福井県監査委員 坂川優

同       奈良俊幸

同       井上圭充

同       渡邉忠造

 平成11年8月24日付で請求のあった地方自治法(以下「法」という)242条1項による福井県職員措置請求については、下記の理由により却下します。

(請求の要旨:原文のまま)

 国庫精算返還金の支出の差し止めと既に支出された分についての損害賠償等損害を補填するための必要な措置を請求するものである。

(事実の確認)

1 国庫精算返還金は、補助金については補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「適正化法」という)、交付金については適正化法または交付要綱、事務委託費については契約または当該委託事務に係る取扱要綱(以下「契約等」という)に基づき、国土庁ほか18省庁(以下「国」という)から発せられる返還命令によるものである。

 その命令に基づき県は、別紙の通り平成11年7月30日から同年8月31日までの間に国に対し総額408,555,890円を支出している。

 なお、国からの返還命令は同年8月24日までに文書で発せられている。

2 国庫精算返還金には、適正化法、交付要綱、契約等および民法の規定により加算金または法定利息(以下「加算金等」という)が含まれており、これについても県は、別紙の通り平成11年7月30日から同年9月30日までの間に国に対し総額136,995,040円を支出している。

 なお、加算金等については同年9月9日に県職員幹部で組織する福井県旅費返還会からその相当額が県に対し返還されている。

(却下の理由)

1 差し止め措置請求について

 国庫精算返還金(総額545,550,930円)は、事実確認で述べたように適正化法、交付要綱、契約等に基づき国から返還命令が出され、国庫補助金、交付金および委託費については平成11年7月30日から同年8月31日までに、加算金等については同年7月30日から同年9月30日までに、それぞれ適正な手続により国に対し支出されているので、請求人が求める差止請求については、既に請求の利益を喪失したものと判断する。

2 損害賠償請求等損害補てん措置請求について

(1) 国庫精算返還金の支出は、県の補助事業遂行義務違反または事務委託に係る条件違反として、国より適正化法、交付要綱、契約等に基づく返還命令を受けて行うものである。

 したがって、県がその全額を国に返還しなければならないものであって、その点において違法性はないと認められる。

 なお、加算金等は今回の国庫補助金等の返還に伴い発生するもので、この点において県に損害が生じるおそれがあると考えられるが、福井県旅費返還会が平成11年9月9日にその相当額を県に返還したことによって、県に損害が生じていないものと判断する。

(2)請求人は、国庫精算返還金の支出行為とは別の行為であるカラ出張を挙げ、このカラ出張が違法であって、これを原因として国庫精算返還金が支出されるのだから、結果として損害が発生すると主張している。

 ところで、住民監査請求について、法242条1項は、普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の執行機関または職員について、財務会計上の違法もしくは不当な行為または怠る事実があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、必要な措置を講ずべきことを請求することができる旨規定している。それは、住民に対し、当該普通地方公共団体の執行機関または職員による一定の具体的な財務会計所の行為または怠る事実(以下、財務会計上の行為または怠る事実を「当該行為等」という)に限って、その監査と非違の防止、是正の措置とを監査委員に請求する権能を認めたものであって、それ以上に、一定の期間にわたる当該行為等を包括して、これを具体的に特定することなく、監査委員に監査を求めるなどの権能までを認めたものではないと解するのが相当である。

 したがって、住民監査請求においては、対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように、個別的、具体的に摘示することを要するものであり、このことは最高裁判所判例(平成2年6月5日判決)においても示されている通りである。

 そこで、請求人の主張を判断するためには、個々の旅費支出行為ごとに、当該旅費支出を根拠づける公務出張の事実があったか否かを監査することになるから、監査請求においては、監査を求める旅費支出行為が個別的、具体的に摘示されていなければならないというべきである。

 しかしながら、今回の措置請求書には、カラ出張について平成6年度から平成9年12月までの合計額が摘示されているにすぎず、個々の支出について個別的、具体的なものを摘示するものとはなっていないので、請求の特定を欠き不適法であると判断する。

 ちなみに、これと同様の趣旨の監査請求が既に平成10年8月17日付で、本県監査委員に提出されており、同年10月2日付で監査請求が個別的、具体的な摘示となっていないとの理由により却下したところ、これを不服として住民訴訟を提起し現在も係争中である。