○行政訴訟の現場から@


 住民が違法なマンション開発を争う方法

 判例時報1695号63頁の事案から ある市で業者がマンションを建築しようとしたのだろうか。都市計画法の開発許可を得、宅地造成工事を行った。それに対して、近隣住民が市に対しその開発許可の取消を求めるとともに、業者に対して工事の差止を求めた。ところが、1審訴訟係属中に宅地造成工事が完了し、検査済証も交付された。そのため、開発許可の取消を求める訴訟では訴えの利益がないとして近隣住民の訴えは棄却されてしまった。これが最高裁判例である。

 ところで、このようにマンション開発を争う近隣住民とすれば、考えられる訴訟形態は、開発行為(宅地造成)の段階では開発許可の取消と宅地造成工事の差止を求めるしかない。しかし、開発許可取消訴訟を提起しても訴訟係属中に工事が完了してしまえば、この判例のように訴えの利益がないとして訴えは却下される。

 かといって、宅地造成工事完了後の検査済証の交付の取消を求めても、検査済証の交付に処分性(行政訴訟の対象となりうる適格性)があるとされるのかは疑問である。

 そうすると、宅地造成工事が完了してしまえば、市を相手とする行政訴訟では、マンションの建築確認取消の訴えを起こすことになろうが、その中で開発許可の違法を主張しても、開発許可には公定力があるとされるから、開発許可が取り消されていない以上、重大かつ明白な瑕疵の故に開発許可が無効とされない限り、開発許可の違法を主張することはできない。

 それでは、宅地造成工事中に、先に予定される検査済証の交付や建築確認の差止を求めるのはどうか。しかし、これも行政に対する義務づけ訴訟にあたるから、その訴えは不適法とされるのが関の山だ。

 かくして、違法な宅地造成工事をまともに訴訟で争うことはできず、いきおい、次の段階の建物の建築について建築確認の取消を求めるということになる。ところが、この訴訟ですら、訴訟係属中に建築工事が完了してしまえば、やはり訴えの利益がないとして訴えが却下される。


 要するに、行政との関係では、開発許可や建築確認の違法性を訴訟の中で明らかにして、救済を得るということは、どの段階でも認められることがないのが日本の行政訴訟である。要するに、お上を相手にするな、文句があれば業者を相手にしろということだ。しかし、これは極めておかしい!日本は法治国家なのに、違法な行政が行われていても、裁判にして争うことはできないのだ。しかし、これが日本の行政訴訟の現実だ。

 こうして近隣住民が開発許可の違法を主張できるのは、業者を相手方とする宅地造成工事の差止を求める訴訟の中でしかない。ちなみに、宅地造成工事の差止を求めるためには、開発許可が都市計画法に反しているだけではだめだとされ、訴えを提起する者の土地建物や生命健康に危害が及ぶようなものでない限り、認められない。それも少々の危害ではだめで、受忍限度を超すような「異常な」危害でなければ、差止めが認められることはない。

 そうすると、行政からも見放され、裁判所かも見放された市民が違法なマンション開発を阻止するためには、いきおい、実力行使しかなくなるのだ。
 これが日本の実態だ。情けないと言う他はない。


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