例の蛙の奴が 僕の部屋のドアの左側の 薄汚れて真っ白な壁を じいっと見つめている 喉を膨らませたり萎めたり そういうことも忘れているようだ そうしてぷいっと振り返って 青空の方を見上げた そうか、冬眠か ついさっきから 自由自由とやかましい 嵐が表面をなで回しながら 静かな殻の内側で止まっている 必ず目が覚めるのだろうか そんなこと考えたこともないんだろう 意識は夢という形で つながれていて いや、蛙の奴ではなく、僕の話だ 地球の共同意識の底の方から にょきにょきにょきにょきと生えてくる 冬の終わりの寝ぼけ眼のことを いつからか蛙の奴は 「ろまんてぃっく」と呼んだ 辞書を引いても無駄だ そういうことは瞼を踏ん張って 考えてみなけりゃわかりっこない 一生は、痺れる 立ちはだかる壁 安全とかいう名前だった 廊下の反対側の絶壁の方にある その天辺によじ登って 弾け飛んでいった どこに向かったのかは知らないけれど とにかく目の前からいなくなって ずうっと遅れて風が吹いた