紅と呼べるに浅き紅梅のみ土ぞ紅く染めにけるかも 人並みに齢経ることは枕木の蹉跌振るるを伝うるが如 羽虫群れいつか夕辺ぞ春となり 美しさと力強さの徴だから人間は脚を捨てたりはしない 文月なる湯稚児の肌に透き染めの夜風の露も新しきかな 蛍火のか細き中に力あり 分かちたる梅雨の狭間の花火かな 君去りの空腹残った素麺で埋めたる暑き夏の夕暮れ なお深く奪われし者の哀しみを文月の末に星が哭くなり 蜩やソウル吹き過ぐ空の胸 雨降れば瞬目の情失せにけり 七夕も一月なれば彼の君も宿すなるらむ この富山の天 濁り田を渡りし風や 座る瞬間微かに焦らす放溢の愛 ひょひょひょうと飛び過ぐ夜鷹その闇に残されし吾と街の豊かさ 風ですね 君重ね言う 風ですね 昔気質の恋ぞ包まむ 宇奈月の浜にて五十路男女逢い謂れは知らず「妹」唄う 八月も末とはなれどいたずらに残り三日の冒険探偵 殻転ぶ夏草の風一筋は用水に生い海に向かいぬ 丘の上翁座りぬ その杖は振り向きざまの地上指したり 吾はまだ生きているぞと羽ばたけり最期の刻を 蝉の一月 言い訳をまず探しおり人として萎れたくない尽未来際 絨毯に落ちし氷塊ゆく夏は溶けて初めて見つかる染みか 蝉殻を引きずりて踏む秋の口 あきつ群れ流るる風やきのこ雲 満月や短き季節の風の道 逢うからに不思議となりぬ添うからに清かぞ増しぬ秋の冷ゆりは 雲蒼く風多かりし秋の田の穂波ぞ寄する人の暮々 この道は風の幹道 街路樹も万歳唱う 誰か旅立ち 日暮らして風の分類空しかる羽にはあれどただ風の中 人はさて 限りなきこの地球の上 海空陸の道はありけり