訴    状

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別紙当事者目録記載のとおり

損害賠償請求事件

請 求 の 趣 旨

一、 被告は福井県に対し、金一、六九八、〇六七、二二〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、 訴訟費用は被告の負担とする。

との裁判並びに第一項につき仮執行宣言を求める。

請 求 の 原 因

第一(当事者)

 原告らは福井県に居住する住民であり、後述する監査請求人である。

 被告は福井県知事の職にある。

第二(公金の支出)

一、 福井県知事部局、出納事務局、企業庁、議会事務局、教育委員会、人事委員会事務局及び地方労働委員会事務局(以下「知事部局等」という)では、平成六年度ないし八年度において、旅費として金七、八〇八、三五四、七八五円が支出され、平成九年度(四月〜一二月)において、旅費として金一、五二六、〇二九、九四六円が支出された。

 また、平成六年度ないし八年度において、福井県監査委員事務局では、旅費として金二二、四七六、〇〇〇円が支出された。

二、 平成九年一二月三日、岡崎長俊福井県監査委員事務局長は、平成七年二月の監査委員事務局職員の秋田県への出張がカラ出張であることを記者会見の席上で認め謝罪した。

 これに端を発し、翌四日、林田恒正福井県総務部長は、すべての県職員について平成六、七、八年度の出張旅費に不正支出がなかったかどうか調査することを明らかにした。

三、その結果は、平成一〇年二月二三日に県旅費調査委員会報告及び監査委員事務局旅費調査委員会による旅費調査結果として発表され、そのときに初めて知事部局等において約金一八億九三〇〇万円に上るカラ出張が、監査委員事務局において金一〇、二四九、〇〇〇円のカラ出張があったことが判明した。

 ところで、旅費調査結果報告(甲三、四)は、旅費として支出されたもののうち、実際には公務出張の事実がないのに旅費として支出されたカラ出張を「事務処理上不適切な支出」として分類し、それをさらに、職務関連の慶弔費など「公務遂行上の経費に充てられたもの」と、「不適正な支出」(必ずしも全てが公務遂行上必要とは認められないものや、公務関連の支出と考えられるものの、その証明が十分にできないもの)に再分類している。

 そして、知事部局等の平成六年度ないし八年度の事務処理上不適切な支出は、金一、八九三、四一

七、〇六二円であり、そのうちの金一、四六七、三五四、二二〇円が公務遂行上の経費に充てられ、金四二六、〇六二、八四二円が不適正な支出であった。

 知事部局等の平成九年度(四月〜一二月)では、事務処理上不適切な支出は、金二五八、三六五、〇九三円であり、そのうちの金二二〇、四六四、〇〇〇円が公務遂行上の経費に充てられ、金三七、九〇一、五九二円が不適正な支出であった。

 監査委員事務局の平成六年度ないし八年度の事務処理上不適切な支出は、金一〇、二四九、〇〇〇円であり、そのうちの金六、一四一、〇〇〇円が公務遂行上の経費に充てられ、金四、一〇八、〇〇〇円が不適正な支出であった。

四、その後、福井県においては、平成一〇年六月一日に、管理職などでつくる県旅費返還会が福井県に対して、不適正な支出額金四億六八〇〇万円あまりと返還までの利息の合計金四六九、四七八、四二〇円を返還したと伝えられている。

 しかしながら、不適正な支出のうち監査委員事務局の支出分が返還されたのか不明であるばかりか、公務遂行上の経費に充てたとされる額は、知事部局等においても全く返還の対象とされていない。本訴において賠償を求めているのは、このカラ出張旅費である。

第三(違法性)

一、 地方自治法二〇四条一項は、普通地方公共団体はその職員に対し旅費を支給しなければならないと定め、同条三項は旅費の額及びその支給方法は条例でこれを定めなければならないと定め、さらに同法二〇四条の二は、普通地方公共団体はいかなる給与その他の給付も法律またはこれに基づく条例に基づかずに支給することができないと定める。これらの地方自治法の規定を受けて制定された福井県一般職の職員等の旅費に関する条例四条一項によれば、「職員が出張し、または赴任した場合には、当該職員に対し、旅費を支給する」と定める。

 したがって、公務出張の事実がないのに旅費として支出されたものは、いわゆるカラ出張であって、右旅費条例に反するから、違法な支出である。

二、 福井県は「事務処理上不適切な支出」であっても、「公務遂行上の経費に充てられたもの」は、違法ではないと解するもののようである。これは予算が流用されただけであるから、あるいは職員が個人的に着服したものではないから、違法ではない、あるいは福井県に損害がないとするものと思われる。

 しかしながら、カラ出張は予算の流用として適法視されるものではない。カラ出張においては、実際に出張もしていないのに、職員ごとに内容虚偽の旅行命令簿、旅費請求書が作成され(刑法一五六条の虚偽公文書作成罪に該当する)、それに基づき旅費支給の手続に従って旅費として支出されているのであるから、旅費支給手続において違法であることは明らかである。

