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「秋逢」


生気のない男と
聖域のない女が
出会って
愛が生まれる秋である
走り去る季節の間だけ
ふたりでいられる
必死になって時を
押しとどめながら

糸波が
川面に浮かんでは
打ち消されている
大きな流れは
綺麗なだけではなくて
そして源は遙かに遠く霞んでいて
この川は豊かに流れている
ふたりは川の中にいる

空はどこまでも空であり
山は果てしなく山であり
そういう秋晴れの
ふたりは風の中にいる
そこから動くこともなく
それ以上求めることもなく
壊されないように
醒まされないように

予測した一瞬ののち
鮮やかにそれを越える
あるいは
大人が迷っている間にも
一途に思い続けるのだろうか
あの子供たちを
雪原に放り出してみるがいい
彼らはワクワクと生き始める

そうしてふたりは
冷え冷えとした眠気の眼差しで
子供たちを見つめている
お互いの胸を見透かさないで
輝きというのは
子供の無邪気な自己中心のことだ
わかりあいたいと望むなら
ふたりは戻れない

言葉に出してしまうと
何もかもが形にすり替わってしまう
だからふたりは愛の言葉を
語りたくはないと思う
本当の愛ならば
まず心が揺らめいて
そして体が走り出すだろう
言葉が追いつけないくらい速く

唇を閉じている間
それが穏やかな永遠である
この秋を道連れにして
そう願っていても
日は落ちて冬によく似た闇が来る
子供達がはしゃぎ回る
昔はふたりも残酷だった
今はただ震えているだけだ

全て秋のせいにして
抱き合ってしまえればいい
ボロボロになるまで
そう思って流した涙の雫も
一陣の風が吹いて冬のほうに消えた
せめてあと一日
遅く出会えていたら
そういうふたり連れである

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