市民オンブズマン福井公判の経過(2000/1/22)

第1 カラ出張関係

1,福井県カラ出張17億円返還訴訟(H10行ウ13号)

 福井県旅費調査委員会の調査で、平成6年度から9年12月までの間に、21億6000万円ものカラ出張が明らかにされました。しかし、県は、このうち4億6800万円(22%)を返還させただけで、残りの17億円もの巨額のお金は、「公務遂行上の経費」に充てたという理由で、返還を求めないということにしました。

 しかし、「公務遂行上の経費」に充てたと言いますが、何を買ったのか、何に使ったのかは、闇の中です。そもそも、「不適正な支出」(公務遂行上の経費に充てたことの証明ができないもの。飲み食いに充てたと批判されても仕方のない支出)であろうが、「公務遂行上の経費に充てた支出」(職務関連の慶弔費・備品図書購入費等)であろうが、公務出張の事実がないのに公務出張をしたかのように虚偽の請求手続きをして支出された旅費はいずれも旅費条例に違反する違法な支出です。それを違法とは認めない姿勢に根本的な誤りがあります。そこで、その返還を求めて、平成10年10月29日、福井県庁の責任者である栗田知事を被告として約17億円の返還を求める住民訴訟を提起しました。

第1回公判(99/1/13)

 栗田知事は、その答弁書の中で、私たちの問題にしている旅費支出が特定できていないとか、支出してから既に1年間を経過したとかの理由で、私たちの請求を却下(いわゆる門前払い)するように求めました。そればかりか、「旅費調査結果が出るまでカラ出張があるとは知らなかった。従前から、知事として行政運営及び予算執行の適正化について職員に指示をしてきたから、責任はない」と、責任を旅費の専決者である課長補佐等にいっさい押しつける答弁をしました。

 それに対し、私たちは、「公務遂行上の経費」に充てた明細の開示を求めるとともに、カラ出張は違法でないと本気で主張するつもりなのかを明らかにするように求めました。

第2回公判(99/2/24)

第2回公判では、栗田知事は、本案審理に先立ち本案前の主張について判断すべきである、知事に責任があるかどうかについてはそれまでは具体的に答弁しないという形式的な主張に終始しました。明らかに選挙意識の逃げの姿勢です。

このような被告の対応を受けて、裁判所も、まず原告の側においてできるところまで住民訴訟の対象を特定して欲しいと言ってきました。

 そこで、私たちは、平成9年8月17日〜12月末までの旅行命令簿を福井県から取り寄せるよう裁判所に送付嘱託を申し立てるとともに、次回までに、私たちにおいてできるところまでカラ出張の事実を特定して主張することにしました。

第3回公判(99/4/14)

 私達は東京事務所、農村整備課、監査委員事務局について、旅費支出状況の一覧表を作成しました。

 東京事務所では、驚くことに、事務所職員のうち四人以上が福井へ出張という日がざらであり、しかも一人あたり月に3〜5回も、事務連絡の用という名目で、福井への出張を繰り返しているのです。福井への出張者の中には、自動車運転手や事務所補助員も含まれていますが、このような職種の者が福井県庁へ出張しなければならない必然性があるとは思えません。一人あたりの出張回数は年間2、30回で、延べ日数に換算すると5〜70日にも及んでいるのです。あまりにも不自然です。こんなに多くの職員が頻繁に福井に帰っていたのでは、東京事務所としての職務を遂行できるはずがありません。

 次は農村整備課です。ここでも、ほぼ毎日のように、複数名の職員が東京、金沢に出張しています。多い日には、8月20日には7人もの職員が東京に出張しているし、10月6日には8人もの職員が金沢に出張しているのです。旅費支出額のうち、東京出張の占める割合は71%、金沢出張の占める割合は14%です。東京都には農林水産省本省が、金沢には農林水産省北陸農政局がそれぞれ存在するので、そこでの用務のための出張であると推測されますが、農水省での用務のためであれば北陸農政局への出張で十分ではないでしょうか。逆に、本省にこれほど頻繁に出張するのであれば、北陸農政局へ出張する必要はないと思われます。いずれにしても、東京事務所におけるのと同様、これほど多くの職員が始終東京や金沢に出張していたのでは、農村整備課としての職務を遂行できるはずがありません。 そうすると、農村整備課における旅費支出のうち東京・金沢出張は大半がカラ出張ではないかと疑われるのです。

