数時間後。 夜空には夏の星座が輝いている。
今夜も熱帯夜だった。
三田村は貴子と一緒に、暗がりに身を潜めて町外れのコンビニを見張っていた。深夜なので辺りに人影はない。
蚊に悩ませながら待っていると、やがて若者が運転する四輪駆動車が駐車場に入ってきた。駐車場の隅に車を停めるとエンジンをアイドリングのまま店に入っていく。 三田村は貴子と無言で頷き合うと、乗用車へ走り寄った。店内から死角になっているので誰にも見つかることなく車を盗む。時間にして十秒ほどの間だった。
「仕方ないけど、あんまり運転したくないわ、この手の車は」
「あの車じゃ目立ってしょうがない」 この四輪駆動車は売れている車種だったので、スタイルの割には街中でもさして目立たない。
打ち合わせていた通りに、貴子は四輪駆動車を街中へと夜の国道を走らせる。パトカーとすれ違ったが、安全運転を心がけているので特に何事もない。数分で盛り場に着いた。
「じゃあ、一時間後に迎えに来てくれ」
「本当に一人で大丈夫なの?」
「一人の方が動きやすい。あんたがいると足手まといなんだ。それよりも頼んだものを忘れるなよ」
「解ってるわよ。じゃあ、せいぜい気をつけてね!」
「そっちこそな」
三田村は夜の闇に消えていく四輪駆動車を見送ると、人混みでごった返す盛り場を彷徨き始めた。
数分歩くうちに、前方から近づいてきた若いチンピラとすれ違った。探していた相手だ。拳銃を忍ばせている証拠に、上着の腰の後ろが不自然に膨らんでいた。
三田村は後を着けていき、人通りの絶えた裏通りに入ったところを後ろから強襲した。脇腹のレバーに右フックを浴びせると、チンピラはあっけなく悶絶した。腰のベルトに刺していた拳銃を奪うと、身体を引きずって小路に入る。
三田村は、自分の身に何が起こっているのか理解できていないチンピラの口に拳銃を押し込んだ。遊底を操作して薬室に初弾を送り込む。後は引き金を一センチほど引くだけで弾が銃口から飛び出る。それを理解したチンピラの股間に、失禁の染みが広がっていった。
「悪いな、兄ちゃん。ちょいと付き合ってくれ。何、二三聞きたいことが有るだけさ」
二十歳そこそこのチンピラは、拳銃に上下の歯を当てながら必死に何度も頷いた。
「よーし、いい子だ。なら話が早い」
三田村は拳銃を抜いてやった。だが銃口はチンピラに向けたままだ。
「聞きたいのはコイツのことだ。お前ら、誰からコイツを買ってるんだ」
「誰って、変な日本語を喋る外人が売りに来て……。あんまり安かったから」
三田村は、自分を襲ってきた男達の言葉を思い出した。
「ロシア人か? それとも朝鮮人か?」
「白人だった。ロシア人かどうか分かんない」
「そうか。で、そいつは何処にいる」
「知らないよ、本当なんだ!」
「噂ぐらいは聞いたこと有るだろう」
三田村は微笑みながら、眉間に銃口を押し当てた。
「《ヴォルガ》って店が、奴らが溜まり場にしてるって聞いたことがある! 俺が知ってるのはそれだけだ! 本当だ!」
「ありがとよ」
「殺さないでくれ! お願いだ!」
三田村は、拳銃を左手に持ち替えると、チンピラの鳩尾にボディーブローを叩き込んだ。海老の様に身体を二つに折って悶絶するチンピラの後頭部に拳銃を振り下ろす。
頭から鈍い音を上げてチンピラは気絶した。
数時間後。
三田村は四輪駆動車の助手席で双眼鏡を覗いていた。幾つか貴子に頼んだ品物のうちの一つだった。離れた物陰から《ヴォルガ》を見張っているのだ。
《ヴォルガ》は港に面した通りにあるロシア料理店だった。
真夜中だというのに、店の明かりは煌々と照らされ、人の出入りも途切れない。やがて見覚えのある大型乗用車が《ヴォルガ》の駐車場に入ってきた。乗用車から降りてきたのは、予想通りに三田村達を襲った男達だった。
