その粒は 心の隙間から 月の向こうを回って この星の大気の上に 落っこちた 悲しみとして滴り 喜びの波紋を花開かせる 幾重にも同心円が天蓋を埋めて その中心の粒は穏やかに 無限の重みを加える 誰も気付かないまま 粒は菩薩の笑みを浮かべ 大気に食い込もうと沈んでいく この星は修羅の呻きをあげて その絶望を必至に支える 少しずつ少しずつ 時間がはち切れるその時まで この出来事をじっと見つめる 母なる太陽と八つの惑星 その子供達は砕け出す 地上には雪が降っていた いつ頃誰が考えたことだろう 恋人達のための音楽が溢れ返る中 命の数よりも多い電飾が 暮らしを彩っていた 子供が一人産まれた 老人は家族に囲まれていた 人と人とが慈しみを重ね合った 雪のように降り積もる愛情は 温もりに微笑んで溶けた 今だけは戦争も止んだ 誰もが優しさを交わし合って もう二度と過たないことを誓った そして世界中の鐘が鳴り その時が訪れた ポヒュンという音で 大気に落ち込んだその粒は 一呼吸おいてから歌を唄うように 大切なものを抱きしめるように 無限に縮み始める 重苦しい鐘の音がひとつ 大地の底から空全体に広がって それっきりあらゆる音は消え去って 静かに何かが空気を伝わって 世界が歪み始める 強烈な閃光や巨大な爆音や 切り裂くようなソニックウェーヴや 一瞬で全てを溶かし尽くす灼熱線の爆風や そういうものの方がまだ慈悲深い この静かな恐怖に比べれば ただ歪んでいくのだ 空間のローラーに巻き込まれて ゆっくりと身体の端の方から 何の前触れもないまま ねじ曲がっていく 血管壁と筋肉の線維と 神経のネットワークが 絡まり合って千切れる 腕と脚と爪と肌と顔が 自分のものでなくなる ある者は奇妙な薄ら笑いを浮かべる ある者は音の出なくなった喉を震わせ叫ぶ ある者は涙を流し愛する者に手を伸ばす そういう全ての者達の身体中を あらゆる苦痛が這い回る 子供や野生の動物は 為す術もなく捻れ上がる 表現することを覚えた大人達は あらゆる形を残している 見苦しいほどに ベッドの下で ゴミ捨て場のそばで 森の奥の湖の畔で いろんな思い出の場所で いろんな生活の中で 雪も捻れて紅く染まり 二度と溶けたりはしない それは温もりを忘れ去り ただ積もっていくだけの カタマリでしかない 最後に捻れた者が 手を伸ばしたその先には 愛する者は誰一人いなかったけれど 満ち足りたように微笑んでいた 歪んでいただけだろうか 人間にとっての終わりは この星にとっての始まりだった 宇宙空間の中で捻れていく星の軋む音に 仲間の惑星達は目を覆って震えていた そして母なる太陽は黙って見つめた 歴史を閉ざしたこの出来事は 一人の少女の絶望と悲しみから生まれた 彼女はたくましく生きていたけれど 彼女を犯した戦争とドラッグ そして心の隙間の重力子 量子力学が人の心を 初めて癒してくれた この物語を繰り返す それが宇宙のポエム 星空の祈りの叫びだ