全国トンネルじん肺北陸福井訴訟訴状(骨子)

第一 本件訴訟の意義

第二 当事者

第三 じん肺の被害と病理

第四 じん肺訴訟の果たしてきた役割と到達点

第五 四国トンネルじん肺訴訟の到達点と教訓

第六 トンネルじん肺患者多発の構造

第七 トンネル工事と粉塵の発生・暴露

第八 被告らの責任

第九 損害

第一 本件訴訟の意義

 1996年10月31日、全国トンネルじん肺補償請求団が北海道から九州まで全国22道府県に点在するトンネルじん肺患者623名が参加して結成され、その後、1997年4月末日現在、34道府県721人のトンネルじん肺患者が結集した。

 請求団は、トンネル工事にかかわってじん肺に罹患した者が、加害企業に対し、加害企業がその社会的責任を認め、裁判によらずして補償を実現させることを目的に結成され、この目的を実現するための手段としての裁判を活用して勝利させるとともに、じん肺根絶を目指す活動を行うことを方針としている。

 請求団の運動方針は、第一に、加害企業に対する要求として、@じん肺を発生させた社会的責任を認め、謝罪すること、Aじん肺被害の実態にみあった賠償と解決金を支払うこと、Bその際、消滅時効を理由とする責任回避をせず等しく賠償を行うこと、Cじん肺を発生させないため、今後万全のじん肺防止対策を行うことを掲げ、第二に、@公共工事・トンネル工事発注者である政府と都道府県の共同責任において社会問題としてのトンネルじん肺問題の解決にあたること、Aトンネル建設工事現場において粉塵測定を義務づけること、Bトンネルじん肺補償基金制度を創設すること、などを掲げた。

 請求団は、これらの目的と方針を実現するため、代表的な原告を東京と主な地域において、大手ゼネコン14社と日本鉄道建設公団を主要な被告とする訴訟を提起し、これを請求団員全ての要求を実現するための先行代表訴訟と位置づけることとした。この先行代表訴訟により、未提訴の全てのトンネルじん肺患者の権利救済の解決基準とシステムを確立する。もし被告が請求団の要求に応じないときは、第2陣、第3陣の先行代表訴訟を提起し、全国的に裁判闘争の場を拡大する。

 1997年5月19日、請求団は、東京・仙台・徳島・松山・高知地方裁判所に第一陣先行代表訴訟を提起した。そして、本日の福井地裁における提訴は、その後を継ぐ第2陣先行代表訴訟として、金沢その他において提起された。

 これら先行代表訴訟は、これまでの26件の判決及び四国じん肺訴訟の和解によってもたらされた解決基準と解決のあり方を踏まえて提訴されたものであり、責任論・損害論とも既に司法解決の上では決着済みである。本件訴訟の争点は、原告の粉塵職歴・トンネル工事への就労関係の確定のみである。

第二 当事者

 トンネル建設工事で掘削作業などに従事する労働者が個々のトンネル建設工事現場ごとに採用され、雇用と解雇を繰り返しながら、総体として長期間トンネル建設工事に従事しているという建設業特有の雇用形態のため、各原告ごとに被告の数は数社、数十社に及ぶ。その中で、請求団の粉塵職歴期間総合計の内65%以上の期間が大手14社と鉄建公団におけるものであった。大手14社は、わが国の建設業界における主要な企業であるとともに他企業に比較してずば抜けて多くのトンネル建設工事を受注しているものであり、その結果として粉塵職歴期間が大手14社に集中しているのである。したがって、大手14社と鉄建公団が主要な被告であり、これら被告が本件全体を解決すべき責任がある。

第三 じん肺の被害と病理

 じん肺とは、「粉塵を吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」である。多量の粉塵が体内に吸入されると、粉塵は肺胞腔内に蓄積し、肺胞壁を破壊し、そこに線維ができ、結節ができる。こうしてどんどん粉塵が肺胞腔内に蓄積され、肺胞壁が破壊され、肺胞のガス交換機能が失われていくのである。じん肺の病変は、このような線維増殖性変化の他、気道の慢性炎症性変化や気腫性変化等を伴い、持続性の咳、痰や呼吸困難、心悸亢進等の症状に苦しめられる。じん肺は、不可逆性、進行性、全身疾患性の疾病である。じん肺法では、合併症として肺結核、続発性胸膜炎、続発性気管支炎、即発性気管支拡張症、続発性気胸の五つを法定しているが、その他にもじん肺に関連して肺ガン、肺性心、カプラン症候群、免疫病理学的疾患等を併発しやすい。

