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「軋む音」


車のシートに身を沈めて
シートベルトをかけて
昨日のことを考えていると
呼吸に合わせて
留め金がギシギシと
音を立てた

生きるってことは
軋み続けることなんだろう

聴診器の向こうから
関節や筋肉の
軋む音を聞いたとき
感じたことは
ただの苦しみでも
まして喜びでもなくて

猫が脇の茂みから飛び出して
車の前を駆け抜けていく
子猫が残っていないのを確かめて
車を走らせ始める
この軋む音は
祈りなのかもしれない

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