「間違いないな」
運転席の貴子が興奮気味に話しかけてきた。
「じゃあ、ここに資金が有るのね?」
「そいつはまだ解らないさ」
更に待つと店の明かりが消え、男達が出てきた。後に続いて年輩の男が出てきた。男達に口早に何かを命令している。
「どうやら、あの男が知ってるようだ」
年輩の男は男達を送り出した後、自らも駐車してあった高級外車に乗り込んだ。何処か向けて走り出す。
「よし、あの車を後をつけろ」
貴子は四輪駆動車を発進させた。
外車は倉庫街に向かって行く。かなりの距離を置いて慎重に尾行していく。外車とは離れたままだったが、車の絶対量が少ないので見失うこともない。
やがて外車は港へ入っていく。許可証を持っているらしく税関を簡単に通り抜けた。接岸している船のすぐ側に建てられた大きな倉庫の前で停車する。その倉庫の巨大な鉄扉にはロシア語で文字が書いてあるが、三田村には意味は分からない。
「あれが、そうなの?」
「どうやら、そうらしいな。随分堂々とアジトを構えているもんだ」
「相手はロシアン・マフィアね」
「たぶんな。手先には《北》系のヤクザも一枚咬んでるだろうけど、実際に組織を動かしてるのはロシア人だろう」
「これから、どうする」
「焦ってもしょうがない。今日のところは引き上げようぜ」
「アイツら逃げないかしら」
「それはないだろう。奴らが金をバラ撒いて警察のお偉方を買収してるんだ。せっかく銃と覚醒剤の闇ルートを持ってることだしな」
「それはそうね。あたし達二人でアイツらとドンパチやるには用意がいるものね」
「いや、戦っちゃ勝ち目はないさ。戦わない準備がいるんだ」
貴子は感心した表情で頷いた。
「さあ、引き上げようぜ。腹も減ったことだしな」
「確かにろくなもの食べてないものね。あたし達は。それで何食べようか?」
貴子は四輪駆動車を発進にさせた。
「ロシア料理ってのはどうだ」
貴子が笑顔を見せた。
「それって冗談のつもり」
三田村も笑った。
二人が乗った四輪駆動車は闇に消えた。
翌日。
三田村と貴子は、ホテルの最上階にある展望レストランで昼食を楽しんでいた。場所に相応しく三田村はスーツ、貴子はドレスに身を包んでいる。二人が座っているテーブルに面した窓からは、港に停泊している全ての船が一望できた。
「あれが奴らの船ね」
貴子が優雅に指さした先には貨物船《キーロフ》が停泊していた。上甲板には中古乗用車と、袋に積まれた農薬が所狭しと積み上げられている。
「日本に来るときに《北》に寄って来たみたいね」
「そこで仕入れたってわけか」
「考えてみたらボロい商売ね。どうせ、あっちでは余ってるようなものでしょ。きっと只みたいな値段ね」
「そいつを日本に持ってくれば、ざっと十倍、いや二十倍か。確かにボロいな。川本が食い込みたがったのも無理もない気がする」
「その口振りだと、そうでもないみたいね」
「まあな。俺の知ってる川本なら絶対にやらないな。事業に失敗でもしたのか、それとも土地で大穴を開けたのか……」
「ねえ、そう言えばあたし、あんたのこと何も知らないわ。何で川本と手を切ったの? 聞かせてよ」
「大した事じゃないさ。男同士が揉める元は、昔っから酒・金・女と相場が決まってる」
三田村はグラスを掲げ、川本も好きだったワインを飲んだ。
川本は賢い男だった。暴対法施行をきっかけに裏の仕事からは手を引き、クラブやカラオケボックス、ゲームセンターといった表の仕事に乗り換えていた。
三田村は、危険のない仕事に就かされたが、それは自分が望んでいる日常ではなかった。
殴り合いやナイフは日常茶飯事。ときには日本刀(ポントウ)や銃弾の下を潜ったことさえ有る。
空虚な日常を命懸けの危険が埋めてこそ、三田村が川本と組んできた意味がある。
三田村にとって、安全と退屈は同意義だった。
