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「空際」


夏の日射しに輝いて
今軽やかに君は
旅立っていく
時の流れの中で
深まっていくお互いを
夕辺の温もりに
確かめて
今朝の空は突き抜けて青く
2人の心は絆の時代の到来に
爽やかなときめきを抱きしめている

もう語る言葉も尽きるくらい
短くも愛しい夜があった
君の全ての表情は
僕に内包され
君の肌の温もりは
心の声に置き換えられ
時間と空間を支配するものも
抗うことのできない運命を感じている
そして旅立ちの序曲は
真っ白な翼を大空に広げる

昨日の君はもういない
たった今からは
明日の君だ
僕の知らない顔をして
世界を渡る風をまとって
帰っておいで
そうして僕もまた
君の知らない僕になろう
今君はおずおずと
両翼の羽ばたきを確かめている

新たな輝きと
開きゆく希望とを
2人のものとするために
古びた温もりと
閉ざされた優しさを
ほんのちょっとの間だけ
忍耐の許す時間だけ
封印しておこう
君と僕が再び交わるとき
全てを手に入れることができる

こんなにも素晴らしい
運命の配剤を
誰に感謝しようか
もしかしたら時は既に
未来を知っているのかもしれない
発車のベルと共に
君は鮮やかに翼を広げ
迷いと共にこぼれ落ちた優しさの羽根を
再会のための目印として
僕は握りしめていた

僕の中でたったひとつ
君を誇らしく思う
満ち足りた心を抱いたまま
僕もまた車に乗って
仕事へと向かう
僕はあくまで僕らしく
君に負けない僕になりたい
世界を羽ばたく君の翼を
押し上げる気流と
空になりたい

駅からの道はもう
朝のラッシュにまみれている
時計を気にしながらも
心は平穏であって
今日一日の新たなる喧噪と
少しばかりの将来の夢について
生まれたままのように
思い描いている
定刻より早めに着いた駐車場で
ホッとため息をついた

そして
僕が泣いている
君が遠くへ行ってしまう
僕が泣いている
ハンドルを握りしめながら
僕が泣いている
どうすることもできなくて
僕が泣いている
君が遠くへ行ってしまう
僕が泣いている

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