アルコールは、人に対して心とか体とかを区別することなく一人の人間に影響を与えるものである。一方、現代の医学は、人間を身体と精神とに区別することによって発達してきた歴史がある。しかし、アルコール依存症の治療は心と体を別にして治療することが効率的とは思われない。実際に内科を中心にした身体医学だけでは、依存という症状や個人や家族の精神病理に歯が立たないのが現状である。では精神医学で立ち向かうことができるかというと、これもまたアルコールによって障害された多臓器の回復をはかることは困難である。
アルコール依存症に対する治療は、個人のレベルでは東洋医学にある考え方「心身一如」を尊重すべきであろう。そのためにも、総合病院でのアルコ−ル依存症の治療がより理にかなっている。しかし、総合病院には多機能(精神科救急・身体合併症治療)を求められておりアルコ−ル治療の優先順位が高いとはかぎらない。また、全国1200の総合病院中、精神科を有するものは600病院で、有床精神科病床を有するものが250病院という少なさからみて、総合病院精神科がその治療の中心的役割を担うことは不可能である。現実的対応としてはアルコ−ル専門とする精神科(病院)と内科(病院)との連携が心身両面からの対応ということになるであろうから、連携医療の確立が望まれる。
日本の保健医療は、次第に定額制が導入されそうな状況化であり、精神科だけが例外というわけにはいかないであろう。アルコール依存症の治療が、いかに効率的・安上がりに行えるかが迫られるかもしれない。それを先取りするためにも、早期発見・早期治療、さらにシステム理論にもとずく治療の定型化が望まれ、連携医療の充実も必要になると思われる。
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