ある男が、 川を眺めていた。 毎日毎日、 ジッと川を見つめていたが、 ある日大声で叫んだ。 川は上流に向かって流れている! それからというもの、 男は毎日誰かを捕まえては、 川の流れについて尋ねてまわった。 そして相手が間違えるのを満足そうに聞くと、 勝ち誇るように教え諭してこう言った。 川は上流に向かって流れている! そんな男に腹を立てた人々は、 男を川に放り込んだ。 どんどん下流に向かって流される男を見て、 人々は大声で笑いながらはやし立てたが、 男は溺れかけながらもこう叫んでいた。 それでも、川は上流に向かって流れている! 男はどこまでも流されて、 やがて広い海に出た。 それから海流に流され波にのっかって、 男は真っ白な浜辺に打ち上げられた。 浜辺で働く漁師たちに向かって、 今度は男はこう言った。 波は沖に向かって進んでいる! 漁師たちは不思議そうな顔をしながら、 勝ち誇ったような男に向かってこう言った。 今さら何を当たり前のことを言ってるんだ、 そんなことより網を引くのを手伝え。 男は一人唇を噛みしめて呟いた。 それでもお前たちは知らないだろう、 川が上流に向かって流れているっていうことを!