 しかも、公務遂行上の経費であるといえども、地方公共団体の経費はその目的を達成するための必要最小限度をこえて支出してはならない(地方財政法四条一項)のであるから、適法に予算化されたもの以上に、旅費から流用して支出することは違法であるというべきである。正規に予算化されないということは、予算執行の必要最小限度性を全くチェックできないということである。

 割合的に見ても、旅費支出件数の一〇%以上、支出額の三〇%近くもが旅費以外の目的に使用されているのに、適法な流用であるというのは、市民常識に照らして納得できない。

 具体的には、公務遂行上の経費に充てられたとされるものの中には、OA機器を購入したと言うものがあるが、そのようにして購入された備品は備品台帳にも登録されていない。したがって、何を購入したかも分からないし、福井県の備品として適切に管理されることも期待できない。私物であるOA機器を購入したり、自宅に持ち帰っていても分からない。これでは、到底適法な予算執行とはいえない。

 また、新聞書籍の購入に充てられたとされるものの中には、公務遂行の必要性の認められないいわゆる業界誌紙の類が大量に購入されているのであって、全く必要性・公務性が認められない。

 このようにして福井県庁においては、公務遂行上の必要性の認められない多額の金員が、議会によるチェックを経ないまま、多年にわたり、組織的に、湯水のように支出されてきたのである。福井県の主張には全く理由がないというべきである。

第四(損害)

 右のように違法な公金支出によって、福井県には請求の趣旨と同額の損害が生じた。

 新聞報道によれば、「公務遂行上の経費に充てられた」旅費支出であっても、国庫から受け入れた補助金のうち、公務のため出張したのではないのに旅費として支出された金額(カラ出張に相当する金額)は、補助金の目的外使用にあたり、国庫に返還しなければならないというのである(甲六)。

 したがって、「公務遂行上の経費に充てられた」ものが、仮に地方財政法の必要最小限度の要請を満たすものであったとしても、福井県には損害が発生しているのである。

第五(監査請求)

 平成一〇年八月一七日、原告らを含む六五名の住民が本件の違法なカラ出張につき、福井県監査委員に対し、地方自治法二四二条一項による住民監査請求を行った(甲一)ところ、同年一〇月二日、福井県監査委員は、請求の特定を欠き、不適法であるとの理由で却下した(甲七)。その通知は、原告らのもとには翌三日に到達した。

 しかしながら、原告らが監査請求の対象とした財務会計行為は、@平成六年度ないし八年度において支出された知事部局等の旅費支出の内、福井県旅費調査委員会が「公務遂行上の経費に充てた額」として公表した金一、四六七、三五四、二二〇円、A平成九年度(四月〜一二月)において支出された知事部局等の旅費支出の内、福井県旅費調査委員会が「公務遂行上の経費に充てた額」として公表した金二二〇、四六四、〇〇〇円、B平成六年度ないし八年度において支出された監査委員事務局の旅費支出の内、監査委員事務局旅費調査委員会が事務処理上不適切な支出として公表した金一〇、二四九、〇〇〇円の合計金一、六九八、〇六七、二二〇円である。

 これらは、原告らが福井県知事に対し旅費調査に関する資料や報告書の裏付け資料の開示を求めても、公文書不存在との理由で福井県知事が開示を拒否している(甲五)ため、原告らにはこれ以上の特定はできないものであるが、県旅費調査委員会及び各部局においては、既に旅費調査の過程で、不適切支出案件を個別に特定して調査しており、旅費調査結果においては支出件数・支出金額の詳細にわたるまで特定されているものであるから、監査請求の対象としては十分に特定されているものである。

 ましてや、原告らが監査請求を行ったもののうち、右のBは、監査委員事務局が既に調査して自らカラ出張がどれであるかを特定していたのである。それをも監査請求の対象として特定されていないというのには、あきれてものも言えない。

 監査委員には、地方自治法が住民監査請求を住民訴訟の前置としたことの趣旨も、最高裁判所平成二年六月五日判決(民集四四巻四号七一九頁)の趣旨も全く理解できていないとしか言いようがない。

第六 まとめ

 よって、原告らは請求の趣旨記載の通り本訴に及ぶ次第である。

                                   以 上

        証 拠 方 法

甲一     福井県職員措置請求書

甲二     事実証明書

甲三の一   旅費調査結果と改善方策に関する報告書(旅費調査委員会)

甲三の二   支出額詳細

甲四     旅費調査結果報告書(監査委員事務局旅費調査委員会)

甲五     公文書公開請求について(回答)

甲六     新聞記事(平成一〇年七月一五日付福井新聞)

甲七     福井県職員措置請求について(通知)

        付 属 書 類

一 訴状副本             一通

二 甲第一号証から七号証までの写し 各一通

三 訴訟委任状            四通

一九九八年(平成一〇年)一〇月二九日

原告及び原告伊東晴美ら訴訟代理人

弁護士 湯 川 二 朗

  同 坪 田 康 男

福井地方裁判所  御 中

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