作者紹介のページ    What's a new 


読書マニアのコーナー(1996.12/13)

あなたは1996.12.13以来番目の来場者です。

椎名利夫推薦図書・私の好きな作家シリーズ篇

見たい人物をクリックして下さい。

人物

UPDATE

1.隆慶一郎

1996.12.13







































































椎名利夫推薦図書・私の好きな作家シリーズ篇

見たい書評(というより推薦文)をクリックして下さい。

第1回 隆慶一郎の部

1.「影武者徳川家康」(新潮社)★★★★★
家康が影武者!?とにかく面白い作品。
2.「吉原御免状」(新潮社)★★★★★
ヒーロー、ヒロインが爽やかで魅力的。
3.「一夢庵風流記」(読売新聞社)★★★★★
快男児前田慶次郎の暴れっぷりが痛快。


戻る




































 1.「影武者徳川家康」(新潮社)★★★★★

家康が影武者!?とにかく面白い作品。


 題名を聞き、関ヶ原で家康が死んでしまうという筋を知ったとき、アイデア倒れの陳腐な作品である危険性が高いと不安視していたが、読み始めてアッという間に作品に引き込まれてしまった。
 歴史・時代小説でありながら、まさしくジェットコースーターノベルである。
 作品の中身について具体的にはふれないが、話のおもしろさは無類である。
 誉め言葉として伝わるかどうかはわからないが、池波正太郎作品のように魅力的な主人公が登場し、五味康祐作品のように派手なストーリー展開でありながら、山本周五郎作品のような文学性と、司馬遼太郎作品のような資料性も兼ね備えた作品といえようか。
 映画にたとえるなら、「インディ・ジョーンズ」と「ミッション・インポッシブル(スパイ大作戦)」と「七人の侍」が合体したような作品と言えばわかってもらえるかもしれない。とにかくエネルギッシュで、緻密で、重厚な本格派の第一級の小説といえる。
 作者の隆慶一郎が亡くなったことは、本当に惜しまれる。未完の作品がいくつも残ったが、あの世で完結編を書いているのだろうか。書いているとしたら、どんなことをしても読みたいものである。それほどの面白さであり、それほどの作家であった。
 この作品を映画化したらと考えた(TVや舞台には向かないような気がした)が、主役を誰にしたらいいのかわからなかった。
 映画大好き人間、自称「芸能博士」の三井君に言わせると、「一番の適役は若山富三郎だったけれど、彼が亡くなった今、映画で主役を演じられるとしたら、勝新太郎しかいないでしょう」ということである。確かにそうかもしれない。
 テレビで本作品のアイデアをパクったとしか思えない話を天下のN??がやっていて(パロディなのだからとか、理由はいろいろつくのかもしれないが)、そのとき家康の影武者役を谷啓が演じていて、私はそれなりによかったと思うが、三井君は「脇役と主演とでは話が違う」という。
 彼は「映画という格を示すためには、勝新太郎以外では話にならない」と言う。だから関係者の方々には、彼がアクションの出来ない体となる前に企画を実現してほしいし、そのとき勝新太郎にはわがままを言わずに役者に徹して出演してほしいと彼は願っている。
 三井君はいつもいう。「われわれファンは勝新太郎の演技が見たいのであって彼の演出が見たいわけじゃない。彼は自分が思うほど優秀な監督ではない。座頭市に関しては世界一よく知っているかもしれないけれど、その他のことに関しては勝新太郎より上の人間がたくさんいることを、周囲の人はどんなことをしても気づかせてあげなきゃ。このままお山の大将のまま、監督の言うことを聞かない役者として生きていくのは本人は気持ちいいかもわかんないけれど、勝新太郎の映画を見ることの出来ない俺達は一体どうすればいいんだ」
 彼は涙を流して私に訴えるが私にはどうしようもない。どうしようもないからここで訴えるしかない。どうか、こうしたファンの悲鳴に耳を傾けて下さいと。映画関係者でこれを見た方はどうかファンの声を伝えて下さい。お願いします。
 キャスティングについては三井君が「勝新太郎以外は、監督、脚本、音楽、カメラマン、製作会社も含めすべて第3候補まで考えてある」と言うので、彼の許可があれば、いつかご披露したいと思う。(文中敬称略)

