自民党司法制度特別調査会とそれに対する日弁連の動き

 1997年11月12日付各紙に、自民党の司法制度特別調査会(会長保岡興治衆院議員)が「司法制度改革の基本方針を策定」との記事が報道されておりました。ご覧になられた方も多いと思います。

 「司法の人的なインフラ整備」と「司法の制度的なインフラ整備および司法と立法のあり方」の二つの分科会を設けて、そこで98年4月頃までに意見を集約した上で、98年中頃までに提言をとりまとめるとしております。司法の根幹にかかわる意見も多数含まれているため、その詳細をご紹介します。

 もっとも、この基本方針(案)の策定にあたっては、各議員の思い付き的な発言も含めてすべて盛り込まれており、これが自民党の大勢の意見というものではなさそうですから念のため。

司法制度改革の基本的な方針(案)

ー透明なルールと自己責任の社会へ向けてー

自由民主党政務調査会・司法制度特別調査会

T 司法制度改革の必要性

 いま、世界は大きく変貌し、自由と民主主義、市場原理という理念で地球が一つに包まれていくと言う大きな流れにあり、日本は歴史的な大変革期直面している。このため、われわれは、行政改革をはじめとする六大改革を推し進め、経済を市場原理に委ねて、国民個々人の能力や創意工夫に未来を託すことによる新たな国づくりを進めている。これは規制が緩和されることによって、行政における従来の事前チェック型から事後チェック型への移行という、わが国の社会構造の抜本的な変革をもたらすことを意味し、経済をはじめ社会の様々な分野において、自由競争が一層促進されることになる。

 このような時代においては、国民には「自己責任」によって行動することが強く求められ、その基本的な拠り所となるものは「法」という公正で透明なルールである。また、21世紀の高度情報化社会においては、空間を超えてわが国社会と国際社会とがひとつのものとなり、わが国が、透明度の高い客観的な基準に従って行動する法治の行き届いた社会として、世界と調和し世界から信頼されることが不可欠である。すなわち、公正で円滑な経済活動と、如何なる不法な勢力の存在も許さない安全な国民生活の確保という国家の基礎を支える司法を整備し、今後より一層進展していく社会の複雑多様化、高度化、情報化、国際化に、わが国が的確に対応することが肝要である。

 このように、司法は21世紀の日本が国際社会で信頼を得ながら繁栄していくための、必要不可欠名国家・社会の基本的なインフラであり、まさに、新しい司法の確立は、国づくりの基本とも言うべき、立法や行政の変革と並ぶ重要な国家改革と位置づけるべきものである。

(略)

U 司法制度改革の具体的検討事項

(1)司法の人的なインフラ整備

 規制緩和後の21世紀のわが国において、社会の法的ニーズは飛躍的に増大することが予想される。このため、企業の経済活動にとって、紛争の予防、法令に適合した企業戦略の樹立の必要性は今後ますます高まり、社会・経済の高度複雑化にともなって専門分野における争訟も加速度的に増加していくことから、企業の法務部における法曹資格者の活躍が強く求められる。

 また、行政府や地方自治体においても、法的思考力を備え、法令等に熟練したエキスパートとしての法曹が十分に配置され、適正に法令等を運用するとともに、複雑多様な利害関係の調整基準として実効性をもった法令を速やかに立案改廃していく必要がある。他方、市民生活の日常に生起する小規模な紛争・事件等についても、迅速かつ的確に法的解決がなされなければならない。そのためには、日本全国いずれの地にあっても、国民の身近に法曹がいるよう、国民の司法へのアクセスを容易にすることが肝要である。

 このように、21世紀のわが国の社会においては、一方で社会の様々な分野で発生する高度かつ複雑な法律問題を取り扱う専門家集団としての法曹と、他方において、国民の身近な法律問題を取り扱う、ホームドクター的な役割を担う法曹とがともに十分に存在することが必要不可欠なのである。

 そして、このような国民のニーズに的確に応えるためには、組織化の点において欧米諸国に大幅に立ち後れているとの指摘もあるわが国の弁護士業務のあり方等についても、種々の見直しを進めていかなければならない。また、これまで裁判技術の習得が教育の中心であった法曹養成のあり方についても、検討していかなければならないであろう。