 ちなみに、農林水産部の「事務処理上不適切な支出」金額の絶対値は県の中でもワースト2であり、不適切支出一件あたりの単価はワースト1位です。

第4回公判(99/5/19)

栗田知事は、私達の送付嘱託の申立に対しても応じず、公文書公開請求すればいいと開き直るのみで、訴訟の中ではカラ出張の事実を全く認めようとはしません。挙げ句の果てには、私達の起こした訴訟を「濫訴」(筋を通さずに、みだりに訴えること)と断じ、直ちに却下されるべきであるとまで主張しました。

私達は、さらにカラ出張を特定するために、訴訟手続外で総務部地域政策室、農水部農村計画課の2課について旅行命令簿等の公開請求を行い、それに基づきさらにカラ出張を特定する準備に入りました。

ところが、裁判所は、あろうことか、実体審理に入ることなく、弁論を終結しました。住民監査請求の対象が特定できていないとの被告の主張に沿った判断をするということでしょうか。司法審査の放棄であり、法の番人たる裁判所としてはあるまじき姿勢です。

判決(99/7/7)

裁判所は、「監査請求においては、対象とする財務会計上の行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるものではなく、財務会計上の行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的具体的に摘示することを要する」として、「原告が個々の旅費支出について日時、支出金額、行き先等を明らかにしていないから、不適法な監査請求であった」として、私たちの訴えを却下(門前払い)し、カラ出張の中身の審理に入りませんでした。

しかし、これは、市民に対して、無理難題を強いるものです。県はすでに旅費調査委員会を設けて全庁調査をし、その結果、1円単位で、どれが「公務遂行上の経費に充てた支出」で、どれが「不適法な支出」であるのかを特定しているのです。これは、監査委員でも同じです。監査委員でも、監査委員を構成メンバーとする監査委員事務局旅費調査委員会を設け、旅費調査を行ったのです。県も監査委員も、どれがカラ出張であるのかすでに分かっているのです。それを知らないのは県民だけです。県民が情報公開請求をしても、県知事は、旅費調査結果の裏付け資料も、各所属が旅費調査の過程で作成した取りまとめ資料も公開しないのです。それなのに、県民がカラ出張を特定しない限り、監査請求も住民訴訟も認めないというのは、不条理極まりないものです。このような判決をする裁判所は、憲法の番人としての職責を放棄したものと言わざるを得ません。

そこで、私たちは、即日、名古屋高裁金沢支部に控訴しました。現在、高裁での審理中です。そこでの争点も、もっぱら監査請求の対象が特定されていたかどうかです。


2,国庫清算返還金住民訴訟(H11行ウ17号)

平成11年6月補正予算案で、県は、国から受け取った補助金のうち旅費に支出すべき分をカラ出張していたため、それを国に返還する必要があるとし、それに1億4000万円もの利息を加算した5億5000万円もの大金を国庫に返還する予算を組みました。カラ出張についての県の言い分は、「不適正な支出額は旅費返還会から返還を受けたし、それ以外の事務処理上不適切な支出額は公務遂行上の経費に充てたから県に損害はない」というものでしたが、ここに現実に県に損害が発生することになりました。国から返還を求められている補助金には、「公務遂行上の経費に充てたもの」も含まれています。県は、県民に対しては「公務遂行上の経費に充てた」から違法ではないと言いながら、国に対しては「公務遂行上の経費に充てたもの」も含めて違法であると認めて返還するというのです。これを二枚舌と言わずして何と言いましょうか。県庁職員がカラ出張をしていたつけが県民の負担に回されたのです。国庫補助金返還分には、飲み食いに充てた「不適正な支出」分も含まれているのです。これに対して、県は「やむを得ない」の一言です。これで納得できますか!

