目次に戻る 前のページに戻る 次のページに進む


「歌うたい(その3)- 四季夭折 -」05


ドアの隙間 吾と入れ替えに室に入る蛙殿下の冒険の始まり

笛の音や 祭りの後のひとり舞い

人よりも十分大きなものになら踏み潰されても良いんだろうか

いつかには止めるものだと激しかる雨を見上げて突き抜けていく

渦巻ける緑の波紋 生涯を戸惑いながら稲がら倒る

月清やに梨の木の陰更に濃く甘酸っぱさを飲みて酔い歩き

月影にさざ波雀 我先に夜の岸辺に押し寄せんとす

水月や 絆の人がなかりせば岸より肩が落ちていくかも

傷つけし人に似ている映像の一語に震える 夢の如くに

月影に石像の森 風なくも 吾が身の程の如くざわめき


     久方のリンゴなるかな バスの中 リンゴ一粒ゴトゴト揺らし

     力学の容器の中を滑りゆく自由の如き鳥のひとひら

     高貴ゆえ秋似つかわし 星深く ゼリーの如きチェンバロの音

     星狩りに刺す風の譜をまといつつ万光年の草を踏みしめ

     失うを得る先と見る 花落つを実の母地と知る 木々の秋かな

     鳥滑り木々絨毛の如くなり 富山の秋の風の長道

     秋風に鈴は散り散り一葉ごと分かちて揺らす風の細道

     夢事にまっしぐらにてふと見れば落つ葉もあらぬ秋の夕暮れ

     目を開きて寝息立ている秋の夜は移れる月の生業を見る

     根を張りぬ大岩板も流れあらば時に適いて海に注がむ


小心のマンガの如く動きおる吾が指どもをじっと見ている

この朝の忙しき中鳴りもせぬ電話の前で数分を待つ

回り道 自転車乗りが冬の前身支度をする道のせわしさ

歌詠めば飯一杯を失くしたり 朝の一間に心おきなく

明け初むる原始の空の朱の如く十五の頬は染められにけり

口数に表れにける君が秋の素足の指は円く白みぬ

野辺に散る秋紫よ 吾もまた踏みしめられて冬ぞ迎えむ

一筋の飛行機雲と小鳥二羽が空を割りたり 秋の夕暮れ

街灯に停まりて空の一角を占めたる鳶の後ろ姿よ

まなこより一筋高き雲の上の更なる高み 立山はあり

目次に戻る 前のページに戻る 次のページに進む