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「風と波の歌」


風を感じたことは ありますか?
空気の粒子が 揺れて
さらさら さらさらと
そして段々と 押されて
押されて 押されて
僕の頬の上で
押し潰されまいとして
やがて風が どっと押し寄せる寸前
空気の粒子達の
血を吐くような 叫びを
叫びを 叫びを
かき消すために
僕の心は 風に移っていくのです

波を見たことは ありますか?
宇宙のどこかで 生まれた波は
沖に根を下ろし
丘のように 山のように
盛り上がって
だけどあくまで 海とひとつのままに
ゆっくり 静かに
忍び寄って 頭を起こして
立ち上がって
それでもまだ 海とひとつのままに
離れまいとして 踏ん張って
踏ん張って 踏ん張って
そして ふと 力尽きて
引きちぎられるような
最初のしぶきの 絶望を
絶望を 絶望を
見ないようにするために
僕の目は 波の行方を追うのです

風を感じたことは ありますか?
波を見たことは ありますか?
心と目を
研ぎ澄まさない優しさを
美しいものだけを
信じきっていく強さを
捨ててしまいたいとは 思いませんか?

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