主   文

被告人両名をそれぞれ罰金10万円に処する。

被告人Cにおいて右罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告両名の負担とする。

理   由

第一 公訴事実(以下、本件公訴事実という)

 被告人株式会社Aは、福井県公安委員会から風俗営業の許可を受け福井市・・においてパチンコ店「パチンキングアミューズメント自遊時館」を経営する風俗営業者、被告人Cは、同社の従業員であり同社の課長として右パチンコ店の業務全般を統括するものであるが、被告人ちゃ、同社の従業員であり右パチンコ店のホール係として稼動していたDと共謀の上、法定の除外自由がないのに、同社の営業に関し、あらかじめ同公安委員会の承認を受けないで、平成8年1月22日午前8時50分ころ、同店において、同店に設置してある回胴式遊技機(通称パチスロ)32台の主基盤端子に通称「モーニング機」と称する著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機とするための機能を有する打ち込み機を接続し、もって、福井県公安委員会の承認を受けないで、同社が設置する遊技機の設備を変更したものである。(検察官主張の罰条 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律49条3項1号、20条10項、9条1項、50条、刑法60条)

第二 争点

 一 争点

 本件公訴事実が法49条3項1号、20条10項及び9条1項の構成要件に該当するか否か。

 二 争点についての被告人らと弁護人の主張

 1 被告人らは、公訴事実について「打ち込み機が、『著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機とするための機能を有する』ことはありませんし、『打ち込み機を接続』することが『遊技機の設備を変更』することにあたるということもありません。」とこれを否認する。

 2 弁護人の主張は、別紙意見(一)(二)(三)記載のとおりこれを引用する。

第三 争点についての判断

一 公訴事実についての判断

1 本件公訴事実のうち、被告人株式会社A(以下、被告人会社という。)(平成六年二月一五日から同八年三月八日までの間は代表取締役宮本登、同月九日以降は代表取締役B(以下、被告人会社代表者という。)は、福井県公安委員会から風俗営業の許可を受け、福井市二の宮二丁目三一番三一号においてパチンコ店「パチンキングアミューズメント自遊時館」を経営する風俗営業者であり、被告人Cは、同社の従業員であり同社の課長として右パチンコ店の業務全般を統括するものであるが、被告人Cは、同社の従業員であり右パチンコ店のホール係として稼働していたDと共に、同社の営業に関し、平成八年一月二二日午前八時五〇分ころ、同店において、同店に設置してある回胴式遊技機(通称パチスロ)三二台の主基盤端子に通称「モーニング機」と称する打ち込み機を接続したことは、1被告人会社代表者の公判廷供述、2被告人Cの公判廷供述、3Dの検察官調書及び警察官調書二通(甲一五及び一六)、4武安重則の捜査報告書(甲一)並びに5福井地方法務局登記官渡邊・志の登記簿謄本の各証拠によって認めることができる。

2 本件公訴事実のうち、被告人Cが、同社の従業員であり右パチンコ店のホール係として稼働していたDと共謀の事実、と右打ち込み機を接続したことは、同社が設置する遊技機の変更をしたことになる事実は、この直前の1の証拠の2、3及び4とあとに述べる各認定に照らし、これを認めることができる。

3 被告人会社が、この遊技機の変更についてあらかじめ同公安委員会の承認を受けていないこと及びこれを受けないことの法定の除外事由がないことは、あとに述べる認定に照らし、これを認めることができる。

4 なお、右2に記載した如く、この打ち込み機をこのパチスロ機に接続したことが、遊技機の変更に該当するか否かは、あとで判断する。

二 検察官の本件公訴事実について主張する法律は、法四九条三項一号、二〇条一〇項、九条一項、五〇条、刑法六〇条である。

 そこで、弁護人は、本件公訴事実での検察官が主張する法律(特に、争点記載の各法条)の適用につき、これを争っているので検討する。

1 法四九条三項について

 法四九条三項一号を見ると、三項は「次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役若しくは三〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」とあり、一号は「九条一項(二〇条一〇項において準用する場合を含む。以下この号及び次号において同じ。)の規定に違反して九条一項の承認を受けないで営業所の構造又は設備(四条三項に規定する遊技機を含む。)の変更をした者」とある。

 ここには「九条一項(二〇条一〇項において準用する場合を含む。)」とあるので、二〇条一〇項を見るとここには「九条一項、二項及び三項二号の規定は、一項の風俗営業者が設置する遊技機の増設、交替その他の変更について準用する。

この場合において、同条二項中「四条二項一号の技術上の基準及び」とあるのは「四条三項の基準に該当せず、かつ、」と読み替えるものとする。」とある。

 次に「営業所の構造又は設備(四条三項に規定する遊技機を含む。)の変更をした者」とあるので、四条三項を見るとここには「二条一項七号の営業(ぱちんこ屋その他政令で定めるものに限る。)については、公安委員会は、当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当するものであるときは、当該営業を許可しないことができる。」とある。

 ここでの、二条一項七号の営業とは「まあじゃん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」をいう。

 また「その他政令で定めるもの」とは、政令七条で「法四条三項の政令で定める営業は、回胴式遊技機、アレンジボール遊技機、じゃん球遊技機その他法二三条一項三号に規定する遊技球等の数量又は数字により遊技の結果を表示する遊技機を設置して客に遊技させる営業で、当該遊技の結果に応じ賞品を提供して営むものとする。」とある。

 ここで、九条一項を見るとここには「風俗営業者は、増築、改築その他の行為による営業所の構造又は設備(総理府令で定める軽微な変更を除く。)の変更をしようとするときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならない。」とある。

 ここでの国家公安委員会規則とは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則(以下、施行規則又は規則という。)をいい一七条一項には「法九条一項(法二〇条一〇項において準用する場合を含む。一九条において同じ。)の規定により変更の承認を受けようとする者は、別紙様式八号の変更承認申請書を当該公安委員会に提出しなければならない。」とある。