倒れるまで酒を飲むか、盛り場でケンカを吹っ掛けるか。
そんな毎日を送っていた三田村に転機が訪れた。気まぐれで遊びに行ったソープランドで一人のソープ嬢と出会ったのだ。。彼女は高校のボクシング部のマネージャーを勤めていた中野麻由美だった。
彼女は、三田村が初めて惚れた女だった。高校時代は気持ちを打ち明けることなく卒業と同時に縁が切れていたが、こんな形にせよ五年ぶりに彼女と再会できたことを三田村は複雑な想いで喜んだ。
その日から三田村の全てが変わった。店には行かず、外で高校生のようなデートを重ねた。幸い彼女も三田村の気持ちを受け入れてくれた。麻由美にソープ嬢を辞めさせ、彼女が背負っていた借金を肩代わりし、食い物にしていた男を半殺しにして手を切らせた。その一方で三田村は堅気を目指し、バーテンダー学校に通い始めた。
数ヶ月後。
三田村は川本の事務所を尋ねた。
全てを三田村が話すと、川本は泣き出しそうな顔を見せた。
「俺を見捨てるのか?」
三田村は川本から眼を反らした。
「そうじゃない。俺は麻由美と一緒に暮らしたい。だから足を洗って堅気になりたいんだ。それだけなんだよ」
川本は爆発した。駄々をこねる子供だった。
「『女と暮らすために堅気になる』だって? 今さらネクタイでも締めんのかよ!」
川本の声が猫撫で声に変わった。
「出来る訳ねえよ。お前には無理だ。なあ、お前には暴力が似合ってる。お前は堅気(あっち)の世界に居場所がねえからこっちに来たんだぜ」
「俺は……」
三田村の言葉は川本に遮られた。
「それが証拠に俺達は上手くやってきた! お前が退屈な世界に帰れるわけねえんだよ!」
「チンピラの俺を拾ってくれたアンタには感謝してる。だが俺は変わったんだ。もうゴメンなんだよ、斬った張ったの話は。俺は静かに暮らしてえんだ」
「そうかい、お前までが俺を見捨てるのかい。糞ったれ、一寸落ち目になったから、すぐにこれかい!」
川本は血走った眼で三田村を睨むと、机の引き出しから取り出した拳銃を向けた。
三田村の口の中に苦い物が上がってくる。初めて感じる類の恐怖で胃が痙攣した。
川本が引き金を引いた。撃鉄が乾いた音をたてた。弾は出なかった。川本は拳銃を机の上に放り出すと、三田村に紙袋を投げてよこした。
三田村は感触で中身が札束だと解った。
「行けよ。そいつを持って、この街から消えちまえ。二度を俺に面を見せるな」
三田村は黙って頭を下げると、川本に背を向けて事務所を後にした。
「……まったく男って馬鹿ね」
「馬鹿だから女に惚れるのさ」
三田村は煙草に火を点けた。
「その後どうしたの」「川本に貰った金で店を買った。《スレッジ・ハンマー》っていう小さなバーだ」
「へえ、幸せな女(ひと)ね。あんたの奥さん」
「さあな、そいつは墓の下にでも行って聞いてみないと」
「死んじゃたんだ、奥さん」
「ああ、病気でね。もう七年も前の話しさ」
「そうだったの……」
貴子は、そう言ったきり黙ってしまった。
三田村は、紫煙の向こう側を眺めながらぽつりと漏らした。
「その店にだって、もう戻れやしねえがな」
再び夜が巡ってきた。
三田村と貴子は双眼鏡を交互に使って、四輪駆動車の中から《キーロフ》の様子を探った。あちこちに灯されたライトで船体が黒く浮かび上がっている。二人は黒い作業用のシャツとパンツを身に着け、足には黒い靴下とスニーカーを履いていた。手にも黒い手袋をはめ、顔も靴墨で黒く染めてある。
二人がいるのは港から少し離れた海浜公園だ。ここから海上を行けば税関に見つかることもない。完全に夜の闇に紛れている二人は、四輪駆動車から降りると、後部のゲートを開けて荷室から黒いゴムボートを降ろした。二台のフットポンプを使いボートの気室を膨らませていく。膨らんだボートを海岸まで運ぶと海に浮かべる。再び車に戻って荷物を持ってきた二人はゴムボートに乗り込むと、港へ向けてオールを漕ぎ始めた。距離感が狂いがちな夜の海を静かに進んでいく。幸い風もなく、水面は鏡のように静かだった。
