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「朝、雪の原」


僕は真っ暗闇だから、
照らされることができる。

僕は深い深い闇だから、
みんな包んで隠しておける。

僕は冷たい黒だから、
魂の熱病を冷ますことができる。

画材屋で白い絵の具ばかり買ってくるけれど、
僕がふたを開けると、全部の色が渦を巻く。
周り中の哀しみを吸い込もうともがいて、
起きてから寝るまで、もがいて、もがいて、
寝ている間にもっともっと深く冷たくなって、
こんなに真っ黒な穴凹は見たことがない。
でも、誰もが小さな頃に覗き込んだ、
砂場のトンネル、裏山の防空壕跡、
それだって、大人になった暗闇の僕は、
「見たことがない」と思う毎日を生きてる。

見たことがない、そう思い込もうとしている。

僕くらい立派な闇になると、
淡い光を際立たせることができる。
希望はいつも、光と闇の解け合う辺りにある。
勇気はきっと、朝と夜の、太陽と月の、
別れ際の挨拶から始まっている。

僕が真っ暗闇だから、
僕が真っ暗闇だから、
今日も雪の原の三百六十度に
グルン、グリン、グランと
陽光のシャンデリアがミラーボールで、
氷の感触にチリチリした僕と空気の境界線から
「おはよう、ホントに、おはよう!!」という心臓の鼓動を、
掌に乗っかる世界一の光の皇子を誕生させることができる。

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