 ここで、法四九条三項一号を極めて単純化して条文中の括弧書きのないものだけを記載すると、

(1) 風俗営業者が、九条一項の規定に違反していること

(2) 風俗営業者が、九条一項の承認を受けていないこと

(3) 風俗営業者が、営業所の構造又は設備の変更をしていること

ということになり、これがその法律要件である。条文中の括弧書きは、それぞれを修正するだけのことである。

 そこで、本件公訴事実に沿う部分に限って、以上の法律要件を右(1)(2)(3)の順に当てはめてみると、次のとおりとなる。詳細については後で検討する。

(1) 風俗営業者が、九条一項の規定に違反しているとは、二〇条一〇項による「風俗営業者が、営業所に設置する遊技機の変更につき、規則一七条によって、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならなかったのに、その変更承認申請書を当該公安委員会に提出しないで違反していること」となる。

(2) これは「風俗営業者が、右1の承認を受けていないこと」となる。

(3) これは「風俗営業者が、その営業所に設置する遊技機の変更をしていること」となる。

ここで、この法律要件に、具体的に本件公訴事実のうち、第三、一で認定により確定した事実を右(1)(2)(3)の順に当てはめてみると、

(1) 風俗営業者である被告人らが、右一記載の如くその営業所に設置する遊技機の変更(変更に該当するか否かは後に判断する。)につき、規則一七条によって、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならなかったのに、その変更承認申請書を当該公安委員会に提出しないで違反していること」が認められる。

(2) 風俗営業者の被告人会社は、右1の承認を受けていないことが認められる。

(3) 風俗営業者である被告人らが、右一記載の如くその営業所に設置する遊技機の変更(変更に該当するか否かは後に判断する。)をしていることが認められる。

2 法九条について

(一) 法九条一項とその二項、三項及び風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく許可申請書の添付書類等に関する総理府令(以下、総理府令という。)五条にいう「軽微な変更」について

 (1) 法九条一項は、右1のとおり「風俗営業者は、増築、改築その他の行為による営業所の構造又は設備(総理府令で定める軽微な変更を除く。)の変更をしようとするときは、国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならない。」とあるから、風俗営業者は、この変更をしようとするときは、あらかじめ公安委員会の承認を受けなければならないのである。

 (2) 法九条二項には「公安委員会は、前項の承認に係る営業所の構造及び設備が四条二項一号の技術上の基準及び三条二項の規定により公安委員会が付した条件に適合していると認めるときは、前項の承認をしなければならない。」とある。

 法九条三項には「風俗営業者は、次の各号のいずれかに該当するときは、公安委員会に、総理府令で定める事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、総理府令で定める書類を添付しなければならない。」として、その二号には「営業所の構造又は設備につき一項の軽微な変更をしたとき。」とある。

 このように二項では「公安委員会は、一項の承認に係る営業所の構造及び設備が四条二項一号の技術上の基準及び三条二項の規定により公安委員会が付した条件に適合していると認めるときは、これを承認をしなければならない。」となるのである。つまり、この技術上の基準及び公安委員会が付した条件の適合が、この承認の基準となるものである。

 そして、三項では、二号の「営業所の構造又は設備につき一項の軽微な変更をしたとき。」には「風俗営業者は、公安委員会に、総理府令で定める事項を記載した届出書を提出しなければならない。この場合において、当該届出書には、総理府令で定める書類を添付しなければならない。」とある。つまり、三項では、一項の変更承認申請書を当該公安委員会に提出して承認を求めるのとは異なり、単に届出書を提出すれば足りるのである。

 (3) 総理府令五条には「法二〇条一〇項において準用する法九条一項の総理府で定める軽微な変更は、法二三条一項三号に規定する遊技球等の受け皿、遊技機の前面ガラス板その他の遊技機の部品でその変更が遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるもの以外のものの変更とする。」とある。

 そして、法二三条一項三号には「遊技の用に供する玉、メダルその他これらに類する物(遊技球等という。)」とある。

 これは、軽微な変更の基準である。そして、このように、具体的に遊技球等の受け皿、遊技機の前面ガラス板とあって「その他の遊技機の部品で」とあるのだから、上記二つに類するところの遊技機の部品と解される。また「その変更が遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるもの以外のものの変更とする。」とあるのだから、その変更が遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるものは、これに含まれないことが明確となっているのである。

(二) 法九条一項と法二〇条一〇項の関係についての検討

このことについては、右1で条文を見たが、以下、読み替え等詳細に検討する。二〇条一〇項は「九条一項、二項及び三項二号の規定は、一項の風俗営業者が設置する遊技機の増設、交替その他の変更について準用する。」とあるから「これらの規定は、一項の風俗営業者が設置する遊技機の増設、交替その他の変更について」と修正される。つまり、これらの客体がこのように修正される。

 この場合において、同条二項中「四条二項一号の技術上の基準及び」とあるのは「四条三項の基準に該当せず、かつ、」と読み替えるものとする。」とある。つまり、修正前の九条二項では、この2・2のとおりの、技術上の基準及び公安委員会が付した条件の適合が、この承認の基準となるものであったが、修正後の九条二項では「四条三項の基準に該当せず、かつ、」と読み替えるものとする。」とあるのだから「四条三項の基準に該当しないこと」と「かつ以降は、同じである。」とがこの承認の基準となるものである。

 そこで「四条三項の基準に該当しないこと」とは、四条三項は「営業については、公安委員会は、当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当するものであるときは、当該営業を許可しないことができる。」とある。そして、これを受けて規則は、その七条で「法四条三項の国家公安委員会規則で定める基準は、次の表の上欄に掲げる遊技機の種類の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定めるとおりとする。」とあり「表の上欄には、遊技機の種類とあり、そこには回胴式遊技機もある。表の下欄には、著しく客の射幸心をそそるおそれがある遊技機の基準とあり、回胴式遊技機欄には、一号から七号まで規定がある。」となっている。したがって、この基準に該当しないことである。

 修正後の九条二項での承認基準は、これを要約すると、法四条三項を受けての規則七条で定める基準及び公安委員会が付した条件の適合が、この承認の基準となるものである。したがって、風俗営業者がその営業所に設置する遊技機の変更につき、規則一七条によって、あらかじめ公安委員会の承認を受けるために、その変更承認申請書を当該公安委員会に提出すれば、この基準によることとなる。