黒いゴムボートは闇に溶け込んでいが、用心を重ねて港内を慎重に漕いでいく。特にオールが水面を叩く音が出ないよう、ゆっくりと水に入れるようにしながら漕いだ。港に近づくに従って、油と鉄の匂いが磯の香りに混ざった港独特の匂いが鼻を突いた。
二人は税関に見つかることもなく港の内部に進入すると、ボートを岸壁に接舷させる。ロープでボートを固定して再上陸した。三田村はポリタンクを、貴子は機関短銃を手にしている。二人とも大型のデイパックを担いでいた。
二人は《キーロフ》を目指して慎重に移動する。深夜の港には誰もいなかったが用心に越したことはない。《キーロフ》まで近づくと慎重に辺りの様子を伺った。誰かに襲われる事など考えていないらしく、タラップが降ろしたままになっていた。船室の窓に明かりはなく、どうやら船に残っている人間は全員眠っているようだった。
鉄製のタラップを、二人は静かに昇っていった。足下の黒いスニーカーは旨く足音を殺している。幸い上甲板まで誰にも見つかることなく上ることが出来た。上甲板には、昼間に偵察したとおりに農薬と中古車が積み込まれていた。
三田村と貴子は手分けして、計画に取りかかった。積み上げられた硝酸系肥料の袋を破ると、中身の肥料を甲板に撒いていく。仕上げに甲板中央に山にして肥料の粉を積み上げた。その後、二人は中古車の腹に潜り込むとポケットから小型のラチェットレンチを取り出した。片っ端からガソリンタンクのドレンボルトを外していく。それぞれの車のタンクに残っているガソリンは僅かだったが、それでも全部を集めると上甲板を濡らすことぐらいは出来る量だった。そのガソリンは上甲板に撒かれた肥料に染み込んでいく。
三田村は積み上げた肥料の山に、持ってきたポリタンクの灯油をぶちまけた。灯油はたちまちのうちに肥料に染み込んでいく。ガソリンと違って灯油は揮発性が薄い。その性質が、二人が船から逃げる時間を稼いでくれる。 最後にバッグから小型のバッテリーとタイマー、ガラスを割った電球を取り出した。簡単な時限発火装置だ。セットした時間が来れば、バッテリーが電球に電気を流しフィラメントを赤く焼く。その熱で灯油に火が付く。その火はガソリンと混ざった硝酸系肥料を爆発させる。かなりの威力があるはずだった。たとえ爆発の威力が低くても、船に間違いなく火災を起こすことが出来る。
二人はタイマーをセットして船を離れた。敵のアジトの近くまで来ると、物陰に身を潜めて爆発の時を待った。
倉庫の前には昨日と同じように高級外車が停まっていた。
「あんなこと、何処で覚えたのよ」
「何、見習いに行ったバーのマスターが元過激派だったのさ」
程なくして《キーロフ》の甲板に小さな火が付くのが見えた。続いて肥料が爆発する。大音響と共に、船のマストの何倍もの高さまで炎が上った。肥料爆弾の威力は想像以上に大きく、衝撃で船体は岸壁に擦り付けられる。炎に照らされた黒煙が夜空に昇っていた。
予想通り、アジトから男達が走り出てきた。一斉に船に向かって走り出していく。
その隙に三田村と貴子は敵のアジトに進入した。
倉庫の中は真っ暗だったが奥の方から灯りが漏れていた。それぞれが拳銃と機関短銃を構えた三田村と貴子は、慎重に明かりに近づいていく。中身の解らない木箱がそこかしこに積まれていて迷路の様になっている。ありとあらゆる匂いが混じり合った、嗅いだことのない匂いが鼻をくすぐった。
明かりに近づくと、そこは倉庫の一角をガラスの隔壁で区切って作られた事務所だった。
