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「童話的憂鬱」


うららかに晴れて、何となく憂鬱。
窓から空を眺めて、雪降りを待っている。
ホオッと窓を曇らせて、風船を描いた。

ペシミストとニヒリストが、
手を取り合って照れている。
照れて真っ赤に頬を染め、
真っ赤な風船になって空へ昇る。
高く、どこまでも高く空へ昇る。
雲の彼方のそのまた上の、
彼らの存在意義を目指して昇っていく。

たとえそこに行き着くことができたとしても、
決してそこでは存在できないということを、
彼らは果たして知っているのだろうか?
彼らの夢は初めから空しい。
この重苦しい気圧の下で作られた、
夢の中でさえ存在できない夢なのだから。
それでも、彼らは昇っていく。
どこまでも、どこまでも。

そして僕は、彼らの尻尾に手紙を託す。
彼らの行き着く先は、空ではなく、どこか遠い地面だからだ。
うさぎは言う、彼らは空の彼方で弾けて消えるのだ、と。
でも僕たちは、必ず見つめている。
いつも彼らは堕ちてくる。

空では太陽が、笑顔で拒絶している。

太陽がキラキラと照りつける。
僕の影を際立たせるほどに照りつける。
僕はたまらなくなって、街角の暗い路地を探す。
僕のコートはいつでも、太陽の光を遮るためにあるんだ。
湿った路地で、熱い缶コーヒーを落っことしたら、
ガラゴロと音を立てて、北風が転がした。
北風はいい、罪が寒いままだから。
全ての人を漏らすことなく凍えさせる。
途切れ途切れの温もりに傷つくこともない。

時計でできた人形。
残酷を犯し続けたアリス。
終わった夢しか食らわないバク。
遠い記憶の中で、傷口に埋まっていく。

この丘陵に続く道は、ほら見て、
あのてっぺんで終わって、空につながっている。
でも僕の後ろの方で、みんなは合唱している。
「あの道は向こう側に下って行くんだよ。」
違うよ、違う、違う、違う!!
僕は急な坂道を、全力疾走で駆け登る。
てっぺんはもうすぐそこ、青空はもうすぐだ。

見開かれた目・・・。

路地裏で狩りをする子供たち。
もっとでっかい獲物を狙えばいいのに。
残酷な刑罰を復活させたいのなら、
大物を狙わなければダメだよ。
痛みが痛みだと解るまで、殴り続けるんだね。
坂道を転がり堕ちていく、真っ赤な風船の僕の表面は、
北風に切り刻まれながら、グルグル、グルグルと思い出す。
僕の頭が時計じゃなかった頃、
アリスの残酷さに人としての親しみを感じた頃、
夢を分け合いながらバクと暮らしてた頃、
僕に現実感を教えてくれた人たち。
あの人たちが目指した夢の国は、現代を残酷にしている。
そう、夢の国はいつでも、残酷の上に突っ立っている。
そして子供たちは、美しい童話の世界で遊んでいる。

あの子供たちは殺人者だけど、僕はこそ泥だった。

ショーケースに並んでる、ちっぽけな笑い話。
傷が小さいほど輝きは散乱して、粉々に切り刻む。
友達を裏切ったことはないと、思い込もうとしていた。
財布から少しずつお金を抜き取って、宝物を買った。
塾をさぼって、秘密基地に閉じこもって震えてた。
セピアの雪がサラサラ、サラサラ、サラサラと、
憂鬱な気分に降り積もっていく。
僕と同じ高さの灰色の中に包まれたくて、
小悪党のままの僕は、密かに雪降りを待っている。
笑い話に胸を痛めることができるのだから、
これは案外、幸せなのかも知れない。

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