(三) 法三条一項と法四条の関係についての検討

 三条一項は「風俗営業を営もうとする者は、風俗営業の種別(前条一項各号に規定する風俗営業の種別をいう。以下同じ。)に応じて、営業所ごとに当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)の許可を受けなければならない。」とある。

 四条一項は「公安委員会は、前条一項の許可を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当するときは、許可をしてはならない。」とあり、各号として「一号から九号までその対象」が書かれている。

 四条二項には「公安委員会は、前条一項の許可申請に係る営業所につき次の各号のいずれかに該当する事由があるときは、許可をしてはならない。」とあり、次の各号として「一号から三号までその事由」が書かれていて、その一号には「営業所の構造又は設備(次項に規定する遊技機を除く。九条、一二条及び三九条二項六号において同じ。)が風俗営業の種別に応じて国家公安委員会規則で定める技術上の基準に適合しないとき。」とある。つまり、この二項の一号の、営業所の構造又は設備についての法三条一項の許可は、規則六条で「法四条二項一号の国家公安委員会規則で定める技術上の基準は、次の表の上欄に掲げる風俗営業(法二条一項に規定する風俗営業をいう。以下同じ。)の種別の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定めるとおりとする。」とあり「表の上欄には、風俗営業の種別があり、表の下欄には、構造又は設備の技術上の基準がある。」となっている。したがって、四条二項の営業所の構造又は設備についての許可はこの技術上の基準によることになる。しかしながら(次項に規定する遊技機を除く。)ことにより、この営業所に設置される遊技機についての許可は、この規則六条ではなく、規則七条の「著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準」によることとなるのである。

3 以上のとおりであるから、遊技機の変更の承認基準は、前記二2(3)記載のとおりである。なお、次の4で検討する如く、法二〇条一一項に「・・・・の承認に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。」とあり、この規則とは、遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則(以下、検定等規則という。)をいうのであるが、この遊技機の変更の承認に関し必要な事項は、検定等規則で定めるとある。しかしながら、遊技機の変更の承認基準は、前記二2(3)記載のとおりで何ら変わることはない。その理由の詳細は、次の4で検討する。

4 法二〇条一項ないし五項及び一一項について検討する。

 二〇条一項は「四条三項に規定する営業を営む風俗営業者は、その営業所に、著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして同項の国家公安委員会規則で定める基準に該当する遊技機を設置してその営業を営んではならない。」とある。

すなわち、四条三項に規定する営業を営む風俗営業者は、その営業所に、著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして同項の国家公安委員会規則で定める基準=規則七条の著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準=に該当する遊技機を設置してその営業を営んではならない、と定めるものである。

 なお、この禁止条項には罰則規定はない。

 二〇条二項は「前項の風俗営業者は、国家公安委員会規則で定めるところにより当該営業所における遊技機につき同項に規定する基準に該当しない旨の公安委員会の認定を受けることができる。」とある。

 ここでの国家公安委員会規則とは、検定等規則をいう。

 この検定等規則の冒頭に「法二〇条二項、三項、五項及び一一項の規定に基づき、遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則を次のように定める。」とある。

 つまり、この法二〇条二項、三項、五項及び一一項の規定に基づいたものについての、遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則を定めているのである。

 したがって、これらの項の規定以外の項の規定に基づいたものについての、遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則とはならないものである。

 そこで、二〇条二項については、右に見たとおり「認定」についてであり、これを受けて、検定等規則では、この「認定」について第一章で一条から五条まで詳細に規定している。

 次に、二〇条三項には「国家公安委員会は、政令で定める種類の遊技機の型式に関し、国家公安委員会規則で、前項の公安委員会の認定につき必要な技術上の規格を定めることができる。」とある。

 ここでは「前項の公安委員会の認定について」の「必要な技術上の規格を定めることができる。」とあり、この型式についての技術上の規格を定めることができるとされているのである。

 そして、ここでの国家公安委員会規則とは、検定等規則をいうのであるが、この検定等規則の六条で遊技機の型式に関する技術上の規格として次のように規定されている。

 『「法二〇条三項の遊技機の型式に関する技術上の規格(以下「技術上の規格」という。)は、次の各号に掲げる遊技機の区分に応じ、それぞれ当該各号に掲げる表に定めるとおりとする。」とあり、その二号に「回胴式遊技機 別表五」とある。そして、別表五には「回胴式遊技機に係る技術上の規格」として「(1) 性能に関する規格 (2) 構造に関する規格 (3) 材質に関する規格 備考」とある。 更に、例えば「(1)性能に関する規格」について見れば、イからヘまであり、更に、イのなかでいくつかに細分された具体的な記載がなされている。』

 このように規定されることとなった経緯は、各都道府県公安委員会が、それぞれ行う認定にばらつきがないように、国家公安委員会に統一的な「技術上の規格」を定める権限を付与するとともに、あらかじめ「技術上の規格」を定めることによって、遊技機の製造業者らの便宜を図る趣旨のもとに設けられたものである。

 したがって、本項において、国家公安委員会が、これを定める権限を付与されている「技術上の規格」は、二項の「公安委員会の認定につき必要な」技術上の規格に限定されているのである。

 一項の公安委員会の認定は、法四条三項に規定する基準=規則七条の著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機に該当するか否かに関する認定なのである。

 今一度言えば、この基準は、当該遊技機が著しく射幸心をそそるおそれがあるかどうかの点からのみ定められているのである。

 更に、ここでの政令とは「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令」(以下、政令という。)をいう。

 そして、政令で定める種類の遊技機については、政令の一〇条には「法一〇条三項の政令で定める遊技機の種類は、次のとおりとする。」とあり、その二号に「回胴式遊技機」とある。