7月5日、総務教育常任委員会では、「加算金がこれ以上増額しないように早急に国に返還すべき。」「なぜ一般会計から出すのかと県民から怒りの声もあるが、これ以上釈明をしてもらうつもりはない。」、「予算の縛りが強くて不適切な使用になるのも仕方がない。県民に理解してもらえるようカラ出張ではなく、目的外使用、流用という言葉を使った方がいい。」と、カラ出張・国庫精算返還金支出を肯定する審議しかなされませんでした。それもそのはず、その常任委員会の終了後には、恒例の県理事者との懇親会(開花亭)が行われているのですから。

補正予算案を審議する7月9日の県議会予算特別委員会で、議員が県に対して資料の提出を求めたところ、県が委員会に提出したのは、省庁別と県の部署別の返還額が百万円単位で示されている資料2枚だけでした。ということは、それまではそのような簡単な資料も県議会に提示しないで、5億5000万円もの多額のお金を国庫に返還する補正予算を通そうとしたのです。それ以上詳細な資料の提示を求めても、県は「いずれ省庁との協議が固まれば提出できるが、協議中なので出せない」と答弁するのみ。議員が「この紙切れ2枚だけでは県民に『審議しました』という判断は下せない」として質問を中断したというのは、至極もっともなことです。そして、委員会の採決は7月13日に持ち越されました。

13日、再開された予算特別委員会では、知事が「国庫返還が見込まれることを事前に説明しなかったのは申し訳なかった」と陳謝しただけで、結局、県から追加資料は提出されずじまいでした。そして、具体的な議論は何もないままに、「国の各省庁との協議が整い次第、速やかに額を確定し、予算特別委員会理事会の了承を得た上で執行すること」という付帯決議をつけて、補正予算を可決しました。この付帯決議の意味するところは、返還額も確定しないし、各省庁との協議も明らかではないが、返還の予算だけ組もうということです。

そして、本会議は、会派間の調整をめぐってずれこみ、14日午前1時前に可決閉会しました。会派間の調整というのは、「県民に対する積極的な情報公開に努めること、速やかに返還額を確定し加算金の減額に努めること、今後の推移については県議会に適切な報告をすること」という決議をするかどうかをめぐって、調整に手間取ったというのです。こんな当たり前の決議をどうして反対する議員がいるのか信じられないとともに、こんな当たり前の決議をどうして委員会の場では持ち出さずに本会議になってから持ち出すのか、それも信じられない思いです。会派間のメンツ争いと言われても仕方ありません。

県の予算に対する付帯決議の採択は平成8年3月以来ということですから、今まで県と県議会のあり方からすると、今回の予算特別委員会の付帯決議と本会議が未明にまでずれこんだといことだけでも、大きな前進なのかもしれません。しかし、県民の声を無視した県と県議会のあり方には黙っているわけにはいきません。

そこで、私たちは、7月7日のカラ出張17億円返還住民訴訟却下判決に対する抗議キャンペーンを皮切りに立て続けに街頭活動を行うとともに、8月1日には、全国市民オンブズマン大会で、福井県カラ出張返還金問題に関する決議を採択し、8月19日には、その執行を兼ねて、全国市民オンブズマン連絡会議代表幹事を務めたこともある辻公雄弁護士とともに、県・県議会に対し要請行動を行いました。

それと併せて、私たちは、8月24日に国庫精算返還金支出差止等を求める住民監査請求を提起することにし、そのための監査請求人集めを8月13日から取り組むことにしました。監査請求人集めの初日には、福井駅街頭でキャンペーンを行いました。

そして、8月24日、私たちは、広く県民の方も含め315名で監査請求を行いました。これは、オンブズマンとして取り組んだ監査請求の中では最大規模のものです。福井県下でこれまで取り組まれた監査請求の中でも最大規模ではないかと思います。

しかし、10月8日、県監査委員は、私たちに意見陳述の機会も与えないまま、監査請求を却下しました。その理由は、県は9月30日までに国に対し国庫精算返還金を支払ったから差止を求める利益はないし、この支出は県の補助事業遂行義務違反・条件違反として補助金適正化法等に基づき国に返還しなければならないものであるから、違法ではないというのです。要するに、カラ出張は違法だったけれども、それを法律に従って国に返すのだから、返還すること自体は適法だと言うのです。一見もっともらしく聞こえますが、どう考えても納得のいく理屈ではありません。しかも、請求人に意見も述べさせないというのは明らかに手続違反であり、開き直りとしか言いようがありません。私たちは、監査委員に対し、315名もの県民がカラ出張問題に憤りを感じていることを率直に感じて、県民の納得する、常識ある監査を求めましたが、監査委員は私たちの意見に聞く耳を持とうとはしませんでした。

