目次に戻る 前のページに戻る 次のページに進む


「樹氷」


雪に染まるブナは雲と霞み
濃い杉木立の影を夢に沈む

朝を感じて青ざめる僕の周り
吐く息の色をした夢の溜まり

考えてみる、昨日の君の言葉の
僕の心の襞を転がってくすぐる
万華鏡を覗いたような寂しさ

雪の結晶が砕け散る少し前の
ギュッと握りしめた素手の震え

負けたくない、負けたくないって
夏の朝、握りしめた君の素手の震え

今、季節は冬
そして春の足音
君と僕の明日には
何が萌えるだろうか

雪は青く透明に、黙って立っているから
見えない君の心を、遠い言葉に求めて

掌でそっと触れてみようとしている
すり抜けてしまうのは知っている

樹氷林が目を覚ました吐息と
君が電話を切った時の音が
僕の心が寂しがる吐息と
雪煙の弾けて散る時の音に
重なって青の中に落ちていく

君を感じたくてかける電話
話すほどに積もる雪の煉瓦

朝の中、僕の存在が
一人歩きをしている

目次に戻る 前のページに戻る 次のページに進む