 本項において、国家公安委員会が、これを定める権限を付与されている「技術上の規格」は、二項の「公安委員会の認定につき必要な」技術上の規格に限定されているのである。

 次に、二〇条四項には「前項の規格が定められた場合においては、遊技機の製造業者(外国において本邦に輸出する遊技機を製造するものを含む。)又は輸入業者は、その製造し、又は輸入する遊技機の型式が同項の規定による技術上の規格に適合しているか否かについて公安委員会の検定を受けることができる。」とある。すなわち、遊技機の製造業者や輸入業者は、遊技機の型式が同項の規定による技術上の規格に適合しているか否かについて公安委員会の検定を受けることができるのであり、検定等規則では、この「型式の検定」について第二章で六条から一一条の二まで詳細に規定している。すなわち、検定等規則六条で「遊技機の型式に関する技術上の規格」を定めていることは、右に見たとおりである。

 次に、二〇条五項には「公安委員会は、国家公安委員会規則で定めるところにより、二項の認定又は前項の検定に必要な試験の実施に関する事務(以下「試験事務」という。)の全部又は一部を、民法(明治二九年法律八号)三四条の規定により設立された法人であって、当該事務を適正かつ確実に実施することができると認められるものとして国家公安委員会があらかじめ指定するもの(以下「指定試験機関」という。)に行わせることができる。」とある。ここでの国家公安委員会規則とは、検定等規則をいうのである。この指定試験機関に、財団法人保安電子通信技術協会(以下、「保通協」という。)を指定し、同協会に、五項の試験事務で四項の検定に係るものの全部を行わせているものである。

 次に、二〇条一一項には「二項の型式の検定、五項の指定試験機関その他二項の規定による認定及び前項において準用する九条一項の承認に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。」とある。

 ここでの国家公安委員会規則とは、検定等規則をいうのである。そして、この「前項において準用する九条一項」とは、前項=一〇項で、準用する九条一項のことである。また、「準用する九条一項の承認に関し必要な事項は、国家公安委員会規則で定める。」とあるのは、前項において修正された九条一項の承認に関し「必要な事項は、」これは「国家公安委員会規則で定める。」すなわち「検定等規則で定める。」ということである。ただし、この場合において、所謂、総理府令で定める軽微な変更を除く、ことになる。

 以上によれば、遊技機の変更の承認の基準となるものは、「技術上の規格」ではなく、法四条三項の基準を受けての、規則七条の著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機に該当するかどうかであって、これがこの基準となるものである。

三 本件公訴事実のうちの「同店において、同店に設置してある回胴式遊技機(通称パチスロ)三二台の主基盤端子に通称「モーニング機」と称する打ち込み機を接続したこと」が、法律要件の「遊技機の変更」に該当するか否かを検討する。

1 事実関係について

(一) 回胴式遊技機の遊技方法及び性能について

 (1) 今回打ち込み機が接続された回胴式遊技機(以下、パチスロ機という。)は、「ニューパルサー」と「セブンリーグ」であるが、これらの機械の遊技方法や性能はほぼ共通であるので、概要をまとめて以下に述べる。

(2) まず、これらパチスロ機の遊技方法は、以下のとおりである(甲五、七、九、  一一、弁一)。すなわち、遊技者は、メダル投入口に一ないし三枚のメダルを投入し、スタートレバーを押して三個の回胴を正面から見て上から下に回転させる。その後、遊技者が、停止ボタンを押して三個の回胴を止め、停止した回胴の図柄が投入したメダル枚数に対応して定められたライン上の入賞図柄かどうかで入賞の判定が行われる。入賞図柄がそろった場合は、それぞれの入賞図柄ごとにあらかじめ定められている枚数(二枚から一五枚の範囲)のメダルが払い出されるが、このうち一定の図柄の場合は、その遊技で投入したメダルの枚数が自動的に投入された状態となり、次の遊技はメダルを投入することなく行えるし(再遊技)、一定の図柄の場合は、メダルが払い出された後、役物連続作動増加装置(ビッグボーナス。以下「BB」という。)や役物連続作動装置(レギュラーボーナス。以下「RB」という。)が作動する。そして、これらBBやRBの作動中は、遊技を行えば毎回必ず回胴の図柄がそろい、二ないし一〇枚のメダルを連続して出すことができる。入賞図柄がそろわなかった場合、BBやRBの作動が終了したなどの場合は、初めの遊技開始時の状態に戻る。

(3) 次に、パチスロ機の性能は、以下のとおりである(甲五、七、九、一一)。 パチスロ機の主基板には、CPU(プログラムに従って作動する装置)とロム(プログラムを記憶している読み出し専用のメモリー)が装着されている。そして、回胴が停止するときの図柄をどれにするかは、一定の抽選確率によりプログラムで制御されており、その抽選に当たったときに入賞図柄がそろうようになっている。

 この抽選は、一回の遊技ごとに行われ、抽選で当たった入賞図柄がその回の遊技でそろわなかった場合は、その入賞図柄の当たりがキャンセルされ、次の遊技で改めて入賞図柄の抽選が行われる。

 しかし、入賞図柄の抽選でBB又はRBが作動することになる図柄の組合せが当たった場合は、その回の遊技でそろわなくても、当たりがキャンセルされず、その入賞図柄がそろうまで当たりが継続される(このような当たりを、以下「内部当たり」という。)。そして、この抽選確率は、パチスロ機内部において、1から6までの六段階に分けてセットすることができるようになっており、1のときは最も抽選確率が低く、6に近づくごとに抽選確率を順次高くすることができる(第三回公判における早乙女昌幸の供述一六丁表)。

(二) 打ち込み機の使用方法及び性能について

(1) 今回使用された打ち込み機は、四種類あり、うち三種類(甲二八、三〇、三一)が「ニューパルサー」に接続されたもの、残り一種類(甲二九)が「セブンリーグ」に接続されたものであるが、これらの使用方法や性能はおおむね共通なので、概要をまとめて以下に述べる。