 じん肺の初発症状は、多くの場合咳、痰であり、体動時の息切れや呼吸困難を自覚するようになり、やがて動悸、胸痛を訴え、安静時にも息切れや呼吸困難を自覚するようになり、唇のチアノーゼ、ばち状指等の症状を呈し、右心肥大、ついには肺性心を起こすに至る。

第四 じん肺訴訟の果たしてきた役割と到達点

 じん肺訴訟ではこれまで26件の判決が出されているが、いずれも企業のじん肺加害責任を明確に認めるものとなっており、特に長崎北松じん肺、東京松尾じん肺最高裁判決(時を異にして健康保持義務違反・不法行為を行ってきた複数の加害企業に対して民法719条1項後段を類推適用)によって、司法の場においても企業のじん肺加害責任は争いのないものとして確立した。そして、大阪高見じん肺訴訟判決でトンネルじん肺訴訟における元請企業の加害責任は確立した。トンネルじん肺の集団訴訟である四国じん肺訴訟の和解もこれらじん肺訴訟の判決を踏まえたものである。

第五 四国トンネルじん肺訴訟の到達点と教訓

 四国トンネルじん肺訴訟は、わが国初めてトンネルじん肺患者が主体となって提起した大型集団訴訟である。その主要な争点は、被告企業の安全配慮義務違反、直接雇用関係にない元請企業や発注者に対する責任、複数加害企業の連帯責任、消滅時効等であったが、主要被告企業である大手ゼネコンをはじめ多数の被告ゼネコン全体との間で全面的な和解を成立させた。それは、被告企業が企業責任・元請責任・連帯責任を肯定し、時候対象者を含む全員解決を救済したものである。

第六 トンネルじん肺患者多発の構造

 戦後高度経済成長期以降、鉄道トンネル、道路トンネル、発電所建設に伴うトンネルのみならず、灌漑水路トンネル、上下水道トンネル、地下鉄、地下街などのトンネルが多数建設された。1960年代以降、わが国はトンネル掘削量、工事費世界第一位のトンネル建設大国となった。その結果、多数のトンネルじん肺患者が発生したのである。1978年に現行じん肺法が制定された後においても、毎年1200名前後の多数のじん肺患者が発生している。その中においても、トンネル建設業の要療養のじん肺患者数が高く、全産業に占める割合も年々増加している。

 トンネルじん肺の特徴は、第一に重症のじん肺患者の発生が大量で、かつ高率であり、第二に他産業のじん肺に比べて進展、増悪率の速度が速いことである。このことは、トンネル建設工事現場の粉塵作業環境が鉱山その他の産業に比べてより劣悪であることを明らかにしている。

 トンネル建設工事にあたっては、元請企業は徹底した重層下請構造をとっており、その結果、現場労働者であるトンネル坑夫は重層下請構造の各階層が利潤を先取りするあおりをまともに受け、不安定でしかも危険の大きい労働条件下に押しやられている。このことがトンネル坑夫の中でじん肺患者が多発する基本的な要因となっている。

 公共工事であるトンネル建設工事の現場で掘削作業に従事しているトンネル坑夫は専業出稼ぎという典型的不安定就労者群であり、元請企業である大手ゼネコンは、このような専業出稼のトンネル坑夫を重層下請構造の末端に位置づけ、大手ゼネコン全体が親方などを通してトンネル坑夫を総体として支配しながら、各トンネル建設工事ごとの結合(実質的な使用従属関係)を繰り返し、トンネル坑夫を使用してきているのである。

第七 トンネル工事と粉塵の発生・暴露

 トンネル掘削工事(所要の大きさの空洞を掘る工程であり、掘削、ずり処理、支保工建込み、覆工の4工程からなる)は、大部分は発破工法である。発破工法における掘削作業は、削岩機によりダイナマイト等の火薬を装填する小孔を穿孔する削岩(削孔)、火薬を爆発させて地山を崩す発破、発破により崩落した岩石を機械などにより積み込むずり積み、トロやダンプトラックなどで搬出するずり運搬、これによってできた空洞が崩れないように支えを入れる鋼アーチ支保工、またはNATMによるロックボルト・吹付コンクリートなどの支保工建込み、及び覆工の繰り返しである。

