04/5/4更新
私が現在受任している行政関係訴訟を紹介してみよう。 まずは、未だに福井で新しく受任している事件から 1.魚あら処理施設土地使用承認取消等請求事件福井県の北西から南西にかけて、東尋坊から越前海岸にかけて、加賀越前海岸国定公園が広がる。風光明媚な海岸線がきれいだ。ところが、そこの一部が工業専用地域になっており、臨海工業地帯(テクノポート)となっている。東尋坊と鷹栖海岸の間に広がる無粋な工業地帯だ。全く興ざめとしか言いようのないこの地域に、今度は、魚あら処理施設が建設されようとしている。これは、魚の骨や内臓を処理して魚粉・魚油を製造するという趣旨で魚あらリサイクル施設とされているが、法的には一般廃棄物である魚あらを処理する一般廃棄物処理施設、要するにゴミ処理場だ。福井市内は勿論、福井県内全域から、水産加工業者からは勿論、スーパーや旅館民宿からも集めてくることが計画されている。工場付近は勿論、魚あら運搬道路沿線でも、ものすごい悪臭が予想される。工業地帯だから良いじゃないかと思われるかもしれないが、建設予定地は工業地帯の外れにあり、500mも離れないところに集落や料理旅館がある。観光や夏の海水浴・冬のかに料理が売り物のこの地域には、ものすごいダメージだ。この施設は、それまで河野村と福井市内の他地域で建設が予定されていたが、いずれも周辺住民の反対を受けて撤退し、最後にテクノポートが県有地であったために、県の後押しを受けてこの地域に建設されることになった。住民には事前に何の説明もないまま、建設計画が発表され、その後も「どうしてここなのか」「どうして河野村等では反対されて撤退した施設が今度は自分たちが反対しているのに建設が強行されるのか。住民としての個人の尊厳の価値が違うのか」という根本的な疑問に明確な回答が得られないために、住民は絶対阻止の構えをとっている。 平成14年暮れから平成15年始めに、県から事業者に対する11億円の補助金交付決定がなされ、建設予定地の県有地が事業者に売り渡され、一般廃棄物処理施設設置許可・化製場設置許可がなされ、建築基準法51条但書き許可がなされ、建築確認がなされた状態まで来ており、何時着工されるか分からず、現地には緊張感が高まる。 そのような中で、県の事業者への県有地の売渡・使用承認の取消と補助金交付決定の取消を求める住民訴訟、事業者に対する施設建設・操業差止を求める民事訴訟を提起し、さらに建築基準法51条但書き許可・建築確認の取消を求める審査請求・取消訴訟を提起して争ってきた。 ところが、ついに平成16年4月28日の口頭論期日で、組合は本件土地からの撤退を表明した。全く予期せぬ展開だった。原告は訴えを全部取り下げた。法廷を去る3人の裁判官に傍聴席を埋め尽くした住民の拍手が鳴り響いた。 2.産業廃棄物処理業者に対する土地明渡請求事件これは、行政訴訟ではなく、民事の土地明渡請求事件だが、行政訴訟にも関連するので、紹介しておこう。私が最初にかかわった廃棄物関係事件だ。 この業者Bは、産業廃棄物の収集運搬業(積替保管を含む)と中間処理(焼却)の許可を持っていた。最近では、地元住民の反対も強くなり、なかなか産業廃棄物処理業・施設の新規開業は難しくなってきており、会社売買がはやっている。この業者Bも、前の経営者から会社を譲り受けた(その譲り受けの過程でもトラブルがあったらしい)。ところが、前の経営者が評判が芳しくなく、許可を受けていない産業廃棄物を収集運搬し、積替のための一時保管しかできない施設内にうずたかく廃棄物を積み上げ、挙げ句の果てに地中にも勝手に埋め立て、有機性の廃油も無許可で貯留していた。今の経営者はそこまでひどいとは知らずにこの施設を譲り受けたのだが、とにかく地元の評判が悪いので、地元対策をちゃんと進めながら、施設経営を行いたいということで、私のところに相談に来た。普通なら、不法投棄をするような業者の依頼は受けないが、このときは、私の言うことはすべて聞くということであったため、受任した。しかし、地元としては、この施設は暴力団関係だということで、土地明渡の調停、さらに訴訟となった。 私としては、不法投棄された廃棄物はすべて業者の負担で排出しましょう、但し、金額も膨大にかかるので4年、5年程度のある程度の時間を下さい、その代わり中間処理業の許可の範囲を広げる(破砕選別・汚泥固化)ことに同意してほしい、地元との間でしっかりした公害防止協定を締結し、地元と行政とからなる監視委員会を設けて、そこが定期的かつ随時監視し、もし何らかの違法の疑いがあれば、事業の全部または一部の停止の権限も与えましょう、という新しい廃棄物処理システムを提案したが、産業廃棄物処理業者に対する不信感が強く、結局は受け入れられなかった。残念なことだった。 