題名を聞き、関ヶ原で家康が死んでしまうという筋を知ったとき、アイデア倒れの陳腐な作品である危険性が高いと不安視していたが、読み始めてアッという間に作品に引き込まれてしまった。
歴史・時代小説でありながら、まさしくジェットコースーターノベルである。
作品の中身について具体的にはふれないが、話のおもしろさは無類である。
誉め言葉として伝わるかどうかはわからないが、池波正太郎作品のように魅力的な主人公が登場し、五味康祐作品のように派手なストーリー展開でありながら、山本周五郎作品のような文学性と、司馬遼太郎作品のような資料性も兼ね備えた作品といえようか。
映画にたとえるなら、「インディ・ジョーンズ」と「ミッション・インポッシブル(スパイ大作戦)」と「七人の侍」が合体したような作品と言えばわかってもらえるかもしれない。とにかくエネルギッシュで、緻密で、重厚な本格派の第一級の小説といえる。
作者の隆慶一郎が亡くなったことは、本当に惜しまれる。未完の作品がいくつも残ったが、あの世で完結編を書いているのだろうか。書いているとしたら、どんなことをしても読みたいものである。それほどの面白さであり、それほどの作家であった。
この作品を映画化したらと考えた(TVや舞台には向かないような気がした)が、主役を誰にしたらいいのかわからなかった。
映画大好き人間、自称「芸能博士」の三井君に言わせると、「一番の適役は若山富三郎だったけれど、彼が亡くなった今、映画で主役を演じられるとしたら、勝新太郎しかいないでしょう」ということである。確かにそうかもしれない。
テレビで本作品のアイデアをパクったとしか思えない話を天下のN??がやっていて(パロディなのだからとか、理由はいろいろつくのかもしれないが)、そのとき家康の影武者役を谷啓が演じていて、私はそれなりによかったと思うが、三井君は「脇役と主演とでは話が違う」という。
彼は「映画という格を示すためには、勝新太郎以外では話にならない」と言う。だから関係者の方々には、彼がアクションの出来ない体となる前に企画を実現してほしいし、そのとき勝新太郎にはわがままを言わずに役者に徹して出演してほしいと彼は願っている。
三井君はいつもいう。「われわれファンは勝新太郎の演技が見たいのであって彼の演出が見たいわけじゃない。彼は自分が思うほど優秀な監督ではない。座頭市に関しては世界一よく知っているかもしれないけれど、その他のことに関しては勝新太郎より上の人間がたくさんいることを、周囲の人はどんなことをしても気づかせてあげなきゃ。このままお山の大将のまま、監督の言うことを聞かない役者として生きていくのは本人は気持ちいいかもわかんないけれど、勝新太郎の映画を見ることの出来ない俺達は一体どうすればいいんだ」
彼は涙を流して私に訴えるが私にはどうしようもない。どうしようもないからここで訴えるしかない。どうか、こうしたファンの悲鳴に耳を傾けて下さいと。映画関係者でこれを見た方はどうかファンの声を伝えて下さい。お願いします。
キャスティングについては三井君が「勝新太郎以外は、監督、脚本、音楽、カメラマン、製作会社も含めすべて第3候補まで考えてある」と言うので、彼の許可があれば、いつかご披露したいと思う。(文中敬称略)
文中に出てくる映画スター、勝新太郎さんが1997年6月21日午前5時54分下咽頭ガンのため亡くなられました。
65歳という年齢はあまりに若すぎますが、日本映画におけるその実績で比肩しうるのは、現在では三船敏郎氏と高倉健氏ぐらいのもので文字通りトップスターでしたし、思い通りに生きた(ように見える)という意味でも、ご本人にも悔いはないことでしょう。
長年の活躍に敬意を表するともに感謝の言葉を贈りたいと思います。
長い間おつかれさまでした。そして、本当にありがとうございました。
1997.06.21 PM05:45(三井波男) |
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