田舎弁護士日記ー委員会派遣当番弁護士 00/2/10

 当番弁護士制度は、聞かれたことがある人も多いだろう。逮捕された被疑者やその家族から依頼があれば、最初の弁護士面会に限り、弁護士が無料で、それも依頼があってから24時間以内に警察署まで駆けつけるという制度だ。当番弁護士は、日弁連最大のヒット商品と言われており、テレビ番組にもなっている。ところで、最近は、この当番弁護士を被疑者やその家族からの依頼がなくても、新聞報道された段階で、重大事件で、当番弁護士の派遣が相当と考えられる事件については当番弁護士を派遣するという制度が全国的に始められつつある。私たちはこれを委員会派遣制度と呼んでいる。当番弁護士制度を取り扱う委員会の判断で当番弁護士の派遣を決めるからそのように呼んでいる。このような委員会派遣当番弁護士制度が、福井でも99年12月24日の臨時総会で正式に設置が決まった。

 しかし、制度を作ったとはいえ、福井は治安の良い街だから、そう委員会派遣を求められるような凶悪事件は発生しない。とはいえ、私が担当委員会の委員長なために、毎朝新聞をチェックする係となっている。毎朝、三面記事を見ては、何もなくてよかった、とか、贈収賄なら私選がつくだろうとか、今日も委員会派遣はしなくてすんだ、とほっとしている。

 ところが、そんな平和な福井でも、ついに委員会派遣を実施する日がやってきた。ある日、事務所に8時半頃着いて、いつものようにコーヒーを飲みながら朝刊を見ていると、最後の紙面に、「強盗の少年3人逮捕」という見出しが飛び込んできた。記事の中身を良く読んでみると、少年ら4人が高校生3人に鉄パイプで殴る等の暴行を加えて怪我を負わせ、現金数千円を盗んだとある。単なる強盗ではなく、強盗致傷である。法定刑は7年以上の懲役だから、少年事件でも、放っておくと少年院送致は免れない。少年事件の場合は、弁護士が私選でつく割合も少ないし、弁護士がついて法的助言をする必要も高い。

 そこで、委員会のもう一人のK弁護士委員と協議して、委員会派遣を決めた。しかし、対象者は3人だから、誰を派遣しようかということになった。福井の当番弁護士は1日一人の待機制だから、少年一人は担当してもらえても、3人一度は大変だろう。福井の場合は、どういうわけか、当番弁護士の出動率は低く、平均して1日一人も利用者はいない。もっとも、だからこそ、福井のような小規模会でも、当番弁護士制度は回っている。というのは、福井の弁護士数は38人だから、大体毎月1回は当番の日が回ってくる。これで毎日利用者が複数人もいたら、負担が重すぎて、弁護士もやっていかれない。そんな状況だから、いきなり3人も当番弁護士の出動をお願いするわけにもいかない。前後の日程で当番弁護士の出動がなかった弁護士に出動を依頼することにした。幸い、K弁護士がちょうど翌日当番だったので、その弁護士が受けてくれることになった。早速、弁護士会を通して、前日の当番の弁護士にも出動してもらうことになるかもしれないという連絡をしてもらったところ、その弁護士からは、当日、小浜出張のため接見は困難との返事が返ってきた。そこで、残りの1少年については、私が責任をとって接見をすることにした。

 さて、これで人の確保はできた。残る難関は、少年の氏名を知ることだ。新聞には少年保護の見地から、少年の実名は掲載されない。氏名不詳者と接見するわけにもいかないから、警察から少年の氏名を教えてもらう必要がある。そこで、留置されている警察署は分かっているので、そこの留置管理係に委員会派遣制度の趣旨を説明して、少年の氏名を教えてもらうことにした。ここが地方の弁護士の良いところで、いつも接見に行っていると、留置管理係とも知り合いになっている。何とかお願いできんやろかというわけである。刑事課の方とも話してくれたようで、少年に弁護士と接見したいかどうか聞くから、それで接見したいと言えば、氏名を教えるという。なるほど。もっともなことだ。とは言っても、少年が接見したがっていないと言われてしまえばそれまでだが。でも、そこは弁護士と留置管理係との信頼関係のようなもの。折り返し、携帯電話にかかってきた電話は、少年が3人とも接見を希望しているから、氏名を教えるというものだった。やった!これで委員会派遣第1号は成功だ。時は10時半である。

 早速、K弁護士に少年の氏名を告げると、即座に接見に行ってくれた。警察まで車で10分。11時23分には、接見結果報告が携帯に入った。主犯は少年たちではなく、そのグループにいた成年だった。少年たちはわいのわいのと一緒になって手を

出したもののようだった。その結果を踏まえて、私と当日当番の弁護士とで、どちらの少年を担当するかを決めた。

 私も即接見に行くつもりだったが、逮捕された翌日で、当日送検で、裁判所の勾留質問のため、身柄が警察にない。警察だと、取調中でも弁護士接見に下ろしてくれるが、検察庁・裁判所ではそこまではいかない。ましてや、少年3人の弁解録取ともなると、検察官の都合も考えてやらねばならない。本当は、弁録・勾留質問の前に接見するのが刑事弁護の王道だし、初回の接見は捜査の都合よりも優先するというのがあるべき刑事弁護だが、つい忙しさにかまけて、担当検事からの連絡待ちとした。そうしたところ、ようやく電話があったのが5時20分。勾留状の発布が遅れたという。今から検察庁で接見していると、警察に帰る時間が遅くなる。他の少年たちもいるし、みな食事も遅くなってしまうのも気が引ける。そこで、少年が警察に帰ってから接見することにした。その旨を警察留置にも伝える。

 夕方6時、ようやく警察で接見できた。留置の担当者に聞くと、接見に併せて食事時間を早めてくれたそうだ。こうして委員会派遣第1号が無事成功した。

 ちなみに、この少年事件については、保護者とも面談の上、法律扶助協会の刑事被疑者弁護人援助制度と少年保護事件付添人扶助制度を利用して、私が受任することとなった。