そこで、私たちは、11月5日、福井地裁に住民訴訟を提起しました。この住民訴訟では、監査委員の言うように、国庫精算返還金を国に返還するのは適法だというのであれば、その返還金について、違法なカラ出張旅費支出をした職員から取り立てるべきなのに、それを怠ったのは違法であるという構成にしました。要するに、歳出予算が適法だとしても、歳入予算が違法だという構成にしたのです。しかし、私たちの真意は職員に加重負担を求めることではありません。県職員から取り立てるようにまず求めたのは、県職員に対しカラ出張のけじめを付けてほしいからです。そして、職員に代わって責任をとるべきなのは知事ですから、最終的にはトップに立つ知事個人が損害賠償すべきであるとしました。

ところで、国庫精算返還金のリストは、極めて多数の補助事業についてこれを各省庁別に整理したものですが、これを県の各所属別に整理することにし、それによって旅費支出の専決者を特定することにし、その職員から返還を求めるべきだということにしました。その作業を通して、3割自治と呼ばれる実態、すなわち極めて多くの国庫補助金事業の存在を改めて知りました。そして、そのような補助事業の中から、県職員が少しずつカラ出張として補助金を取り崩していく姿が明瞭に浮き上がってきます。補助金に群がる自治体職員のイメージを思い浮かべるのは私ひとりでしょうか。後に述べるように、東京事務所のハイヤー利用の実態が県の中央官庁詣出にあるように、ここでも自治体の財源不足のために県職員が国庫補助金に群がっているのです。財政を伴った地方分権の必要とされる所以です。

第1回公判(99/12/22)

ここでもまた、知事は、カラ出張の中身に踏み込むおそれのある実体の答弁はせずに、監査請求の対象は「国庫精算返還金の支出」であったのに、訴訟では「職員に対して損害賠償請求をしないこと」または「カラ出張そのもの」を問題にしているのだから、監査請求の対象と住民訴訟の対象が異なる、職員に対する損害賠償請求はカラ出張のあったときから可能であるが、その時点からすでに1年以上経過している、という2点を理由に本件訴えの却下(門前払い)を求めてきました。徹底して、カラ出張問題を避けようとしている姿勢が見え見えです。


3,カラ出張裏帳簿情報公開訴訟(H11行ウ10号)

私たちは、カラ出張を特定するために、平成11年4月9日、政策企画室等6所属の旅費調査委員会の調査にあたって作成されていた帳簿、ノート類(事務処理上不適切な支出とされ旅費の使途等を記したもの)とこれに関連する預金通帳及び同調査の取りまとめ文書一切の情報公開請求をしました。そうしたところ、福井県知事は、4月23日付で公文書不存在を理由に公開の可否の決定ができない旨の通知をしてきました。そこで、私たちは、異議申立手続を経ることなく、6月1日、福井地裁に情報公開訴訟を提起しました。異議申立手続をしても、1年近くも非公開の書面審理で引き延ばされたあげくに、異議申立も棄却されることは自明だったからです。

第1回公判(99/7/7)

奇しくもカラ出張17億円返還住民訴訟の判決日と同じ日に第1回公判を迎えました。この日は、県が、住民訴訟では、私たちがカラ出張を特定していないから、不適法な監査請求だと言いながら、いざ私たちがカラ出張を特定しようとして情報公開請求をしてもこれにも応じないと開き直る構図が明らかになった日でした。公文書公開条例が「公文書」の要件として「決裁供覧条項」等を要求しているために生じた問題事例の最大のものです。