 
 文中に出てくる映画スター、勝新太郎さんが1997年6月21日午前5時54分下咽頭ガンのため亡くなられました。
 65歳という年齢はあまりに若すぎますが、日本映画におけるその実績で比肩しうるのは、現在では三船敏郎氏と高倉健氏ぐらいのもので文字通りトップスターでしたし、思い通りに生きた(ように見える)という意味でも、ご本人にも悔いはないことでしょう。
 長年の活躍に敬意を表するともに感謝の言葉を贈りたいと思います。
 長い間おつかれさまでした。そして、本当にありがとうございました。
    1997.06.21 PM05:45(三井波男)   


戻る





































 2.「吉原御免状」(新潮社)★★★★★

ヒーロー、ヒロインが爽やかで魅力的。

 この作品は、肥後の山中で剣豪の宮本武蔵に育てられた青年剣士松永誠一郎が、師の遺言に従って江戸の色里吉原を訪ねたことから、裏柳生との対決が始まる。吉原の数々の謎や、家康の謎、誠一郎自身の出生の秘密などがからまった複雑なストーリー展開ではあるが、魅力的で読み応えのある作品となっている。
 その後日談を描いた「かくれさと苦界行」と含めて一冊の作品と考えた方がよい。その他、同じ柳生を扱った「柳生非情剣」、「柳生刺客状」(ともに講談社)、家康を扱った「影武者徳川家康」、誠一郎と関係の深い後水尾天皇を描いた「花と火の帝」(日本経済新聞社)とあわせて読めば、なお一層面白くなること請け合いである。
 私は秘かに、五味康祐の「柳生武芸帳」(新潮社)、この作品、そして劇画だが小池一雄・小島剛夕の「子連れ狼」(双葉社)をあわせて裏柳生三部作と呼んでいる。
 武芸帳、御免状、封廻状とそれぞれ名こそ異なるが、それが明らかになれば天下がひっくり返るほどの騒動になる書状をめぐって、裏柳生が暗躍する、これら三作品はまことに見事で面白いと思う。
 ただ本作品が、他の二作品と違うのは、主人公が純粋で人間的なため、周囲の人間も思わず心配して肩入れしてしまい、読んでいる側もいつしか引き込まれてしまい、感動してしまうシーンが随所にあるところである。(※1
   甘いと言われるかもしれないが、人が自分を忘れ他人に一生懸命になるところはやはり感動的である。
 そういう点で主人公の誠一郎は魅力的に描かれているし、妻となるおしゃぶも最初登場したときは子どもではあるが、堂々としたヒロインぶりで魅力的である。
 舞台で最近松平健が演じた。舞台にはむかない作品のような気がするが、見なくて文句を言うのも失礼なので、いい作品であってほしいと願うのみである。
 まだテレビ化や映画化はされていないが、一部分を盗用したようなドラマ作品が時折見られるのは残念である。
 これだけのスケールの大きいものを描くとなれば一、二時間では無理で、単発でやるとすれば、TBSの正月の長時間ドラマか、東京12チャンネルの12時間ドラマぐらいしかない。ぜひ関係者にはこの企画を取り上げてほしいものである。
 なお、そのときのキャスティングには、名前を出して申し訳ないが、石田純一とか宅麻伸といったトレンディドラマに出ているようなテレビタレントは絶対使ってほしくない。
 これは三井君の持論でもあるが、時代劇特有の話し方や歩き方、刀の差し方も知らないような人は出すべきではなく、現代劇調でやらせる愚だけは犯さないでほしい。その作品を愛し、時代劇を愛する人間がいることを、関係者の方々はどうか忘れないで戴きたい。
 なお、本作品のキャスティングについても、三井君は「キャスティング表はすべて第3候補まで作ってある」と言うから、本当にすごい(ひまな)人である。(文中敬称略)