1 社会のニーズに対応するための法曹人口の増大

@(略)裁判官・検察官等の大幅な増員

A規制緩和が行われると政府や地方自治体においても法律に従った行動と解決がより一層求められることになり、問題の解決能力や法令の立案能力を持った法曹を政府部内等により多く登用することが必要となってくる。そのための方策について検討する。

B議員の政策立案における法的要素の必要性、国会における法案の審議がますます重要になること等にかんがみ、弁護士を政策秘書に登用することを容易にするための方策等について検討する。

C企業活動の法的側面を支える法務部の必要性にかんがみ、所属弁護士の増大等、そのニーズと方策について検討する。

Dその他

2 法曹養成のあり方

@法曹養成と大学教育との連携のあり方、大学における法学教育の改革等について検討する。

Aロースクール方式の導入など、法曹人口の大幅増加に対応する法曹養成のあり方について検討する。

B初等中等教育における司法の重要性について基本的な素養を育むための具体的な方策について検討する。

C司法試験あるいは司法修習を経ていない者に対する法曹資格の付与について検討する。D裁判官は、弁護士となる資格を有する者で裁判官としての職務以外の法律に関する職務に従事した者のうちから任命することを原則とする制度について検討する。

E法曹に対する継続教育のあり方について、司法修習終了後に全員が一定期間弁護士としての研修を行うという制度をも含めて検討する。

F裁判官・検察官・弁護士の相互の円滑な人事交流のあり方について検討する。

Gその他

3 弁護士等のあり方

@司法書士等の隣接資格者の法律事務への参入など、弁護士の法律事務独占について検討する。

Aあらゆる国民のニーズに応えるため、国民が抱える法的問題について専門家へのアクセスを容易にする観点から、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、司法書士等がそろった総合的な法律・経済関係事務所の開設等について検討する。

B弁護士事務所・司法書士事務所の複雑化も含め、その法人化について検討する。

Cその他

(2)司法の制度的なインフラ整備及び司法と立法のあり方

 21世紀の日本の社会においては、民事・刑事を問わず、企業活動の国際化、大規模化、

競争の激化等にともない、複雑で大規模な争訟が数多く惹起されることになる。この事態に対して、権利の具体的実現まで含めた適切な法的解決を迅速にもたらすことができないとなれば、わが国はボーダレスの世界経済の中にあって、その自立的な解決能力の欠如の故をもって、取り残されていくにちがいない。また、国民個々人の権利の擁護・実現を的確に果たす上でも、仲裁制度、準司法機関の充実等を図り、裁判制度を含む広い意味での紛争解決制度の実効性を飛躍的に高めていく必要がある。このような観点から、裁判及びその執行手続の整備をはじめとする迅速な裁判を実現しなければならない。

 また、法曹とそのスタッフ職員の数を大幅に増加させるとともに、様々な角度から司法の諸制度を整備充実させていかなければならない。さらに、国民の司法に対するアクセスを制度的に容易にし、国民に身近な司法の実現を担保することは、裁判の迅速化と並んで真に「国民のための司法」を実現するために極めて重要である。

 さらに、21世紀の新しい司法の確立、また国民のための司法を実現するという観点から、三権のひとつとして司法の独立を尊重しながらも、司法と国民を代表する立法府とが、それぞれの立場から協力して様々な問題に対処していく必要がある。このような意味において、これまでの法曹三者と立法府との相互の関わり合いのあり方等については、見直しを行う必要がある。

1 司法の制度的な整備・充実

@民事法律扶助制度予算の大幅拡充と同制度の早期抜本的整備ー諸外国に比べて著しく立ち後れている民事法律扶助関連予算を大幅に拡充するとともに、早期に法律による制度の抜本的な整備を図り、国民の司法へのアクセスを確保することの必要性とその方策について検討する。