三田村達は物陰に身を潜めると事務所の様子をうかがった。机や椅子が並んでいる部屋の隅には、狙い通りの大きな金庫が置いてある。その前には《ヴォルガ》で見た年輩の男が一人いるだけだ。絶好のチャンスだった。
三田村は暗がりから走り出すと、一気に事務所に突っ込んだ。驚きのあまり、何かを叫ぼうとしたまま固まっている男の顔に拳銃を突っ込んだ。
「おっと、そのまま動くな。命が惜しかったら金庫を開けな」
「馬鹿な真似は止めろ」
男は想像以上に流暢な日本語で話した。
「悪いけどな、オッサン。俺は自棄になってるんだ。手間をかけさせない方がいいぜ」
三田村は拳銃の撃鉄を起こした。三田村の本気が伝わったのか、男は渋々立ち上がった。
「おっと、ゆっくり動きな」
貴子は期間短銃を手にして、事務所の入り口で外の様子を見張っている。
男は金庫の前でしゃがみ込むと、ダイヤルを左右に回し始める。
「時間を稼ごうとしても無駄だぜ。奴らは当分帰っちゃこねえ」
男が更に何度かダイヤルを回して錠の番号を合わせた。鍵が開く金属音が聞こえた。ハンドルを下げると重々しい扉が開く。
三田村は扉が開くと同時に、撃鉄を戻しておいた拳銃の銃把で男の後頭部を手加減なしに殴りつけた。金属と激突した頭は鈍い音をたてた。昏倒した男の身体を事務所の隅に引きずって隠しておく。改めて金庫開けると、その中には金塊と手の切れそうな百ドル紙幣と一万円札の束、それに宝石や貴金属類が詰まっていた。
「やったわね!」
「ああ、何とかな」
しばらくのあいだ、手にした獲物に目が眩んでいた三田村は貴子だったが、やがてバッグに金庫の中身を詰め始めた。だが、作業が半分も終わらないうちに倉庫からロシア語と朝鮮語が聞こえてきた。組織の男達が戻ってきたのだ。予想外の出来事だった。
「くそっ! もう戻って来やがったのか?」
その時、昏倒していたはずの男が叫び声を上げながら事務所を飛び出していった。
「しまった!」
異常事態に気が付いた男達は、倉庫に走り込んでくると事務所目掛けて闇雲に銃を撃ってきた。弾丸に粉々に割られた隔壁のガラスが雨の様に降ってきた。更に弾丸が次々と撃ち込まれる。
三田村は机の陰に隠れるしかなかったが、貴子は相手の攻撃の隙間を縫って、機関短銃を撃ち返していた。
「武器を探して! 弾も! この事務所のどこかに転がってるはずよ!」
「解った!」
倉庫の内部に響く幾つもの銃の発射音で、顔を見合わせる距離でも大声を出さないと会話できない。
三田村は床を這いずるように移動すると、ロッカーや机の中から拳銃や弾、機関短銃用の円型弾倉を見つけ出した。自分の分の機関短銃も確保する。それらを抱えて貴子の元に戻った。
「これだけ有れば何とかなるか?」
「さあね。分かんないわ! でも無いよりはましでしょ! 弾倉を取り代えるから代わりに撃って!」
貴子はそう言って笑顔を見せると、空になった円型弾倉を素早く機関短銃から抜いた。
三田村は自分の機関短銃の薬室に装填すると、相手の銃火を目印に撃ち返し始める。
貴子も弾倉を装填し直すと再び撃ち始めた。
三田村は自分の腹に違和感を覚えた。何かが突っ込まれたような感じだ。銃を放り出して自分の腹を見ると、黒いシャツが吹き出した鮮血が染まっている。それを見た途端に激痛に襲われ、身体が動かなくなる。
「大丈夫!?」
次第に気が遠くなり、貴子の叫び声や銃声が遠くから聞こえてくる気がしてきた。
突然、銃声が止んだ。
三田村の視界の隅に突如黒い戦闘服の男達が現れた。
男達の腕に縫いつけられたパッチには「JAPAN POLICE SAT」という文字が踊っている。
男の手によって三田村の手首に手錠が食い込んだ。信じられない想いで貴子の姿を探すと、彼女の手にも銀色の手錠が光っていた。
それを最後に、三田村の意識は急速に遠のいていった。