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「夜」


夜を車で走っていると
どうしようもなく綺麗なものに出会います
それは無理矢理に浮かべた笑顔のようで
涼しげではかなげで悲しげで
一生懸命な感じがして
精一杯意地を張って
真昼の太陽の作る幻よりも
僕たちの生活に近づいてきます
その中でも一番不思議で
一番大好きなグリーンの光は
あなたにあげたブローチのようで
あなたがくれたクローバのようで
夜を走る僕の後ろへ飛んでいって
スヤスヤと生まれ変わっていきます
僕たちを暮らしているこの街
移り変わりに縛られる空気は
それはそれは澄み切っていて
グリーンの滲んだシミが
途方もない暖かさに思えて
受け入れることが
受け入れられることが
僕たちの暮らしの全てだった
そういう悲しみのために
流された涙のようで
一日の空しさのスピードに
置いてきぼりの温もりの入れ物は
どこに行けば待っているのでしょうか

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