目次に戻る 前のページに戻る 次のページに進む


「夏の日の、夕暮れが好き」


風涼み
小さき妹の
手を引きながら
坂の道
夏の日の
夕暮れが好き

「あーそーぼー」
「お夕飯なの、また、あーとーでー」

虫取り網に
麦わら帽
枝渡る
ひぐらしの声
小さき妹の
手を握りしめて
草の道を
伸びる影から
逃げるみたいに
うつむき歩く
夏の日の
夕暮れが好き

「お腹へった」
「うん」
「お腹へったよ」
「我慢しい」

ススキで切った
くるぶしが
ジンジンとかゆくて
赤トンボとヤブ蚊から
妹を守るのに
精一杯で
いつの間にか
薄闇に抱き寄せられた
ご病気の
かあさまの代わり
夏の日の
夕暮れが好き

目次に戻る 前のページに戻る 次のページに進む