム「KING OF THE NORDIC TWILIGHT」でもドラゴンを取り上げています。

 アメリカは正統派メタルの守護者、見掛けがすでにウォーリアーなマノウォーも7thアルバムで
THE TRIUMPH OF STEEL/MANOWAR

 フィンランド出身のヴァイキングメタルバンド、バトルローはデビューアルバム「...WHERE THE SHADOWS LIE」で
...WHERE THE SHADOWS LIE/BATTLELORE
 と、誰もがドラゴンの背に乗って天空を駆け巡りたくて仕方が無いみたいです。

■竜の力を見よ

 映画「ロック・スター」でも登場バンドに付けられたSTEEL DRAGONと言う名前でお分かりの通り、一般的メタルイメージの象徴っぽい、バンド名に力の象徴であるドラゴンを付けてしまった、もう抜き差しできない後戻り不可のメタル道を貫き通す決心を固めた、ある意味潔いと言うか、ドラゴンのように羽ばたいていけるか、向こう側へと突き進んでいくバンド群を紹介してみましょう。ドラゴンの名前を持ったバンドに悪いもの無し!とどこかで見たような気がしましたが、さて?

 とりあえず、xametal.netあたりで紹介されているバンド達。
Dragonhammer
 を始め、 Dragon HeartDragon LordDragonlandHoly dragonsHolydragons、 もう何ですか。ドラゴンに組み合わせる単語が尽きるまで行ってしまいそうな勢いです。他にもググッてみたら、Morbid Dragon、Spectre Dragon、Dragon Bladeとか居たりしましたが、何だか聴かなくても音が想像出来そうな。
 そんな中、メタルの生誕地であるイギリスから凄いバンドが現れました。
THE VALLEY OF THE DAMNED/DRAGONFORCE
 ドラゴンフォース!名前からして、意気込みが伝わる超高速のメロディックメタルをやってのける、期待の新人バンドです。

 とりあえず、メロディックメタル系では無いバンドを一つ。
RAPTURE/DRAGON LORD
 テスタメントのギタリスト、エリック・ピーターソンはソロプロジェクトで冷気漂うブラックメタルを作り出します。

 楽曲レベルでは、数多くのバンドがドラゴンにインスピレーションを得たものを発表していますが、ドラゴンと言えばその炎を帯びたブレスがよく知られています。  さらに勇敢な精神を表す時に、イギリスあたりでは獅子心〜ライオンハートと言ったりしますが、竜の心だと、どんな感じになるんでしょう。多分SMAPは唄ったりしないんでしょうけど。  鬼の目にも涙、は日本のことわざですが、竜の目に涙、とか瞳にはどんな力があるんでしょう。  猛女を言い表すのには、どうやらドラゴンが用いられるようです。日本でドラゴンと言えばカンフーマスターなんですが。
DRAGON'S KISS/MARTY FRIEDMAN
 元ハワイ〜メガデスのギタリスト、マーティー・フリードマンも自身のソロアルバムにおいて、スリリングなギタープレイを披露しています。  日本で勇気を試すことわざには虎の穴が使われることが、タイガーマスクの伝統から多いですが、西洋では虎の代わりに竜のようです、致死率急上昇。
 さて、こんなに力を持った竜が人間に平伏すのみで良いのでしょうか?もちろん、それに異を唱えるバンドも。
 先述のクリムゾングローリーはセカンドアルバム「TRANSCENDENCE」の“WHERE DRAGONS RULE”で数多の竜に殲滅される人間の姿を描きだします。現代になっても、なお竜の力は人間には抗すべくも無い超自然のものとして認識されていきます。
LIVIN'IN HYSTERIA/HEAVENS GATE
 閑話休題。
 そういえば、トランシルヴァニアの串刺し公ドラキュラ―もちろん吸血鬼ドラキュラ伯爵のモデル―はドラゴンの息子と呼ばれていました。

■神の如きもの

 アメリカのバンド、ネヴァーモアは4thアルバム、
DEAD HEART, IN A DEAD WORLD/NEVERMORE
 “THE RIVER DRAGON HAS COME”で川の流れをドラゴンに見立てると言うのは、どちらかと言えば東洋風の“龍”に近い概念を表しており、エモーショナルなサウンドを描き出しています。

 スウェーデン出身のバンド、セリオンはバンドのコンセプトからオカルティズムを題材にしており、その流れから北欧神話の神々、さらに黙示録の竜リヴァイアサンなどを初期のアルバムで取り上げています。






SYMPHONY MASSES:HO DRAKON HO MEGAS/THERION
LEPACA KLIFFOTH/THERION
 さらにメソポタミア神話に出てくる神であり、竜ともされるものの名前をバンド名にした
WILDHONEY/TIAMAT
 スウェーデンのバンド、ティアマットはミステリアスな雰囲気を持った楽曲を作り出しています。



 神から悪魔まで、大いなる力としてその存在を人間の心に深く刻み付ける竜は、これからもアーティストに数多くの天啓を与えていくことでしょう。でも、あんまりダメなモノを作って逆鱗に触れないように気をつけよう…。

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