ところで、福井県知事は、その答弁書の中で、公開の可否が決定できない旨の通知は、公文書が存在しない事実を通知しただけであり、非公開処分ではないから、訴訟を提起することはできないと答弁してきました。しかし、こんなふざけた話はありません。れっきとして県庁内に存在する文書なのに、県がその都合で「公文書」ではないと決めれば、訴訟も提起できないという理屈だからです。情報公開請求に対しては、公開か非公開かしかないのです。対象となる文書がないとしても、請求者に見せないということは公開しないということですから、非公開処分です。しかも、「公文書不存在」にも、対象文書が物理的に存在しない場合と、存在するが「公文書」の要件(「決裁・供覧」、「職務上作成取得」、「管理」の要件)を満たさない場合のふたつがあり、後者の場合は、「公文書」の要件に該当するかどうかという法律問題ですから、裁判所の判断を受けられるのは、当然です。

第2回公判(99/8/11)

県は、文書の存在については、「通常、公文書として保管、保存されている文書以外の文書について、どのような内容の文書があるのかは把握できないので、釈明には答えられない。現実的にも、公文書として保管、保存されている文書以外の文書は保管、保存の必要がなくなった時点以降において随時破棄されている。」と木で鼻をくくったような釈明をしてきました。

これに対して、裁判所は、「どういう文書があるのかを知りたい。また、どうして公文書に該当しないと言うのか、もう少し詳しく主張してほしい」と被告県に釈明を求めました。極めて適切な訴訟指揮でした。

第3回公判(99/10/6)

県は、「『事務処理上不適切な支出に係る旅費支出に関する帳簿、ノート類および預金通帳類』が物理的に存在するのかどうかを政策企画架等各所属に確認したところ、現在は存在していない」、「旅費調査の取りまとめ文書は存在するが、これはその使途等を記載したメモをもとに、公務遂行上の経費に充てた額及び不適正な支出額の年度別金額、公務遂行上の経費にあてた額の年度別使途区分ごとの金額並びに不適正な支出額の年度別金額を整理したもので、整理した件数及び金額の集計結果を文書化したものであって、内部文書である」と釈明しました。また、「文書の決裁供覧、作成取得、管理というのは、いずれも福井県文書規程や事務決裁規程に基づくものをいう」と主張しました。

これに対し、私たちは、県知事に対し、いかなる文書を何時廃棄したのか明らかにするように釈明を求めるとともに、県の主張でいくならば、公文書公開条例で認められた憲法上の権利である公文書公開請求権が、条例よりも下位の法令であり、議会の議決も経ない文書規程の規定如何によって左右されることになってしまうと反論しました。

第4回公判(99/11/24)

県は、私たちの主張に対し、県職員が事実上作成取得した文書もすべて公文書ということになると、職員の机の中等に存在しているほんとんどすべての文書の中から公文書公開請求に係る文書を特定することを要することになり、特定が事実上不可能である旨反論してきました。

しかし、これは事務手続きの煩瑣を理由に公文書公開請求権の範囲を決めようとする行政の方便にしかすぎません。県は、カラ出張住民訴訟では県民にカラ出張を特定せよなどと県民に不可能を強いる主張をしておきながら、いざ自分が特定を求められると、これを不可能だとして拒否しようとするのは、いかにも身勝手と言わざるを得ません。

第5回公判(2000/1/19)

本日、裁判は結審し、判決は3月15日に言い渡されることになりました。


4,カラ出張備品管理簿情報公開訴訟(H11行ウ19号)

県はカラ出張のうち「公務遂行上の経費に充てたもの」は、たとえばOA機器等備品購入に充てられたものがあり、これらは予算制度が硬直化しているため、予算化して購入することができなかったものであって、公務遂行上の経費に充てられたものであるから、返還する必要はないとしていました。これを逆に言うと、本来、予算化して購入されるべきものであったのですから、カラ出張の「旅費」で購入した備品は、備品台帳に登記されなければなりません。実際、平成11年7月県会の予算特別委員会において、三輪総務部長は「備品台帳はないが、各部署で管理簿を作成し、管理している」と答弁しています。そうすると、この管理簿は備品台帳に準じるものとして公開されるべきです。

そこで、私たちは、平成11年8月20日、「総務部各所属の平成6乃至9年度12月まで公務遂行上の経費として支出した旅費で購入したパソコン等備品の管理簿」の情報公開請求をしたところ、県知事は、またしても、公文書不存在を理由に公開の可否が決定できない旨の通知をしてきました。

そこで、平成11年11月12日、私たちはこの非公開処分取消情報公開訴訟を福井地裁に提起しました。

第1回公判(99/12/22)

