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「歌うたい(その3)- 四季夭折 -」11


越えにしは貴女と僕の太陽を交わし合うため ひとすじの道

自動車を掘り出すからに陽も隠れシャベルの腹に根雪ありけり

自動車も黙して歩む雪の夜の丸まった背に灯火冴え立つ

寒き夜に雪明かりのみ照らされて人の踏みたる道はありけり

白津波 走りながらの雪だるま 前進のみが生を継なげむ

大雪に人の情けは温かく借りたシャベルでタイヤ掘り出す

形なくただ歌うたい求むれば生は歌なり人は歌なり

人間性を感じさせるくらいの不便さが必要なのです

ふるさとにうぐいすの風 妹は早や髪をとかして朝市に発つ

崎々を寄せ来る風は果てしなく僕の背中を追いかけている


     生くるたび背負いにけりな豊かなる河の流れとならむがために

     断ちてなお逢わるることの思われて五月ぐもりは心なりけり

     風吹けば風車の如く君想う

     巡りゆく瞼の君も旅立ちて四季夭折の部屋に一人

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