田舎弁護士日記(その5)

 福井では、4月の初め頃に急に春がやってきて、桜も、菜の花も、水仙も、芝桜も一斉に花を咲かせていました。そして、今年は、例年よりも早く田植えが始まり、既に大半の田んぼが田植えが終わりました。我が家の前は、コシヒカリを植えるのか、まだ田起こしもせずに、麦が穂をつけています。今は、夜になると蛙の大合唱が聞こえます。毎年繰り返されるこの四季の変化が、とてもいとおしく感じられます。

 

 さて、今まで福井弁護士会を紹介するとき、福井は弁護士34人と言っていましたが、今年、新人が3人登録し、37人の規模になりました。福井では、史上最大の規模になりました(でも、東弁の最小会派よりまだ小さい・・・残念)。

 当面の目標は、めざせ50人会です。なぜ50人か?それは、不名誉な小規模単位会助成金の交付を卒業できる規模だからです。現在、日弁連では、50人以下の小規模単位会に対して、司法改革の基盤確立の名目で年間150万円ないし250万円を交付していますが、私は、この制度が大嫌いです。まるで地方が過疎を口実に中央にたかっているような感じがして。よほど日弁連総会で反対意見を述べてやろうかと思ったほどです

 さて、今日はゴールデンウィーク最終日。休み中に仕上げなければならない仕事が一杯たまっていたけど、全部パスしてさぼってしまった。毎日、子供を連れて、映画館通い。

 事務所に車を止めて歩くのでもいいのだが、駅前の市営駐車場が赤字だというので、使用してみることにした。最新式の地下駐車場で、車の出し入れは全部機械式だ。でも、ちょっと込むと、入出庫にやたら時間がかかる。普通の平面式の駐車場にしたほうが費用もかからないし、早いじゃないか、税金の無駄遣いだ、とオンブズマン意識が頭をもたげる。

 クレヨンしんちゃんだけは満員で座れなかった(もっとも、それは途中から入館したせいで、次の上映では余裕で座れた)が、スターシップトルーパーズも新宿少年探偵団も空席が目立ち、スクリーン前の席に座れた(地方ならではの特典!)。クレヨンしんちゃんの一場面で、契約書(というか念書)をとるシーンが出てきて、ようやく日本でも子供向きの映画でも契約を教えるようになったかと感心していたら、その

契約を守る雰囲気はまるでなく、やっぱり日本だとがっかりしてしまった。

 あまり遊んでばかりもなんだからと、今朝は、3時半に起きて、丸岡町日系ブラジル人殺人死体遺棄現場を見に行くことにした。殺人事件の否認事件で、既にだいぶ証拠調べを重ねてきている。

 被告人は捜査段階でも否認を通した。警察の厳しい取調べにもかかわらず、否認を通せるのは、よほど筋金入りか、本当に潔白の者かのどちらかだ。

ちなみに、この事件は、直接証拠は何もなく、状況証拠として@殺害現場の部屋の押し入れに血痕の付着した緑色長袖Tシャツが放置されていて、その血痕は被害者2名の血液型・DNA型と一致し、後ろ襟の部分にはそのシャツを着ていたと思われる者の血液型・DNA型が検出された、A死体に巻かれていたガムテープに付着していた包装紙片と被告人の部屋の机の引き出しの中にあったガムテープに付着していた包装紙片とが一致する、B殺害現場の1階のコンクリートの上に塗料を打ち抜いて印象された足跡痕があり、それが被告人の靴と類似する、ということがあるのみだ。

 検察のストーリーでは、ちょうど1年前ころの午前2時ころに市内で殺害して、その後死体をカーペットでくるんだり、スーツケースに詰めて車に乗せ、山中に死体を遺棄し、午前7時頃には市内の自宅に帰ったことになっている。

 未明のドライブは、快調で、寝ぼけて事務所に行きかけたが、4時には遺棄現場の山中についた。どうやら市内の夜景が楽しめるスポットのようで、カップルの先客が2組いた。邪魔をしてはいけないからと、その少し先に車を止める。犯人は、ここで死体を道路脇から下に遺棄した。

 でも、恋人同士のカップルはいるし、暗いとは言え、街灯も100m程度間隔で立っている。国道だから、往来の車はある(と言っても、30分間山中にいて、途中で出会った通行車両は2台だけだが)。しかも、4時半には明るくなって、小鳥のさえずりが始まる。もうそろそろ夜が明けるという時間帯に、発見される危険を冒して、こんな所で死体を遺棄するのは、無理ではないか。殺害現場から遺棄現場までは、30分はかかるから、3時半には死体をきれいに梱包して、殺害現場をきれいにしてその場所を離れなければならない。そんなことが可能だろうか。検察のストーリーにはどう考えても無理がある。明後日の検察側のDNA鑑定証人の反対尋問は、是が非でも崩さなければならない(この事件では、血液型鑑定やらDNA鑑定やら、足跡鑑定やら塗料の成分鑑定やらいろんな勉強をさせられるので、雑学は一杯身についた・・・ような気がする)。

 何か収穫があったような気分になって、折角の早起きだから、東尋坊のあたりでも散歩しようという気になった。山中から降りて、田園風景を30分ほど走る。田植えのすんだばかりの田んぼは、池のようだ。周りの風景一面が水に囲まれて、朝焼けの下できらきらとしている。水郷の真ん中にいるようだ。

 今朝は、東尋坊の海もないでいて、波一つない。磯に渡った釣り客の姿が朝日にきらめいている。重油禍の痕跡は、とうにどこにも残っていない。トンビの鳴き声や、鶯のさえずりを聞きながら、朝露で湿ったような草々の甘いにおいのする遊歩道を歩く。紫のアザミや黄色のカタバミの花が咲いている。連休とあって、5時を回ったばかりだというのに、散歩客が何人もいる。道ばたの三好達治の詩碑や山口誓子の句碑を見ながら、小走りに歩くが、アップダウンを繰り返すうちに次第に足がゆるやかになる。朝日と潮風の中を1時間も歩いて、家路につくことにする。

98年5月5日