県知事は、例によって、公開の可否が決定できない旨の通知は非公開処分ではないから行政訴訟は提起できない、管理簿は福井県文書規程に基づく起案・決裁・保管をしているものではないから「公文書」には該当しないとの答弁をしてきました。

ところで、県知事は、答弁書の中で、「公務遂行のため購入したOA機器など備品について、物品として管理されるべきものであるとの見解も首肯できる」と述べています。それでは、どうして県はそのような見解に立たないのか、また管理簿が物理的に存在していることを認めるのであれば、それはどのような体裁でどのようなことが記載されているのか、これらを明らかにするように私たちは県知事に釈明を求めました。


第2 東京事務所関係

1,東京事務所ハイヤー料金返還訴訟(H10行ウ15号)

 私たちは、官官接待の出先機関である東京事務所の問題を調査するために、平成9年度決算を調べました。その中で出てきたのが、使用料及び賃借料の突出ぶりでした。さらにその詳細を見てみますと、東京事務所では平成9年度だけで282万円のハイヤー料金を支払っていました。ところが、そのうち1日あたりの料金が5万円を超えるものが24回、合計185万円余もありました。羽田空港から赤坂プリンスホテルに行くためだけに53,000円、羽田空港から浦和県議会や大宮のホテルに行くのに10万円、都内わずか12kmを走行するのに6万円もの支払をしているのです!私たちは不況の中で、1円でも切りつめた生活をしているのに、そんな私たちから取り立てた税金を使って、県民常識からかけ離れたこんな無駄遣いをしているのです。私たちはその返還を求めて、平成10年12月15日、栗田知事と谷口東京事務所長を被告として住民訴訟を提起しました。

第1回公判(99/2/10)

栗田知事と谷口東京事務所長は、その答弁書の中で、「議長等が使用する専用自動車を配備するよりも合理的だ。タクシーの中央省庁内への乗り入れは禁止されている。公共交通機関では携帯電話の使用が困難だ。知事、議長ら要職にある者が都内に出張するのは県の重要用務のためだから、1日あたりの料金が5万円を超えることのみをもって合理的でないと主張するのは、これにより県の重要施策が推進され、県民福祉の増進が図られることを見落とした議論である。待ち時間が長くなっても、道路が渋滞することもあるし、相手方要人との面会は当日になって予定が変更されることもあるから、やむを得ない。ハイヤーの利用は最も合理的で効率的だ」などと主張して、違法ではないと反論してきました。全く反省の色なしです。

そこで、私たちは、誰が誰に会うためにどこに行ったのか、何のために行ったのかを明らかにするよう求めました。

それと併せて、私たちは、裁判所に対し、日本交通から、道路運送法に基づく運輸大臣の認可料金表の取り寄せを申請しました。というのも、私たちが電話で日本交通に照会したところ、ハイヤー料金は時間制であるとの回答であったのに、県側から出てきた日本交通のハイヤー利用料金表によると、時間制料金と走行距離・待時間併用制料金との高い方によると言うのです。そもそも日本交通と県との契約書はないというのですから、いったいどのように料金を計算しているのか全く不明であったからです。

第2回公判(1999/4/21)

県からハイヤー利用日ごとの行程の概要が主張されました。しかしながら、その主張では、訪問先は「大蔵省の幹部」等としか記載されていないため、訪問先・訪問者の氏名を明らかにするように求めました。また、行程中に「サントリー美術館の視察」「六義園の視察」等どう見ても行政視察とは思えないものがありましたので、これらの視察内容の詳細も明らかにするように求めました。

第3回公判(1999/6/9) えっ? 日本交通が185万円のうち84万円を福井県に返還?

被告は、平成11年5月17日に、日本交通が185万円のうち84万円を福井県に返還したと主張してきました。

私達も、裁判所も、これはどういうことかと被告に釈明を求めました。しかし、被告は、すでにその理由を知っているはずなのに、次回までに答弁すると答えをはぐらかせました。

 ところで、私たちは、引き続き訪問先の氏名を明らかにするよう求めると同時に、裁判所が取り寄せた日本交通の運輸大臣認可書によるハイヤー料金と、実際に支払ったハイヤー料金とが倍程度食い違って、高額にすぎることを指摘しました。日本交通から返還された金額というのは、きっとこの数字では?