(2) これら打ち込み機の使用方法は、以下のとおりである(甲五、七、九、一一、弁一)。

   まず、パチスロ機の抽選確率を設定した後、パチスロ機の電源を切り、打ち込み機のコネクタをパチスロ機内部のコネクタと接続してからパチスロ機の電源を入れる。すると、それと同時に打ち込み機にも電源が入り、打ち込み機からパチスロ機に対して、メダルを三枚入れ、スタートレバーを押し、停止ボタンを左中右の順に一定のタイミングで押すという信号が繰り返し出される(以下、こうした信号の出力を「打ち込み」という。)。もちろん、この間回胴は回転せず、メダルの払い出しも行われない。

そして、打ち込み機は、パチスロ機がBB又はRBの内部当たりになったところでそれを判定し、自動的に打ち込みを終了する。

 なお、これら打ち込み機には、どのような打ち込みを行うかを選択するスイッチがあるが、これら四種類の打ち込み機は、いずれも、BBの内部当たりを発生させると打ち込みを終了するという設定になっていた(甲二八ないし三一)。

(3) これら打ち込み機は、以下のとおり、BB又はRBの内部当たりを判定する(甲五、七、九、一一)。

  そもそもパチスロ機には、内部当たりとなった場合にだけ停止する図柄の組合せ(以下「リーチ目」という。)があり、打ち込みを行っているとき回胴は回転していないものの、回胴の位置の基準となる信号から回胴を回転させるための信号が何秒間出力されていたかを計測することにより、回胴が停止したときの図柄が判断できるため、打ち込み機はこの信号から回胴が停止したときの図柄を判断し、リーチ目であるかどうかを見分けて、内部当たりになっているか否かを判定する。

(三) 打ち込み機をパチスロ機に接続することにより生ずる影響について

 (1)  まず、打ち込み機は、パチスロ機に対して打ち込みを行う機能を有するものであり、プログラムの書き込みを行う機能まで有するものではない。

すなわち、打ち込みとは、人が実際にパチスロ機で遊技するのと同じことを電気信号によって行うことである。そして、打ち込み機が行うのはそれだけで、パチスロ機の基板に対してプログラムの変更や改変を行うこと、すなわち書き込みを行うことはできない(甲五、七、九、一一、第三回公判における早乙女昌幸の供述一〇丁裏、一一丁表)。

 (2) そして、打ち込み機をパチスロ機に接続して打ち込みをすると、BB又はRBの内部当たりを発生させることができ、その状態のパチスロ機で電源を入れてから最初に遊技を行った者は、数回の遊技を行うとBB又はRBが入賞する。 この内部当たりは、右に述べたとおり、入賞図柄がそろうまでキャンセルされることなく継続するのであり、内部当たりの状態が自然消滅することはない(右早乙女供述一三丁表裏)。しかも、内部当たりが生じていれば、BB又はRBを入賞させるために、遊技者の技術によって時間の長短という違いが若干出るものの、必ずBB又はRBを入賞させることができる(右早乙女供述一二丁裏、一三丁表)。このことは、第二回公判において行った検証の結果、パチスロ機の操作に必ずしも習熟していない主任弁護人による操作によっても、七回目の遊技でBBが入賞していることから明らかである(弁一)。

(四) 打ち込み機をパチスロ機に接続することが、風適法に違反することについて

このように、打ち込み機をパチスロ機に接続すると、パチスロ機に生ずる影響ないし効果がある。つまり、BB又はRBの内部当たりの状態を発生させることとなる。そこで、これが法四九条三項一号「九条一項、二〇条一〇項(四条三項)」に規定する遊技機の変更にあたるか否かである。

 (1) 打ち込み機が、施行規則にいう「遊技の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」とするための機能を有するか否かについて

打ち込み機をパチスロ機に接続して打ち込みを行うことにより、右のとおりパチスロ機に内部当たりを発生させることができる。そして、本件において、打ち込み機をパチスロ機に接続したのは、パチンコ店営業者の営業政策的な判断によって、例えば、被告人Cが供述するとおり「業界で確率切り換スイッチを変えた台は大当りの立ちあがりが悪いと言われているので、大当り確率切り換スイッチを変えた台を中心にモーニング打ち込みを行ってい」(乙三)たのであるから、これが接続をした行為は、客に一時的にせよ、大当たりを出させようとするために行ったものである。そうするとこれは、客以外の者(ここでは、被告人Cらの行為による被告人会社)の意図により、遊技の結果を決定していたことにあたる行為といえる。

 この点証人早乙女昌幸も「打ち込み機をつなぐ場合に、回胴式遊技機のふたを開けて、それで、コネクターをつないで、接続して、打ち込みをしなければいけませんので、お客さんは当然ふたを開けたりということはできませんので、客以外の者の意図によるということになると思います」(第三回公判における同人の供述一七丁裏)と供述し、打ち込み機の接続が客以外の者の意図により行われることになると述べている。

 そして、営業者は、打ち込み機の接続によって機械的にかつ確実に内部当たりの状態になるまで打ち込みを行い、しかも大当たりを発生させる前の状態である内部当たりの状態で打ち込みをやめるのであるから、それは正に通常の遊技によらないで、しかも客以外の営業者の自由な判断で、客に容易に大当たりをさせることになって、客の遊技の結果を左右するものであり、これは正に「遊技の結果が客以外の者の意図により決定」されていることになる。

 またこうして、打ち込み機を接続することは、打ち込みを自由に行いうる状態にしていることに他ならないから、打ち込み機を接続した遊技機は、遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機となると、判断できることになる。

 (2) 打ち込み機の接続によって、パチスロ機が著しく客の射幸心をそそるおそれのあるものとなるか否かについて

遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機は、規則第七条において、パチスロ機を著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機と認めるための基準と定めており、また、第三回公判における早乙女昌幸の供述(一七丁表)でもそのとおり基準であるとしている。

 すなわち、施行規則は『法四条三項が「遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるもの」として、ここに規定している』文言を受け、その内容を具体化し、これによってその判断を公正かつ客観的に行うために定めたものであるから、具体的にどのような場合に著しく客の射幸心をそそるおそれがあるのかは、常に施行規則に照らして判断されるべきものである。

