(04/3/13)

非常勤裁判官日誌U


2月×日
 今日は、午前に賃料減額調停が1件、午後に交通事故(物損)調停が1件。

 継続家賃の適正額を決めるのはなかなか困難だ。申立人は、テナントで飲食店を経営しているが、両隣のテナントの賃料金額にあわせてほしいと言う。それに対し、相手方(家主)はオーナーが違うし、それぞれの事情が違うし、これまでもいろんな面で申立人の便宜を図ってきているから、これに応じてもまた次の要求を出されるから減額には応じたくないと言う。調停委員会としても、新規家賃であればいくらが相場ということは言えるが、やはり継続家賃ということになると、これまでの賃貸借契約の経緯というものがあり、一概にいくらとは言い難い。双方の金額の開きは、それほどないから、何とか双方歩み寄ってほしいと願う。次回に続行したが、双方の合意がまとまらない場合は、民事調停法24条の3の調停委員会の定める調停条項でまとめられないかな、とも思う。

 午後の交通事故調停は、双方の主張する過失割合の違いが一番の争点だ。物損だからということで、警察の実況見分を経ていない。双方とも調停でまとまらないようなら、少額訴訟をかけると言う。しかし、訴訟手続に乗せたところで、実況見分調書が作成されていないのだから、事実の確定は直ちには困難ではないか。双方見通しの悪い、信号による整理がなされていない交差点での出会い頭の事故なのだが、事故後話し合いのつかないまま時間が経っているため、感情的にも対立しているように見える。相手方に代理人がついたが、今日は時間がないというので、これも次回に続行する。

 今日は、新件が3件配点された。うち1件は、マンション建設を巡る付近住民からの調停申立だ。付近住民から相談を受けたときに、いつも決定的な解決方策がなく悩む案件だ。東京の国立マンション事件や半鐘山開発問題や洛西ニュータウンマンション建設問題等のように訴訟になる案件もあるが、訴訟で時間をかけて白黒つけるような解決が良いとは一概には思えない。付近住民の環境・生活上の利益と開発者の開発利益との調整をどのように行うかという問題であり、本来は、計画段階で関係者や行政や専門家を交えて十分に協議をして開発のあり方を決定するべき問題だ。その意味では「協議」が基本的な解決ルールだから、調停が一番理想的な解決方法なのだろうと思う。できれば、双方同席で、さらに専門家や行政を交えて、公開シンポジウム的な調停の場が持てれば良いなと思う。開発者側でも、もう竣工間際だからという理由で話し合いを拒否するのではなく、古都京都での開発を行う業者として、今後のあり方を含めて前向きに対応してもらいたいと願う。


2月×日
 今朝は、トリプルブッキングだ。どうしようかと思っていたら、1件は双方出頭せず取り下げになり、もう1件も相手方が3回連続して不出頭のため不調で終わった。

 残った事件は、自動車自損事故による保険金請求事件だ。駐車場に車庫入れするときの自損事故で、長期の入通院を要する頸椎捻挫の傷害を受けた。病院を3軒回って、初めてMRIの所見もある頸椎捻挫であることが分かったという。それに対し、保険会社は、当初の診断名は右肩打撲で、1ヶ月程度の休業損害しか認められないと言う。仮に訴訟になったときの弁護士費用や鑑定費用の負担の問題もあげて、双方に対して具体的な数字をあげて調停委員会の見解を示し、次回までに検討してもらうこととした。

 申立人が工場を売却しようと思っていたら、銀行の融資を受けて隣地を購入した人が暴力団事務所に物件を貸したために工場が売却できなくなったので、銀行は融資責任を負うべきだ、売却予定価格と今日までの利息を付して損害賠償を求めるという事案があった。それに対し、銀行としては、融資の時点で暴力団事務所に賃貸されるとは思っていなかったし、その後調査をしても暴力団事務所に使用されているという確認はとれなかったし、申立人以外からは苦情も来ていない(逆に増築した工場もある)し、現状では暴力団事務所としては使用されている様子もないから損害賠償には応じられない、訴訟を起こしてもらうしかないという。難しい事案だ。申立人の工場が売却できない第一の原因を作っているのはその暴力団だし、第二の責任者は暴力団事務所に賃貸した融資先だし、銀行の融資責任はその次に出てくるにすぎないから、銀行が暴力団事務所に使用されることをあらかじめ承知の上で融資をしたというような特別の事情がない限り、融資責任は認められないのではないだろうか。むしろ、融資責任を問うというよりも、銀行の融資の結果、銀行には過失がなかったとはいえ、申立人が工場売却ができなくなり、その結果申立人の経営状況も苦しくなったという状況に鑑みて、銀行の申立人に対する融資の返済条件を緩和ないし繰り延べするという方向での解決ができないのだろうか。そんなことを考えながら、この事案にのぞむことにした。


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