(04/3/13)

非常勤裁判官日誌V


×月×日
 午前は、建物解体工事中の騒音・振動・浸水被害に関する調停だ。京都市内でも、ビルの隣に老朽化した木造建物が隣接しているケースは多々目にするが、本件は、申立人の木造建物が狭い路地に面して建っており、補修もできない状態で、お互いつっかえ棒をしながら何とか建っていたところ、それに接したビルの解体工事が原因で、建物にも様々な影響が生じた。申立人は工事中、騒音・振動が大変で、ビルに接するように造られていた風呂場の床が傾き、業者に電話をしてもつながらず、大変怖い思いをしたと言う。ところが、業者の話を聞いてみると、木造建物は借家で、その大家の了解は得て工事をしており、工事期間中の申立人からの苦情にもその都度誠実に言われるままに対応した、と言う。なるほど、話を聞くと、業者としては精一杯の対応をしているようだし、建物が老朽化しているため、補修をすると言っても技術的に不可能なところもあり、しかも工事前・中を問わず、申立人家屋内に入らせてもらえなかったので、対応の仕方がなかったと言うところもあったようだ。しかし、過失はなかったとは言っても、老朽化した木造建物に年老いた夫婦がいれば、騒音・振動は受忍限度を超していると思われる苦痛を与えることになるだろうとも思われる。受忍限度を超す被害があったとの立証はないが、ある程度の迷惑料を支払って解決するのが相当ではないのだろうか。相手方としては、事前に挨拶にも行き、近隣の皆さんの了解も得て円満に工事を行い、申立人の苦情にもその都度速やかに対応してきたのに、今さら金銭支払の必要があるのか、1軒に支払うと皆に支払う必要が出てくるとも言うが、本件の場合は、やはり通常受忍限度を超す影響を与えたと思われるのではないだろうか。

 午後は、隣地同士の諍いだ。申立人の所有家屋の壁を補修工事をするので、相手方の土地に足場を組むために一部使用承認を求めるということと、相手方のブロック塀を一部取り壊すことの承諾を求めるという事案だ。単純そうな事案なのに、どうして調停の申立に至ったのだろうか。何かあるのだろうなと思っていたところ、案の定、どうやらこれまでの経緯がある上に、挨拶に来ずにいきなり裁判所に訴えて、京都まで出頭するよう申し立てた(相手方は関東在住だった)のがけしからんということで、相手方も随分立腹しており、今日は不出頭。但し、調停の成否は気になるようで、調停期日にあわせて裁判所に電話をかけてこられた。調停を申し立てること自体も「訴えた」ということで感情的になられるケースも多い。公の場での解決方法の模索だと考えてほしいと書記官から言ってもらうが、感情的にはやはり理解しづらいところもあるようだ。訴訟になれば、隣地使用承認は認容されるケースだろうから、調停を取り下げて訴訟を申し立てるか、それとも東京に移送を申し立てるか、2週間程度の間に検討してもらうこととして、次回期日はおって指定ということにした。


×月×日
 午前は、前回の隣ビル解体工事に伴う慰謝料請求調停事件の続きだ。業者から話を聞く。解体工事にあたっては最大限の配慮をしたし、申立人家屋に対しても十分な補修もしたし、相手方としては4月1日着工予定だったのが6月にまでずれこみ、その結果工期遅れが生じて損害も被っているから、一銭も出せないと言う。困った。

 確かに申立人の家屋も老朽化しており、いわば合理的な土地活用も図られていないばかりか、このようなケースは京都市内には多数あるし、近隣からの苦情も申立人からしかない。相手方としてもこのようなケースは初めてだという。ということは誰もそれなりに被害がなかったからではないのかとも思われる。

 しかし、いかに老朽化した建物とは言え、そこに住む権利はあるだろうし、古い家に住んでいるのが悪いとは言えないし、高齢で日中自宅で暮らしている人と仕事に出ている人とでは騒音・振動被害の受け止め方も違うだろうし、いかに注意して解体工事をしたとしても、違法とまでは言えないかもしれないが補償に値する騒音・振動被害というものもあるだろう。他方、訴訟になっても、申立人が勝訴するのには困難がつきまとう。何とかならないか。これで簡単に不調にしては、調停の意味もないし、非常勤裁判官の意味もない。

 何とかまとまるように調停委員会でも検討して、双方当事者にも説得したが、結局、この事件は調停は成立しなかった。もう1回だけ期日を続行して、それでだめなら、17条決定をすることも当事者に伝えた。17条決定とは、調停の成立が見込みがない場合であっても、相当であると認めるときは、事件の解決のために必要な決定をすることができるという制度だ。昔はあまり活用されなかったが、最近では、消費者金融業者相手の特定調停で多用されている。


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