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「歌うたい(その3)- 四季夭折 -」03


秋風の運び渡りし心には歌が宿りて君と聞こゆる

不器用にレンゲの花が咲いている 枯れ田の真ん中 たった一人で

芽生うれど冬なれば摘め 慎みて 無言心は見苦しからじ

雀子の十羽二十羽 さわさわと幕引きゆきて秋は暮れぬる

棚引ける雲の金幕 その下に影のみ空を抜きて山あり

台所 洗い物して裸手に水の刺さりぬ 秋になるかも

吾が歌に詠まれし枯れ木 返し見れば 歌を打ち捨て立ちてありたる

冬迎う雨になるかも 秋梅雨は緑葉までも枯れよとぞ降る

朝露に濡れて袖垂るしなだれの草の乙女は衣通姫かな

誰人に愛されざるも風は吹く 日も射してくる 人を愛せと


     彼方なる街の灯凍る夜道には ペイヴメントを歌う吾が恋

     空しきは結果でなくて吾が心 空しく思う心なりけり

     シリウスに望みて歌う いつの日も吾偽らぬ吾でありたし

     雨音打ち泥に染み入る秋の草 今を境に冬は来にけり

     君形の残りて温む麻衣を眺めて過ごす今日の夕暮れ

     咳止める薬はなきや 堰き止める堰をば越えて妹は来にけるに

     M・Jのリズムに合わせ踊りたるこの蜘蛛の巣の揺れぞ楽しき

     ウインドウ覗きて前髪直したる 彼を待ちぬや ガンバレ女の子

     夜に冴えて朝に煙るこの空は恋しき人の心映えにや

     冬枯れの芝生の上に寝転んで一直線に落ちる空かな


難しき顔して詠める歌どもは字のみ力みぬ いばりくさって

この空を何と言おうかこの空を 紅染まる一番星の辺り

まだ来ぬか 葉は色づきぬ三階の窓に届かぬ幼木の冬

ネクタイの結び目親父に教わりて古くなれども止められもせず

軽すぎて役に立たざる財布なれどあるを確かむ 尻のポケット

口すいてふっと恥じらい漏らす君の息の匂いも慣れて甘めき

押し止む堰をも越えて溢れ来し たぎる生命の片想いかな

片恋は果てぬ生命の証なれ 心臓は打てり 心臓は打てり

半生を語りし人の闘争を自慢話と受け止む友ら

夕に枯れ朝に生まる日の如く去らず継がれよ 歌の心木

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