僕は タコだ 自分の足を 必死で食い尽くす そうして言葉を 吐いている 言葉は 真っ黒で 逃げるためにあるけれど 僕はそれを吐くとき 全身を絞り上げる 生きる術だから 時々食い尽くして 動けなくなるけれど 僕は他の生き物を食わない ただじいっとして いつまでも待っている 新しい足が生えてくるのを このまま 足のないタコであれば この暗い海底に押し潰されて ずうっと悪い夢を 見ることになるんだ ブルッと震える 海流に吹かれて コロコロと転がると いつの間にかちょこんと 新しいのが見つかる 早く大きくなぁれ 今度は食べずにいるからね でも新しい足が 海底を這い回って ボロボロになる頃に また食い始める ここは寒いから お腹が空くんだ 足じゃなく 手が欲しいと思う キュッとハチマキを締める いなせな手が欲しい そうして僕は イカになった イカの僕は 他の生き物を食って プシューッと言葉を吐いて 足を食わなくなった 海底を這い回るより 浮かんで泳ぎ回った ハチマキも締めないで おまけに時々 ピカピカと光った 言葉はジェット噴射になり 知らない海まで 飛んでいった (中略) ふと気が付くと 真下に足のないタコがいる どうやら僕は世界を逆さまにして 一回りしてきたらしい あれはこの前の 僕だ じいっとして 時々転がされて 大切に大切に足を育て それを食らい 必死になって 言葉を吐いている 不細工な奴 仕方ないからこの二本の手を あいつにくれてやろう 僕は世界を見たから あそこの僕にも 見せてやろう そして僕は またタコである いつかたぶんイカの僕が 二本の手を持って来る 今度こそハチマキを締めて タコとして生きてみたい