 削岩、発破、ずり積み、ずり運搬、支保工建込みの1サイクルを一つの方(グループ)で1回(10時間以上、場合によっては11〜12時間が常態)に1サイクル以上行い、通常、1日昼夜2交代で、2方で2サイクル以上行う。このうち、削岩、発破、ずり積み、ずり運搬、ロックボルト用孔の削孔や吹付コンクリート作業などの各作業において多量の粉塵が発生し、原告らは不可避的にその粉塵に曝露した。

(1)削岩作業と粉塵の発生・曝露

 湿式は削岩機のウォーターチューブより鉄鋼の中空孔を通して水を鉄鋼の先端に送り、繰粉を排除すると同時にビットを冷却する方式で、湿式の水の代わりに圧縮空気を利用するのが乾式である。じん肺の危険のある微細な粉塵は湿式化によっても十分に除去されるものではなく、湿式・乾式の削孔を問わず有害な粉塵が多量に発生・浮遊する。また削岩機の動力に用いられた圧縮空気が排気孔からエキソーストエアーとして排出され、これが作業場の周囲に堆積した粉塵を再度舞い上がらせている。

 上下左右に自由に動かせるブームなどの先に削岩機を取りつけたジャンボによる

削岩の機械化が進につれ、掘進速度が増大したが、それに伴い、削岩による粉塵がますます多量に発生し、原告らはこれらの粉塵に曝露した。

 トンネル坑内の削岩作業では粉塵恕限度や粉塵許容濃度を超える危険な粉塵が発生していた。

(2)発破と粉塵の発生・曝露

 発破時の粉塵は、あらゆるトンネル作業の内で最も激しい。粉塵と排ガスの排除のために、削岩機の動力用の圧縮空気をエアーホースから開放してエアーブローしたり、局所扇風機と風管で新鮮な空気を送り込むなどの換気方法が取られることがあるが、不十分であり、発破後10〜15分程度では微細な粉塵は沈降せず、爆風と共に坑道全体に大量の微細粉塵が拡散する。また、急速掘進の際には1日に8回の発破が行われることもある。

(3)ずり積み・ずり運搬と粉塵の発生・曝露

 発破により崩落した岩石(ずり)を坑外に搬出する作業がずり処理であり、ずり積み・ずり運搬・ずり捨ての3工程に分かれる。

 ずり積みは、従来は手積み(シャベルでずりトロに手積みする)、現在は機械積みが一般化しているが、手積みにしても機械積みにしても、ずり積みの際に多量の粉塵が発生し、ずりの上に堆積した粉塵が舞いあがる。

 ずり運搬の方式には、レール方式(ずりトロを多数連結して機関車で坑外まで運搬する)とタイヤ方式(ダンプトラックにより搬出する)があるが、いずれも走行時の風でずり表面の粉塵や坑道内周囲の体積粉塵が浮遊する。その粉塵の量は、粉塵恕限度や粉塵許容濃度を超えるものであった。ずり処理作業に従事した原告らはこの多量の粉塵に曝露した。

(4)支保工建込みと粉塵の発生・曝露

 支保工(坑道確保のためのアーチ型の支柱)を設置する作業が支保工建込みであり、従来は、矢木と鋼材を使用してアーチ型に組む鋼アーチ支保工が多用されたが、現在は、吹付コンクリートとロックボルトとを組み合わせたNATM工法が標準工法になっている。 鋼アーチ支保工の際も岩盤の切り崩しなどの作業を行うことがあり、そのときは削岩作業が必要になるので、多量の粉塵が発生する。

 NATMにおけるコンクリートの吹付方式は、乾式(セメントと骨材(砂・砂利)を空練りし、ノズルで圧力を加えて吹き付ける方式)と湿式(セメントと骨材を水を加えて練り混ぜたコンクリートを圧送し、ノズルで急結材(より細かく砕いたセメント材)を加えて吹き付ける方式)があり、NATM導入時は乾式が一般的であったが、現在はほとんどが湿式で実施されている。吹付けは、ロボットで施工されることもあるが、導坑などでは手吹き作業によることが多い。コンクリート吹付け作業では、乾式湿式を問わず、許容濃度をはるかに超える大量の粉塵が発生する。

