この絵は、アルコ−ルによって生じた幻覚を、A氏に描いていただいたものです。A氏は、長い間の飲酒の後に、体がアルコ−ルを受けつけなくなり飲めなくなった後に、この幻視を認めています。今まで見たこともない恐ろしい怪物に自分の足を囓り取られる恐怖とともに、その姿が脳裏に焼き付いていますと語ってくれました。
このような幻視は、アルコール関連精神障害の一つの振戦せん妄によく出現します。このような精神症状の出現を恐れて、なかなかアルコ−ルを断ちきれないこともあります。アルコ−ル依存症という病気が増悪した結果として認められる精神障害を知り、恐れるだけでなく的確な治療をすることが大事と思われます。
ただ、アルコ−ルが人におよぼす影響は複雑であり、どこの範囲までアルコ−ルによる精神病かの判断が難しいのも現実です。ですから、いろいろな診断基準はありますがアルコ−ル精神病の扱い方がまだ一定していません。ここでは飲酒した人によく認められる精神病として取り上げ、アルコ−ルの果たす役割の質や量を取り上げずに紹介します。
アルコール精神病の中で、最も多く出現する病気です。酒を飲み続けるなどの連続飲酒発作中に出現することがほとんどです。一番多いのは、体がアルコ−ルを受けつけなくなって、飲酒を今までのようにできなくなり、急に飲酒量が減ったり一滴も飲めなくなった状況での発生です。もう一つは、飲酒に関係して怪我や身体の病気になって入院し、人工的に禁酒状態となって出現する場合です。
前駆症状:不眠、夜間の不安を認めることが多い。
症 状:離脱症状として、振戦(手や舌、体の粗大な震えで、字を書いたり、コーヒーカップに入っているコーヒーをこぼさずに口に運ぶ事が大変であったり)、発汗、頻脈、不眠などを認めている最中に出現する、重篤な離脱症状の一つです。軽度の意識障害(今いる場所を間違え、病院にいるにもかかわらず仕事場で作業をしているつもりでいたり、時間も正しく認識できず、夜にもかかわらず昼のつもりでいたりなどを認める)、幻視(小動物が見えたりする場合が多い)が出現し、そのために不安になったりして精神運動興奮を認めたりします。
持続期間:一般的には1週間以内で、症状が消失します。時には、遷延したり、ウエルニッケ脳症に移行する場合があります。
治 療:患者の安全の確保や、薬物療法、電解質のバランスの補正、合併症治療、栄養障害の治療などが行われます。
予 後:最近は、予後は良くなりました。しかし、この時期は暴れたり指示に従えにくかったり、自覚症状を医療側に伝わりにくい事もあり、不測の事態が起きやすい時期でもあります。
<工事中です>