そして、このような施行規則の基準は、客観的に見てもその妥当性が明らかである。

すなわち、パチスロ機は、打ち込み機を接続すればいつでも打ち込みが可能な状態となり、実際上も打ち込みを行うことで大当たりが早く出るようになる。

 これは、本来のパチスロ機の機能を利用して、通常に遊技することを予定した以外の打ち込み機を接続し、もってこれを使用して、打ち込みを自由に行いうる状態にすることであるから、遊技機が本来予定の客による手動での遊技によるものよりは、早く大当たりが出るものである。したがって、打ち込み機を接続した遊技機が、遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい状態になるのであれば、それは、施行規則に照らして、パチスロ機が著しく客の射幸心をそそるおそれのあるものになったと言うに十分である。

  このことは、パチスロ機が著しく客の射幸心をそそるおそれのあるものになったということである。

 (3) パチスロ機が著しく客の射幸心をそそるおそれのあるものとなったときは、その性能に影響を及ぼすといえるのかどうかについて

 前(2)のとおり、右接続前のパチスロ機が、右接続によって、著しく客の射幸心をそそるおそれのあるものになったということであるから、これは、著しく客の射幸心をそそるおそれのなかったものから変化があったということである。

 このパチスロ機の変化は、法四条三項に規定するところの基準に該当する問題である。したがって、許可、不許可に係る基準の変化である。これは、もはやその性能に影響を及ぼすものと言わざるを得ない。

 このパチスロ機の性能に影響を及ぼしたということを、具象的に言うとそれはこの打ち込み機の接続によって、パチスロ機は、そのスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行うことができるパチスロ機に変化したということである。そしてそれは、取りも直さず、遊技の結果に、打ち込み機の機能によって、打ち込みをすることで、打ち込み機接続以前のパチスロ機とは明らかに異なる状態のパチスロ機が出現したと言えるのである。このように、打ち込み機の接続によって、パチスロ機の性能に影響が及んだと言えることに なるのである。

 また、これは取りも直さず、遊技機の変更があったということである。

 なお、変更の意義は、あとで更に述べる。

 (4) 軽微な変更について(遊技機の変更との関係で)

この公安委員会の承認が不要な軽微な変更については、前記二2(一)(3)で述べたとおりで明確な基準が示されているところである。この基準は、遊技機の変更に該当するか否かを定める基準ともなる。すなわち、本件に沿って言えば、遊技機の変更のうちの軽微な変更という関係にあるからである。遊技機の変更とは、この軽微な変更を除く、軽微でない変更と言える。軽微な変更とは「その変更が遊技機の性能に影響を及ぼすおそれのあるもの以外のものの変更」である。そして、打ち込み機を接続したパチスロ機が著しく客の射幸心をそそるおそれのあるものとなってその性能に影響を及ぼすものと認められる以上、こ れは、もはやこの総理府令五条の軽微な変更とは言えないし、前(3)のとおりなので、遊技機の変更となる。

 (5) 遊技機の変更について

 以上のとおり、打ち込み機の接続によって、パチスロ機の性能に影響が及んだので、すなわちここでは、パチスロ機が、そのスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行うことができるパチスロ機に変化したということである。これが遊技機の変更になったということである。このことは、以下のところでも触れることとする。

 なお、風適法が無承認変更を処罰する趣旨は、いかなる変更であれパチスロ機の性能に影響を及ぼすことを禁止することによって、著しく射幸心をそそるおそれのある機械が設置されることを防止して健全な社会風俗を維持しようとするところにあるから、変更の態様としては、パチスロ機本来の部品を付け替えることはもちろん、パチスロ機本来の部品を付け替えることのないものであっても、それがパチスロ機の性能に影響を及ぼすおそれがある以上、それが変更になるのであって、部品を付け替えることがないことをもって、変更の要件を満たさないとは言えない。

 (6) そして、打ち込み機をパチスロ機に接続することは、それ自体がパチスロ機の性能に影響を及ぼすことになり、接続した時点で遊技機の無承認変更が行われたと言えるから、犯行は、直ちに既遂に達する。

(五)被告人らの本件犯行の違法性認識等について

 (1) 被告人Cの違法性の認識について

 被告人Cは、本件犯行を行った平成八年一月二二日当時、モーニングをセットすると、すなわち、打ち込み機をパチスロ機に接続すると警察に捕まるということを認識しており、「やばい」ことをしているということを分かっていた(第一一回公判における被告人Cの供述六〇頁ないし六四頁)。

 それは、被告人Cが、打ち込み機を接続して打ち込みを行うのは、店舗の営業が終わった一月二二日午前零時ころという深夜であったこと、打ち込みに従事していたのは、福井県出身者ではない二人の店員のみであったこと、打ち込みの際機械が発する音を消していたこと、店舗内部の様子を見えないようにブラインドを降ろしていたことなど打ち込み機の接続とそれによる打ち込みの実施を外部に分からないようにしていたことでも分かるところである。

 これは取りも直さず、被告人Cがパチスロ機に打ち込み機を接続することは法律に違反する悪いことであるという認識を有していたことに他ならない。

 (2) 被告人会社の責任についてさらに、パチスロ機への打ち込み機の接続と打ち込みは、店舗の集客のために行ったものであり、被告人会社の営業のために行ったことが明らかである。そして、被告人会社は、被告人Cが、そのような違法行為を行わないよう特段の監督を行っていなかった(甲二三)のであるから、被告人会社は責任を免れない。