その間、この土地に不法投棄(埋立)されていた廃棄物につき、福井県が廃掃法に基づき行政代執行を行った。これは行政がいろんな意味でウルトラCを用いた例であった。すなわち、行政代執行を行うためには、不法投棄者に対して不法投棄物搬出の措置命令を出し、それが履行されないときに限り、行政が代執行できるというものであるが、そのためには、まず不法投棄者を特定しなければならないし、その者に対して措置命令書を交付しなければならないし、措置命令には搬出に通常必要な期間を盛り込まなければならず、その期限が到来するまでは行政としても代執行はできない。不服申立をされたりしたら、やはり不服申立の様子見もしなければならないだろう。それでどうしても、代執行には時間がかかる。ところが、このときは、不法投棄者は誰か不明であるということで、県報公告をして、その翌日に代執行をした。 ところで、この業者Bは、結局、地元の了解が得られないために、廃業してこの施設を撤退することになった。しかし、地元の了解が得られるかもしれないと努力していた間、何とか日銭を稼がないと行けないために、ついつい、収集運搬・中間処理の許可があることを悪用して産業廃棄物を安価で引き受けて不法投棄をしていたらしい。そのため、この業者は行政処分を受けることになるのだが、処分を受ける前に廃業してしまったために、処分を受けずに終わってしまった。そのあおりを受けたのが次に紹介するH商店だった。 3.産業廃棄物収集運搬業許可取消処分取消請求事件この会社H商店は、主に一般廃棄物の収集運搬を業とする会社だが、取引先から一般廃棄物の他に、廃プラスチック(産業廃棄物)も引き取ってほしいと言われ、そのため産業廃棄物収集運搬業の許可も取った。廃掃法は、日本の法律に珍しく、頻繁に法改正をしている。平成12年改正でマニフェスト(最近、政治の世界でマニフェストという言葉がよく使われているが、廃掃法の世界のマニフェストは、産業廃棄物の収集運搬・中間処分・最終処分の経過が記載される管理票を意味する)の規制や産業廃棄物の処理委託に関する規制等が強化され、排出事業者も最終処分までマニフェストで管理しなければならなくなったし、排出事業者が産業廃棄物の処理を産廃業者に委託する場合は、所定の事項を記載した契約書を収集運搬業者及び処分業者との間で個別に締結しなければならなくなった。これは、今まで、排出事業者が産廃の処理は処理業者に委託したから後は知らないと言って不法投棄の後始末をしなかったのを、排出事業者に対する規制を強化することによって、不法投棄を抑制しようとするところに狙いがあった。というのは、不法投棄をするのは、産廃処理業者や無許可業者であるが、彼らが不法投棄に走るのは、排出事業者が適正処理をするのに十分な処理料金を支払わないためであった。そこで、悪質な処理業者を利用したつけを、排出事業者に負わせるようにすれば、結果的に不法投棄は抑制されるはずである。そうしなければ、不法投棄対策は、何時までたっても、とかげのしっぽ切りになってしまう。ところが、排出事業者は、依然として、平成12年法改正の趣旨を十分に理解せず、収集運搬業者に契約書の締結からマニフェストまですべて任せて知らん顔である。本件の場合も、排出事業者は、産業廃棄物収集運搬業の許可しかとっていないH商店に廃棄物の処分の一切を任せていたため、H商店は、Bまで廃棄物を運搬し、後の最終処分業者までの運搬はどこに運搬するかも含めてBに任せることにした。そうしていたところに、平成12年法改正となり、排出事業者は、今度は、契約書の作成を全てH商店に任せた。この「全て」というのは、廃棄物をどこに積替保管ないし中間処分に出し、最終処分に出すかまで全て含めて、それらの処理業者との契約書の締結までも全て任せた。だからといって、林商店に収集運搬のための処理料金と中間処分や最終処分のための処理料金との明細を示すということは全くなく、相変わらず、林商店に最終処分まで込みでなんぼという一括処理料金の支払しかしない。その料金で全て適正に処理できるかもおかまいなしであった。そこで、H商店は、じゃあということで、契約書とマニフェストだけはKの名義を借りることにした。排出事業者も、Kには廃棄物は運ばれていないことは百も承知の上で、その契約書とマニフェストだけ整えばそれで良しとした(排出事業者は、そんなことは知らなかったと言うが、契約書には処理する産業廃棄物の種類も数量も、運搬先の施設名も何も記載されていないのだから、およそ契約の体もなしていなければ、具体的なことは何の取り決めもなされていないのだから、それまのでBではなくKまで運搬されていたと信じていたと言う方がおかしい)。 県がBの不法投棄を調査しているうちに、このH商店の件も判明してきた。