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歌うたい(その2)- 二十四の頃。-


僕を見る鏡越しの眼鏡 その奥の瞳に映す 僕の振幅

温かき手を求めてる 吾の内に弱き心を感じながらも

目を凝らす 一生懸命窓の外 近視の心を治したいから

春雨に濡れてうつむくつぼみだに 開かれざるはなしと思えば

春雨にうなだれる草も故ありて 朝露はじく時を待つらむ

心より身体の動く人々を 羨ましなど思う日もあり

雨の音が積もりて生まる静寂に 君とのことを考えている


     顔を見て 目のみそむける笑顔かな スポンジライトな人の関係

     せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ それぞれの春

     雨を裂く青なり 銀河鉄道の無限軌道や 陸橋見上げれば

     鍬置きて雑草むしる老婦の背で 猫があくびして待っている午後

     エレベーターの夢より覚めて 緑田の忙しき人をじっと見ている

     徹夜明けの 一事を期するこの瞬間に プールの底の匂いがしてる

     会いたけれ 受話器を取りて眺めるも 裏切ることと想い止めむ


放り出した足先の裏 見つめながら 千切れたようにぴくり振るえた

友達のただ一言に乱されし この心こそ生活になる

幼子が母の手だけで歩いてく 変質する日を迎えるために

手の玉の吾が愛児なりと 数年前に親を捨てたるあなたが笑う

振り向けば 母は小さき手のひらを握り続けて 今五十なり

孤独とは 愛する人の生命を消せど 動かぬ心なんだろう

僕を僕でなくする全てのものに 受け入れられたく思う 二十四

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