(六)被告人Cは、本件遊技機の変更の法律要件事実についての故意があったことは、各認定・認定事実に照らし、これを認めることができる。

(七)弁護人らの主張に対する判断

 (1)  弁護人主張に対する判断

@ 別紙弁護人意見書・(以下、弁護人意見書・の如くいう。)第一について

ア 弁護人主張の要旨

 本件遊技機の変更は、この基準として、検定等規則六条別表五で定める技術上の規格に適合しているかどうか、つまり「性能に関する規格」によるべきだという。

イ アについての判断

 この点については、既にみたとおりで、その判断(遊技機の基準)と異なるので、この判断に反する主張は採用することができない。 なお、弁護人意見書・に述べる参考文献=警察学論集三八巻六号一三一頁=により、遊技機の基準は、具体的には技術上の規格で明らかにされることになっていると引用している。 ここで引用すると「遊技機の認定及び型式の検定」においては、遊技機が「著しく射幸心をそそるおそれがある」ことについての基準について、一般的には施行規則七条の「遊技機の基準」で、具体的には検定等規則六条の「技術上の規格」で明らかにすることとしたので、遊技機の製造業者や輸入業者としては、この「遊技機の基準」や「技術上の規格」に照らして「著しく射幸心をそそるおそれのない」遊技機を製造し、又は輸入すれば良いこととなったため、遊技機の製造業者や輸入業者の不便が解消されることとなった、とある。ここにあるとおり、これは「遊技機の認定及び型式の検定」についての記述である。そして、この文章の表題も「遊技機の認定及び型式の検定」の制度の特徴、とあるのである。したがって、この文献の記述は、遊技機の検定に関して述べるものであり、前記二4で記したとおり遊技機の検定と遊技機の変更とでは異なるのである。

 しかしながら、次のことを留意すべきである。

 それは、変更との概念を考えるについては、元来、或るものが、何らかの変化をすることなのであるから、或るものが、まず特定されなければならない。

 その意味合いにおいて、特定の基準として、本件遊技機においては、例えば法二〇条四項での同三項を受けての検定等規則による技術上の規格を経て公安委員会の検定を受けた遊技機は、その「技術上の規格」の「(1)性能に関する規格 (2) 構造に関する規格 (3)材質に関する規格」の審査を通過した遊技機だったのである。したがって、その限りでの右遊技機の特定の基準ではある。そこで本件鑑定に当たっても、それぞれのパチスロ機の検定時のものと打ち込み後のものとの比較をしているのである。このように、変更となるかどうかはこの「技術上の規格」を通過した遊技機が、その変更の概念に当てはまる変化があったか否かが検討されなければならない。

 この意味合いにおいて、遊技機は、検定を経ているのであるから検定等規則の六条の「技術上の規格」の審査を受けているのである。つまり、遊技機の変更を考える際には、打ち込み前の遊技機を特定することの限度において、この「技術上の規格」の関わりがあるに過ぎないのである。

 したがって、弁護人主張の規則六条の「技術上の規格」が、遊技機の変更を考える際の基準ないしは根拠となるべきだ、とするものは、右判断に触れるので、すべてこれは、採用することができない。

ウ 弁護人主張の要旨

 遊技機の変更は、承認を要する変更と届出を要する変更(軽微な変更)があるが、承認を要する変更には、遊技機の部品の変更と遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるものへの変更の二要件を必要とする。

エ ウについての判断

 軽微な変更については、既にみたとおりであるが、これにつき部品の変更があり、遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるもの以外のものの変更が要件となっているのである。そこで、この遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるか否かの基準は、既にみたとおりで、この基準は、重要な事柄なので、この要件を満たせば遊技機の変更になると解すべきで、部品の変更はなくても良い。この判断に反する主張は採用することができない。

オ 弁護人主張の要旨

 遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがある変更とは、検定等規則六条別表五で定める技術上の規格に適合しているかどうか、つまり「性能に関する規格」に影響を及ぼすものであるかどうかによって判断されるべきだという。

カ オについての判断

 イで述べたとおりである。

A 別紙弁護人意見書(三)第三について

 弁護人主張の要旨

 検察官は、打ち込み機を使用すると、確実に内部当たりの状態で止めることができること、そして客以外の者が打ち込み機を接続して内部当たりの状態を作っていることから「遊技機の基準」でいう「遊技機の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」となる、と主張するが、これは、間違っているという。そして、一、二12345と、主張している。

ア 弁護人主張一の要旨

 前提事実を述べ、結局、遊技機の変更の基準には、遊技機の基準ではなく、技術上の規格により判断すべきだという。

イ アについての判断

 @イで述べたとおりである。

ウ 弁護人主張二1の要旨

 検察官は、遊技機の基準の解釈を誤っている。規則七条の回胴式遊技機の七号以外の各号は、短時間で著しく多くの遊技メダルを獲得できるか(二ないし六号)、逆に、短時間で著しく多くの遊技のメダルを使用するか(一と六号)の基準となっている。それとの比較で七号をみるならば、それは遊技の結果が偶然の輸贏に支配されるか、不公正な結果となるものか(七号)を「著しく客の射幸心をそそるおそれがある」と定めていることが明らかである。ところが、打ち込み機の接続は本件回胴式遊技機の打ち込みを行うに過ぎず、しかも客の遊技中は取り外されているのであるから、客の遊技には何らの影響も及ぼさず、不公正な結果を招来させるものでもない。それはあたかも、当該遊技者の前の客が内部当たりを出しながら、気づかずに帰ったあとと同じだからである。

エ ウについての判断

 ここでは、結論部分の「客の遊技には何らの影響も及ぼさず、不公正な結果を招来させるものでもない。それはあたかも、当該遊技者の前の客が内部当たりを出しながら、気づかずに帰ったあとと同じだからである。」ところが、問題である。そして、「規則七条の回胴式遊技機・・・・「著しく客の射幸心をそそるおそれがある」と定めている」まではそのとおりである。結局、弁護人の主張の一は、遊技機の性能は、この接続によっては、性能に影響を及ぼすことがないというものである。この点についての判断は既に述べたとおりである。

 弁護人の主張の二は、不公正な結果を招来しないというものである。

 しかし、この点についても前述したが、敷衍すると、打ち込み機を接続して行う打ち込みは、客の遊技に不公正な結果をもたらすものである。

 すなわち、「遊技機の基準」のうちパチスロ機についての基準七号にいう「遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい」という基準は、遊技の結果に客以外の者の意図が加わることによって客の射幸心をあおることがないよう、客以外の者の意図を排除して遊技の結果の公正を担保することを目的としているものである。そして、いくら客の遊技中は打ち込み機を取り外すとはいえ、打ち込みによって内部当たりの状態が作出されている以上、実際に、客は数回の遊技により大当たりを出すことができるのであり、本来であれば、全くの抽選と客の技量により作り出す大当たりの状態を、営業者の意図に基づく打ち込みをもとにして作り出すのであるから、打ち込みが客の遊技の結果に影響していることは明らかである。

