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「君の季節」


一日が終わり
重い疲労をまとい
君のことを思う今夜は
心の雪が美しい
君の誕生日だ

錆び始めた晩秋の丘
その真っ直ぐ上に
白銀を湛えた連峰が浮かぶ
空気が冴えるほどに
連峰はその高さを増し
口を真一文字にひき結び
大空に挑みかかる

冷たい北風に
僕は背を向けてしまう
けれども君はいつも
切り裂く木枯らしに笑いかける
「ほっぺたがパリパリになっちゃうよ〜」
なんて言って首をすくめながら
風の切れ味を楽しんでいる
冬を謳歌している

君は春を待ちこがれたりしない
君は冬の中に楽園を作り上げてしまう
冬が磨き上げたこの青空は
力強い君の笑顔だ
君を産んだ季節である
閉ざされてしまうはずがない
吹雪の中にいても
君は白い衣をまとい
雪の一粒一粒を舞い踊る

君の名前を付した
君の心のひとつひとつが
街を歩く僕の肩に積もっていく
今頃は君のそばにいて
訳もわからず誕生の日を祝う人々
滑稽なほどに騒がしいのだろう
君もその真ん中で笑っている
そんな情景を思い浮かべながら
僕のほうに向けられてる心が温かい

木々も動物たちも
体内の鼓動を聴く季節である
荒れ狂う冬を迎えるたびに
氷塊の透明な悲しみを刻みつけ
汚れと共生していく君の生き方は
純粋さを諦めないが故に痛い
笑顔の裏のその涙の輝きは
結晶のように儚く鮮烈だ

去年の写真を見つけた
チェックのコートと
真っ赤な手袋
マフラーが弾ける
君がクルクルと回る
冬の中の全てのものは
君を輝かせるためにある

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