A司法関係施設の拡充・整備促進ー司法の質・量の拡充のために、司法関係施設の拡充・整

備及び老朽化した既存施設について、より一層の整備促進を図ることの必要性とその方策について検討する。

B準司法機関・準司法手続の充実等ー裁判外における紛争の解決を促進するため、公正取

引委員会、証券取引等監視委員会等の準司法機関を充実させるとともに、新たなニーズに対応するため、この種機関の必要性とその方策について検討する。

C仲裁センターの充実ー国際間紛争等の円滑かつ迅速な解決のための裁判外紛争処理機構としての仲裁センターの整備・充実、また、新たなニーズに対応するため、この種機関の必要性とその方策について検討する。

Dアジア諸国に対する法整備支援の強化ー国際経済活動の円滑化に資するため、市場経済への移行過程にあるアジア諸国における法的基盤整備に対するわが国の国際貢献のあり方について検討する。

E民事基本法の現代語化等ー民法(第1編総則、第2編物権、第3編債権)、さらには、商法等の膨大な条文から成る民事基本法について、その口語化による分かり易い司法の提供と時代の流れに沿った法改正の実現について検討する。

F裁判の迅速化ーあまりに長期に及ぶ裁判を迅速化して国民に身近で利用し易い裁判にする必要があるため、その諸方策について検討する。

G刑事弁護制度の充実ーより適正で迅速な刑事司法手続を実現するための被疑者段階を含む国選弁護制度のあり方について検討する。

H民事執行制度の充実ー裁判の迅速化を図るのみならず国民の権利を迅速かつ適切に実現させるとの観点から、その執行手続の諸方策について検討する。

I最高裁判所裁判官の国民審査のあり方ー最高裁裁判官の情報開示のあり方とその審査方式等の見直しについて検討する。

Jその他

2 司法と立法をめぐる問題

@裁判所・法務省予算のあり方ー行政から独立した立場にある裁判所の予算と他の行政庁とは異なる性格を有する司法に密接に関連する行政領域を担う法務省の予算のあり方について検討する。

A国会の附帯決議の見直しー国民の代表である国会における法案審議のあり方という観点から、法曹三者の意見調整を求める附帯決議の見直しを検討する。

B法制審議会のあり方ー法制審議会の公開性・迅速化の確保、議員立法と政策提案立法との役割等について検討する。

C法曹三者協議のあり方ー法曹三者による協議のあり方、法曹三者と立法府との意見調整のあり方について検討する。

D弁護士自治の見直しー弁護士の懲戒について外部機関による審査方式を導入することなど、弁護士自治のあり方についての見直しを検討する。

E行政に対する司法審査のあり方ー行政のあり方について広く司法審査の機会を付与する等の必要性について行政事件訴訟法の見直しを含めて検討する。

Fその他

V 司法制度改革の取組体制と今後のスケジュール

(略)

1998年1月28日

 自民党は、上記「基本的方針」に基づき、「司法の人的なインフラ整備」と「司法の制度的なインフラ整備および司法と立法のあり方」についての2つの分科会で、1998年2月から4月にかけて意見集約の作業日程が示されている。

 これに対し、日弁連は、「基本的方針」は、法曹一元、裁判官・検察官の大幅増員、法

律扶助予算の大幅増額、司法関係施設の拡充整備、被疑者国選、最高裁判所裁判官国民審査の見直しなど日弁連の従来の主張を数多く取り入れるかたわら、弁護士自治の見直し、国会附帯決議の見直し、法曹三者協議のあり方、法制審議会のあり方の検討、弁護士による法律事務独占の再検討、司法試験を経ない法曹資格付与なども渾然と列記されているため、これに対して即時に断定的な評価を行うことはなかなか困難であるが、政権党の政調会の決定によるものであるだけに今後の司法の状況に与える影響は決して軽視することができないので、日弁連としては、自民党において正しい意見が集約されるように日弁連内に早急に体制を整える必要があると考えている。さらに、自民党調査会への対応にとどまらず、広くその他の政党及び政府に対しても、司法改革の必要性とその課題を積極的に提起し、司法改革への取組を求めていく必要がある。そこで、この自民党「司法制度改革の基本的な方針」に対応するWGが設置され、鋭意検討を続けている。