飲酒とストレスについて |
人はストレス解消に飲酒をよく利用することは、いろいろな調査から良く知られている事実です。最初は、ストレス解消が目的であっても一部の人達はアルコール依存症への道をたどることになります。何故、人はアルコールを飲み、限られた人達が病になるのでしょうか。 |
ストレスがアルコールを必要とする? |
田所作太郎先生(群馬県立医療短期大学)によれば、動物は本来アルコールを嫌うものであるが、ストレス下ではその様相は異なってくる。ネズミやサルの実験では、一定の間隔で電気ショックを与えると、めったに口にしないアルコールを飲むようになる。今度は、30回レバーを押すと餌が出るように条件付けたネズミに、ブザーが鳴っている間はレバーを押すと餌とともに電気ショックが加わるようにしますと、食べたいが電気ショックは嫌だという葛藤状態におちいる。そんな葛藤状況のネズミにアルコールを飲ませると、電気ショックをものともせずにレバーを押して餌を求めるようになると言います。(アルコール・シンドローム No.35より) このように、アルコールが動物においてストレス状況下でそのストレスを軽減していることは間違いがない。人間においても同様と考えられ、男性のストレス解消法の第一番が飲むことであるのは了解できる。ストレスがあるところ、アルコールが存在しやすいことは納得できる。 |
ストレスが脳を傷害するか? |
ストレスが加わると、その刺激が視床下部を刺激する。刺激された視床下部は脳下垂体を刺激するホルモンを出す。そのホルモンによって脳下垂体からさらにホルモンが放出され、ついには副腎皮質よりグルココルチコイドというホルモンが放出され、生体に働く。このグルココルチコイドは、ストレスが加わった時期が短期間であると生体防御の働きを行う。しかし、ストレスが慢性的に持続したりすると体に対して侵襲的にはたらく。最近では、このグルココルチコイドが情動や記憶を司っている大脳辺縁系に関与することが発見されている。特に大脳辺縁系を構成する海馬において、その細胞が傷害されることが発見されている。つまり、ストレスによって脳が傷害されることになる。しかし、以前に脳の神経細胞は一度傷害されると再生されないと言われてきた。しかし、海馬において再生がされることもわかってきている。 実際に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の人達の海馬は小さくなっているという報告もあ。このことは、ストレスによって脳が機能的な変化が生ずるだけでないかもしれないことを示している。 |
AC(アダルトチルドレン)は何故アルコールを好むのか? |
ACは機能不全家族に育ったという環境に規定される用語である。つまり、子供時代に親からの慢性的なストレスを受けており、海馬を含めた情動系や記憶系の神経系ネットワークの構造が変化し、ストレスに対する耐性が低くなることが予想される。動物実験での結果が示すように、ACはストレス耐性が低い結果、ストレス軽減のためにアルコールを求める傾向が強いであろう。 一方、「環境も親の遺伝子に規定される面がある」と言われている。環境は突然にめぐってくる天地災害という親の遺伝子とは無関係な面もあるが、どんな住環境を選択し、どんな配偶者を選びどんな仕事に就くかは、意識するかは別にしても親の遺伝子に強く影響を受けている可能性がある。ACの親はストレス負荷が強い環境で生活しストレスの高い行動をとっている。それらが次の世代に遺伝子に刷り込まれたかのように、ACはストレスの多い環境や行動パターンを選んでいる。このことからも、ストレスを少なくするためにアルコールを好むことが予想される。 このように、ACは機能不全家族の中で育ったために、小さいときに獲得した対処技術が成人になった時にそれが反って災いして生きづらくなると言われてきた。もちろんその面もあるだろうが、脳の構造の変化や親の遺伝子に規定される面もあり、複雑な過程が考えられる。しかし、ACがアルコール依存症へのハイリスク者であることが、ますます強いと言えるであろう。 ACとは呪われた存在なのだろうか。環境と素質や気質という親からもらった遺伝子による呪縛から解き放されることがないのであろうか。そんなことはなく、多くの方が開放されているのが事実である。脳の神経細胞は再生されないという神話が崩れ、変えることが出来ないと思われた神経系の構造も変えることが可能と思われる。このことは、ACをサバイバーとして前向きに考え、考え方や行動を修正しながら生きていくことが可能なのだ。 |