H商店も、廃掃法違反を犯していることには違いはなかったが、未だに処理業者に対して圧倒的な力を有していて、かつ法改正の趣旨を理解しない排出事業者と、とにかく仕事をつなぐ必要のあったBにうまく利用されただけであったのに、H商店だけが産業廃棄物処理業の許可の取消処分を受けた。福井県では、それまで業の許可の取消は1件しかなく、それは敦賀で、豊島を上回る量の廃棄物を違法に処分していたキンキクリーンに対するものであったが、H商店はそれに続く第2号であった。しかし、キンキクリーンのような大魚に比べると、H商店は雑魚もいいところであった。しかも、H商店よりもBの方が明らかに悪質であるのに、Bを処分できなかったから、その付けをH商店に回したとしか思えないほど、H商店に対する処分は重い処分であった。もっとも、不適正処理をした業者に対する処分の強化も平成12年法改正の目玉であり、国の処理基準によれば、H商店の場合は確かに業の許可取消相当とされているから、県にしてみれば、法を適正に運用しただけと言うのかもしれないが、しかし、これまでの県の行政処分の運用実態や他の事件の処分と比較すると、明らかに権衡を欠くとしか思えなかった。 しかも、最近は、不法投棄事犯の規制・取締の強化のために、県警の警察官が県庁に出向することがはやっている。H商店の場合も、出向警察官がH商店の「取調」にあたった。いきなり机を思い切り叩き、「ここは保健所だから、お前のような奴にさん付で呼んでやっているんだ。ありがたく思え」「お望みなら鉄格子の中で取り調べてやろうか。何時でも引っ張っていけるんだから」と威嚇恫喝し、最後は出向警察官が調書の内容を口授し、H商店がそれを書き取っていかにも本人が作成したかのような事実顛末書が作成された。これは、全く警察の「取調」と同じだった。しかし、廃掃法を幾ら見てみても、行政が業者に対して行えるのは「報告の徴収」のみであり、取調に通じる「質問」権は何ら規定されていない。「任意取調」は何時でもできるという警察官の発想をそのまま廃棄物行政に持ち込んだ誤りがここに表れた。 さらに、問題であったのは、産業廃棄物処理業の許可の取消が一般廃棄物処理委託契約の欠格事由に該当するということだった。一般廃棄物(いわゆるごみ)集めをする業者には、市町村から一般廃棄物処理業の許可を受けて行うものと、市町村から一般廃棄物収集運搬の委託を受けて行うものの2つがある。それに対して、産業廃棄物処理業は、県から許可を受けて行うもので、似ているようで、業態は異なるし、一般廃棄物処理業と産業廃棄物処理業を兼ねて行っている業者は少ないのではないだろうか。それなのに、廃掃法によれば、産業廃棄物処理業の許可を取り消されたものは、一般廃棄物処理業の許可を受けられないし、さらに同法施行令によれば、一般廃棄物処理委託契約を受けることもできない。一般廃棄物処理委託契約は、業の許可がなくてもできるのに、たまたま産業廃棄物処理業の許可を持っていてそれを取り消されれば、契約を受けられなくなるのだ。これはいかにもおかしい。施行令は違法、少なくとも限定解釈を加えるべきだろう。しかし、町はそのような限定解釈をとらなかったばかりか、建設業者向けに策定している指名停止措置要領をH商店に適用して(第1の誤り)、産業廃棄物処理業の許可を取り消されたことを「業務に関する不正または不誠実な行為」にあたると解して(第2の誤り。ここで言う業務とは、受託業務を指すと言うべきだ)、H商店を要領の定める最長期間の9ヶ月の指名停止とした(第3の誤り。指名停止期間は必要性・悪質性との兼ね合いの中で合理的な期間とされるべき)。指名停止としたのは、一般廃棄物処理委託契約は、年度毎に更新しており、来年度の契約をする3月にH商店を委託契約から排除するには最長期間9ヶ月の指名停止にする必要があったからであったし、またこの年は、ハッピーマンデー法(日曜が祝日にあたるときは、月曜日を休日とする)の施行に伴い、月曜日が収集日に割り当てられているときは、その日が休業となってしまうので、その翌火曜日を収集日に割り当てるための委託契約を9月に締結することになっていたため、その契約からもH商店を排除するためだった。 そこで、県を相手に産業廃棄物処理業許可取消処分の取消を求める行政訴訟を提起すると共に、違法な処分や「取調」等によって受けた損害の賠償を求める国家賠償請求訴訟を提起し、町に対しては違法な指名停止等によって受けた損害の賠償を求める国家賠償請求訴訟を提起した(指名停止は処分性がないとされているために、行政訴訟は提起できなかった)。 平成16年3月、福井地裁は産業廃棄物処理業許可取消処分の取消を認めた。その理由は、法の禁止する再委託にはあたらないとする簡明なものであったが、私には極めて画期的な判決であった(判決内容)。それほどまでに行政訴訟で当たり前の判決を勝ち取ることは難しい。 (03/8/15記 04/5/4更新) |