第4回公判(1999/7/21) 何と185万円のうち84万円が運輸大臣の認可金額以上の料金?!

 被告は、前回の裁判所からの求釈明に対し、「本件訴え提起後、福井県が事実関係等について調査した結果、福井県が日本交通株式会社に対してハイヤー利用料金表により実際に支払った利用料金が日本交通が運輸大臣の認可を受けた運賃よりも高額であったことが判明したため、日本交通に対してその差額の返還を求めたところ、日本交通もこれを認め、福井県の請求額にほぼ相当する金額を返還するに至ったものである」と回答してきました。

 ところで、これが事実だとすると、大変なことです。というのは、日本交通は、運輸大臣の認可業種である一般乗用旅客自動車運送事業であり、運輸大臣の認可料金によらないで料金を収受したり、料金の割り戻しをすると、刑事罰行政罰の対象になります。しかも、実際の支払額は認可料金よりも43%も多かったのです。県がそんな愚かな超過支払をするでしょうか。

 しかも、不思議なことは、東京事務所と日本交通との間では、ハイヤー利用の契約書はなく、料金体系も口頭によるものだったというのです。そして、訴訟になってから、東京事務所は日本交通からわざわざ「ハイヤー利用料金表」(乙1号証)を作って提出させたのです。ところが、今になって、これが間違いで、運輸大臣認可料金よりも43%も割増料金だったというのです。

 私達は、実はこのお金は日本交通に余計に支払われたものではなく、東京事務所が日本交通に支払ったように見せかけて、官官接待等に使用するために浮かせていたお金だ(空ハイヤー)と推測します。福井県による民間業者いじめで割を食ったのは、日本交通ではないでしょうか。

第5回公判(99/9/8)

 被告は、あくまでも訪問先の氏名は明らかにしないと言い張りますので、私達は、裁判所に対して、訪問先に対して個別に氏名を明らかにするよう調査嘱託の申立をすることにしました。 同時に、私たちは日本交通営業所長、副知事、県議会議長・議員、東京事務所長の証人尋問を申請しました。

 

第6回公判(99/10/27)

裁判所は、私たちにカラハイヤーであると主張する根拠を明示するように求めるとともに、県に対しハイヤー利用行程の裏付け資料を提出するように求めました。

第7回公判(99/12/8)

私たちは、ハイヤー利用の24件について、必要性合理性があるかどうかを個別に検討しました。ちょっと長くなりますが、県議会議長や副知事らが東京出張で何をしているのかを知る意味でも面白い資料となりましたので、準備書面を引用しておきます。これを見ますと、北陸新幹線や近畿自動車道敦賀舞鶴線の開通のために、県議会議長・議員や副知事らが中央官庁に日参して陳情していることがよく分かります。このような中央官庁詣出が「県政の重要公務」であるというのです。中央からいかにお金・政策を引き出すかが今の地方自治の実態なのですね。地方分権が本当に必要です。

次回に、県からの反論を待って、裁判所が私たちの調査嘱託や証人申請を採用するかどうかを判断します。


2,官官接待相手方氏名開示訴訟(H12行ウ1) 

官官接待の費用となるのが東京事務所の食糧費です。そこで、平成10年8月17日、平成9年度東京事務所の食糧費の執行伺、支出負担行為伺及び支出命令決議書等の公文書公開請求をしたところ、9月16日、県知事は、県職員以外の者の職氏名は非公開としました。

ところで、これらの食糧費は、@県選出国会議員・同秘書との懇談会、Aふくいの活性化を考える東京会議という有識者を招いての勉強会、B地方自治法施行50周年記念自治大臣表彰受賞者等との昼食会であり、いずれも官官接待とは異なるものでしたが、いずれも公開することの弊害が全く考えられないものでした。それでも、県知事は、個人情報であるとの理由で非公開としたのです。現行公文書公開条例の非公開情報の範囲が広すぎる問題の現れです。

そこで、私たちは、平成12年1月11日、福井地裁に非公開処分取消を求める情報公開訴訟を提起しました。