 NATMにおけるロックボルトは、コンクリートを地山に吹き付けた後に、削岩機により吹付けコンクリートと地山を穿孔し、セメントモルタル、セメントミルクなどの定着材を使用して地山に釘付けにするが、このロックボルト打設のための穿孔の際に多量の粉塵が発生する。

 このように支保工建込み作業に従事した原告らは、その際に発生する多量の粉塵に曝露した。

(5)機械工法による粉塵の発生・曝露

 機械工法は、発破工法と異なり、削岩機・発破を使用することなく、ロードヘッダー、ブームヘッダーや全断面掘削機などを用いて回転カッターなどにより岩石を連続的に切削・破砕して掘進する工法であり、機械掘削・ずり積み・ずり運搬・支保工建込み・覆工の各工程を繰り返すものであるが、許容濃度を超える多量の粉塵が発生し、この作業に従事した原告らはその粉塵に曝露した。

(6)トンネル工事の閉鎖・狭隘空間と粉塵曝露

 トンネル工事は、閉鎖的な狭い作業空間に各種機械を入れ替え移動させつつ削岩、発破、機械掘削、ずり積み、ずり運搬、支保工建込みの各発じん作業を行うから、狭隘な空間に大量の粉塵が発生し、かつトンネル坑内は通気が極めて不十分なため、原告らは、自己が直接担当する発じん作業による粉塵に曝露するだけでなく、坑道全体を汚染した浮遊粉塵に曝露した。

第八 被告らの責任

1、じん肺の知見と法制度

 じん肺は、人類最古の職業病であるといわれ、粉塵の吸入が肺疾患をもたらすということは古くから知られ、わが国でもじん肺は江戸時代から「よろけ」と呼ばれて、恐れられていた職業病である。明治維新後、政府の方針により鉱山や炭鉱の近代化、鉄道の建設が急がれ、じん肺被害は飛躍的に増大した。じん肺に関する知見は、明治年間から積み上げられてきたが、その予防・補償に関する法制度は容易には整備されず、ようやく1955年にいわゆる珪特法が制定され、1960年にじん肺法が制定され、1978年にじん肺法が改正され、今日に至っている。1979年には粉じん障害防止規則が制定されたが、いまだにトンネル掘削事業所には適用されていない。

 戦前戦後を通して、トンネル掘削工事におけるじん肺発生の危険性が繰り返し報告されており、遅くともじん肺法が制定される1960年には、有効適切な防じん対策を施さない限り、トンネル掘削工事によりじん肺が発生することは明らかになっており、確立された知見となっていた。

2、債務不履行責任

 労働者を使用従属関係に置く使用者(事業主)は、労働契約または労働関係上の信義則に基づき当該労働者の生命・身体の安全と健康を保持し、その侵害を未然に防止すべき義務(健康保持義務)を負う。

 原告らトンネル坑夫は被告ら元請ゼネコンとは直接の労働契約を締結していないが、トンネル坑夫は経済面でも労働条件面でも元請ゼネコンに支配従属しており、他方、具体的なトンネル建設工事の掘削工法、支保工などの作業内容、作業工程、使用する諸材料・建設器具、労務賃金等の工事予算などを決定し、作業工程を管理し、物的諸設備を設置管理しているのは元請ゼネコンである。したがって、原告らトンネル坑夫は、もっぱら被告ら元請ゼネコンの支配する就業場所において、被告ら元請ゼネコンのために労働力、技術を提供していたものとみることができ、被告らと原告らとの間には実質的な使用従属関係があるというべきである。

 トンネル作業場は、粉塵を多量に発生させる典型的な粉塵職場であり、被告らの関与するトンネル建設工事でじん肺が発生する危険性があることを被告らは知り得たのであるから、少なくとも1938年以降は、被告らは、絶えず実践可能な最高の医学的・科学的・技術的水準に基づくじん肺発生防止義務をとるべきであった。具体的には