  

戻る





































 3.「一夢庵風流記」(読売新聞社)★★★★★

快男児前田慶次郎の暴れっぷりが痛快です。

 本作品は、戦国自体の傾奇者(かぶきもの)前田慶次郎の縦横無尽の活躍を描いた作品である。
 作者の隆慶一郎は作家になる前、シナリオライターであり、三井君に聞くと、三船敏郎主演で1年間続いた「大忠臣蔵」の脚本を担当していたとのことで、何人かのライターで書いていたけれど、彼がいいなと思った回の脚本のほとんどが池田一朗(後の隆慶一郎)だったということである。納豆喰わないけどナットク。(会田さんの口癖が移ってしまった!)
 最近NHKの衛星放送で「城取り」という映画を見たが、その脚本が池田一朗で、この映画の主人公が、本作の主人公である前田慶次郎である。映画は石原裕次郎には珍しい時代劇で、松方弘樹の父親である近衛十四郎(※2)が出ていて、私には面白い作品だったが、作者にとってはいい出来ではなかったようで、勉強し直して、本作品を書いたとのことである。
 本作品の前田慶次郎は、さすがに魅力的で、野生馬松風や忍者捨丸、忍びの天才骨など己の命をねらう者までをも虜にしてしまう、まことにみごとな傾きぶりで、男の中の男ともいうべきヒーロー像が描かれている
 「吉原御免状」の陰の主役とも言うべき庄司甚右衛門の若き日の姿や、「捨て童子・松平忠輝」(講談社)にも出てくる結城秀康が出てきたり、まさしく隆慶一郎ワールドともいうべき戦国時代絵巻がくりひろげられる。
 

以上、今回は、日本の小説でも、歴史・時代小説でもこんな面白いものがあるということを、少しでも多くの人に知ってほしくて、隆慶一郎の3作品を取り上げました。スピルバーグの映画を面白いと思える人なら、少なくとも、この欄で名の上がった作品に関しては読んで後悔しないことでしょう。次回は、宮部みゆきを取り上げたいと思います。what's a newを確認して見て下さい。(1996.12.13)


戻る








































※1

 「子連れ狼」には、武士というものが見事に描かれ、たびたび感動させられたが、その話はまたの機会に譲ることにしたい。




戻る





































※2

 三井君によると、近衛十四郎は日本一殺陣のうまい役者さんだったそうで、松方弘樹の父親などという私の言い方は気に入らないらしい。
 彼に言わせると、近衛は、世界の三船敏郎でさえ引き分けに終わった「座頭市」に出演して、勝った唯一の役者だったとのことである。
 彼がいうところの勝ったには、2つの意味があるそうで、1つは役の上で、座頭市と戦い、そのまま剣の上で負けないまま(座頭市の自分を捨てて人を助けようという心情において負けたと思い、座頭市を倒せるチャンスがあったのにそれをしなかったという点で貫禄を示して決して負けておらず)、死なないまま、映画が終了したという意味であり、もう一つは殺陣のシーンで、勝新太郎よりはるかに大きい刀を遣いながら迫力はいうに及ばずスピードでも彼を上回っていたという意味だそうである。
 それだけ勝新太郎が近衛十四郎という役者に敬意を表したということであり、それだけ殺陣もうまい素晴らしい役者だったということらしい。
 ただ私には、それだけ近衛を立てた勝新太郎が大人で立派だったと思えるのだが、最近の彼の言動を見ていると、私の言い分が正しいのかどうかは自信がない。
 三井君も、私の好きな作品とか監督とか俳優とか名シーンとかの企画を考えているようなので、いずれくわしい話が聞けるかもしれない。


戻る



ここのコーナーの感想やご意見をお待ちしています。

Mail Box(kmg@nsknet.or.jp) Home Page




企画監修:会田夏彦

協力:椎名利夫、三井波男
製作:パソコンホームドクター KMG