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「歌うたい(その3)- 四季夭折 -」06


散りたるは己が人生 落ちる葉を一心に掃く老人の秋

良き友の温もり籠もるTELL番もそらで言えなくなってしまいぬ

雨降らば天に水無し 給水の雲ぞせわしき小春日の鐘

道失せて野行く車軸に枯茨の一枝ぞ刺せる流雅人かな

豊かなる朝の冷気に運ばれて蒸気自転車が坂を登れり

詩心は妨げられし時にこそ越ゆる力となりてぞ覚えむ

コンビニのレジで気付けり吾が声の病のうちに嗄れにけること

朝霧にむくみし顔を搾らせて化粧となせる自転車通い

消えるべき街灯が吾の上に来て消えにける冬の夜の雨

紅葉の最後の一葉落つ時にお辞儀をしたら冬が笑った


     北風は悲しかるらむ 生業をヒュウヒュウと泣く 恋も知らずに

     秋に枯れ 今吾の手で再びの枯れを迎える白穂のすすき

     枯れるやも見れば瑞枝か 初春の湯気はさららの心なりけり

     薄積もる雪踏みしめてうつむけば背なをかすめて落つる音あり

     森山に木屑堅めて幼な恋の夢の間に白む森山

     厭いつも目は慕うなり 街灯に映る砂糖の雪ぞ踏み分け

     この雪は歩み通いし人々に道を残せり 優し雪なり

     新雪を選びて踏める子ら楽し

     雪垣に添いて生けるや寒椿

     風吹けば買い物袋も身を竦む 幾筋縞の雪の停車場


踏み出せば一筋落ちる雪の跡

月曜のための週末を過ごして閉鎖空間に飲み込まれていく

独立の中で狂っていく僕と創っていく僕が共に立ち上がる

真っ赤な夕焼けの中に僕が居なかった 春は名のみの風に吹かれて

僕の心と僕の間に10センチの隙間 冷たい奴らが入り込んでくる

殻があって 僕はその中で原形質分離を起こしているらしい

本音 本音じゃない 本音って何なの 何も言えない僕は誰なの

朝夕に流れる風や 虫当たる自転車乗りの春の顔かな

朝飯に米と味噌汁それだけの腹に染み込むこの国の幸

ああ君は何ものなるや何故に僕のそばにいて包んでいるの

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