(1)作業環境管理義務

 定期的に粉塵測定を行って、作業環境状態の評価をし、

ア 削孔の際は湿式削岩機を使用し、十分な水を確保し、その使用方法を徹底し、労働者を監督指導し

イ 機械掘削の際は噴霧器による十分な噴霧散水を行い

ウ 発破の際には噴霧器による十分な散水・噴霧を行い、発破孔にポリエチレンの水袋を込めものに用い、発破の際の微細粉塵を抑制し

エ ずり積み込みの際には噴霧器による十分な散水・噴霧を行い

オ 風管・局所扇風機などを用い、通気・換気の改善の措置を行い

カ 発生源の付近にウォーターカーテン・ウォータースクリーンを設置し

キ ずり運搬の際に防じんカバーなどの覆いをしたり、輸送速度を落としたり、適切な散水を行い

ク コンクリート吹付作業では換気量の増強、局所集塵機の設置、噴霧、散水などを行い、吹付ロボットを使用する義務

(2)作業条件管理義務

ア 出来高払いの賃金体系を見直し、賃金水準を確保しつつ、労働時間を短縮して粉塵暴露時間を短縮し、休憩時間を十分確保し、粉塵から遮断された清浄な空気の場所に休憩所を設け、休暇を保障し、福利厚生施設を充実させ

イ 防塵マスクやエアーラインマスク等の呼吸用保護具や交換部品を随時補給する義務

(3)健康等管理義務

 じん肺教育をし、粉塵測定結果を告知し、じん肺健康診断の実施を徹底し、じん肺罹患者を非粉塵職場に配置転換する義務

があったにもかかわらず、被告らは、(1)粉塵の定期的な測定を行わず、作業環境状態の評価を怠り、湿式削岩機を適切に使用せず、散水・噴霧をせず、通気・換気が不十分で作業環境管理義務を怠り、(2)労働時間を短縮せず、十分な休憩時間・休日を保障せず、賃金水準の確保を怠り、防塵マスクの支給・管理を怠って作業条件管理義務を怠り、(3)じん肺教育をせず、粉塵測定結果を告知せず、じん肺健康診断を完全に怠り、じん肺罹患者の非粉塵職場への配置転換も全く怠り、健康等管理義務を怠った。

3、故意・重過失

 被告らは、遅くとも1938年(ILO主催の第2回国際珪肺専門家会議、黒田・鯉沼・石川論文発表)にはトンネル掘削工事によりじん肺が発生することを予見できたはずであり(過失責任)、また遅くとも1953年(労働省の全国けい肺巡回検診がトンネル掘削事業所で実施)にはじん肺の発生を容易に予見することができたはずである(重過失責任)。

 被告らは、遅くとも1960年(労働省が珪特法に基づくけい肺健康診断を行い、旧じん肺法が制定)には現にじん肺が発生していることを認識し、その発生を認容しながら漫然と原告らを危険な粉塵作業に従事させつづけた。

4、不法行為責任

 以上はいずれも不法行為にも該当する。

5、被告らの連帯責任

 原告らは、いずれも数社ないし10数社にのぼる多数の被告らのトンネル工事現場を渡り歩いてきたが、いずれのトンネル工事現場においても大量の粉塵を吸引することを余儀なくされてきたのであって、いずれの被告の下での粉塵曝露も、原告らのじん肺罹患の原因となった可能性があり、原告らが就労した被告企業の工事現場におけるすべての粉塵が複合し蓄積してじん肺発症の原因となっている。

 被告らが共同して原告らをしてじん肺という重大な職業病に罹患させたが、各原告がどの被告のどの職場でじん肺に罹患させられたか特定できない場合、民法719条1項後段の適用により、各原告が就労したトンネル工事現場の元請被告企業全体について連帯責任を認めるべきである。

第九 損害

(1)一律包括請求 じん肺は、不可逆性、進行性、全身疾患性の疾病であり、呼吸器感染症に罹患する危険性もあり、徐々にその症状を悪化させ、ついには悲惨なじん肺死を迎える。原告らの精神的被害や人生破壊ともいうべき深刻な被害回復のためには、被害者一人あたり一律3000万円の慰謝料が相当である。

(2)弁護士費用300万円

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