このような状態は、取りも直さず、遊技の結果に対し、客以外の者の意図が侵入している状態であって、それ自体遊技の結果の公正を害するものである。

オ 弁護人主張二2の要旨

 弁護人は、打ち込み機が、恒常的に遊技機に接続されていないから、遊技機の性能を「一般的定性的に」変更するものではありえないとする。

 すなわち、パチスロ機についての基準一号ないし七号は、いずれもこれらの各要素が「一般的定性的に」現出するという意味を含んでおり、一回的な遊技ないし作動において基準の各要素が現出するかどうかを問題にしていないから、一回的な遊技ないし作動が問題となる打ち込みは、遊技機の変更と言えないとするのである。

カ オについての判断

 遊技機を「一般的定性的に」変更することだけが、遊技機の変更となるのではない。

 すなわち、著しく射幸心をそそる手段は、必ずしも、遊技機を「一般的定性的に」変更することによって行うものに限られない。

というのも、パチスロ機についての基準一号ないし七号は、パチスロ機を、著しく射幸心をそそるおそれがないようにすることを目的として規定されたものである。よって、そこでの主眼は、著しく射幸心をそそるおそれがあるか否かの判断にあり、「一般的定性的」かそうでないかは主眼たりえない。

 また、打ち込み機の取り外しが容易であることが、必ずしも遊技機の変更を不成立とするものではない。

 つまり、打ち込み機を接続することが、パチスロ機を著しく射幸心をそそるおそれのあるものにすることであるから、打ち込み機の取り外しが容易であることは、何ら、この変更に当たらないということにはならない。

キ 弁護人主張の二3の要旨

 「遊技機の基準」七号の「遊技機の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」の基準には、@遊技機の結果が偶然により決定されるおそれが著しい遊技機と、A遊技機の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機の二つの基準がある。

 この何れにも該当しないものである。

ク キについての判断

 弁護人は、本件接続行為が、右@の基準については、何ら該当していないという。ただし、ここでは、この@の基準については、何ら問題としていない。Aの基準について問題としているのである。そこで、本件回胴式遊技機は「入賞図柄の抽選確率を六段階のいずれかに設定できる機能を有しており(甲五の八頁)「客以外の者である風俗営業者の意図によって内部当たりの抽選確率が変動されるにもかかわらず」なお、本件接続行為が、問題である、というのはおかしいという。しかし、これは、本件接続行為以前のパチスロ機は、すなわち、この抽選確率が変動されること自体は、検定等規則によって許容されたものである。したがって、前述の如く遊技機の変更との関係で問題とすべき論点とはならない。

 なお、弁護人は、打ち込み機は、恒常的に接続されているものではないから、その接続はAの要素を「著しく」させないという。この点についての判断は前述のとおりである。

ケ 弁護人主張の二4の要旨

 打ち込み機は、遊技者が行うのと同様の打ち込みを機械的に行うに過ぎないという。

コ ケについての判断

 弁護人は、打ち込みによって、回胴式遊技機は本来の機能である確率による抽選を行っているに過ぎないのであるから「客以外の者の意図により決定される」というのは、正確でない。打ち込み機を接続するのは「客以外の者」であっても、遊技の結果を決定しているのは「客以外の者の意図」ではなく、本件回胴式遊技機のプログラムないしは「偶然」に過ぎない、という。

 そこで、検察官は、次の如く述べる。

 「しかし、打ち込み機を使用して打ち込みを行うことと、遊技者が遊技を行うこととは明らかに異なる。

 そもそも、パチスロ機のリーチ目を判断して内部当たりの状態で打ち込みを終了することは、打ち込み機にして初めてよくなしうるところである。

 すなわち、人が打ち込みを行おうとしても、狙った図柄でストップボタンを押せるかどうかということや、その図柄がリーチ目であることを判断できるかどうかということにおいて、その技量の差が激しく、なかなか内部当たりを出せなかったり、内部当たりの状態で止められないで、実際に当たりを発生させてしまうこともある。ところが、打ち込み機は、内部当たりかどうかを的確に判断する上、内部当たりの状態で確実に打ち込みを止める(第三回公判における早乙女昌幸の供述一四丁、一五丁)。

 また、本件において行われたように、一晩のうちに三二台のパチスロ機に打ち込みをして、全台を確実に内部当たりの状態にしようとしても、それを人の手によって行うことはまず不可能であるし、何より当時の店にそれを行うだけの人手はなかった(第一一回公判における被告人Cの供述四六頁ないし四八頁)。

 このように、打ち込み機による打ち込みは、一見、人による打ち込みを機械で行うだけに見えて、実は、その確実性、迅速性、そして大量性等の点において、およそ人のなしえない効果を生じさせるものなのである。弁護人は、打ち込みという作業だけを切り離して、それが人の行うものと差がないことを過度に強調するが、打ち込みがパチンコ店の営業政策として行われている以上、右に述べたような打ち込み機でなくては生じさせることができない効果にも十分注目しなければならない。」。

 これは、相当と認められる。したがって、弁護人の主張は理由がない。

サ 弁護人主張の二5の要旨

 まとめとして、本件接続行為は、遊技の結果を「不公正に」「一般的定性的に」客以外の者の「意図により」決定されるおそれが「著しい」遊技機とするものでないことは明らかである、という。

シ サについての判断

 これらの点については、この二で述べたとおりである。

B 別紙弁護人意見書(一)について

 弁護人は、同書記載のとおり主張するが、その第一及び第三については、既に判断したところである。第二については、あとで述べる。第四については、打ち込み機をパチスロ機に接続することが、遊技機の変更に当たり、冒頭の検察官主張の各罰条(法五〇条と刑法六〇条は、さておく)の構成要件に該当し、違法、有責であるのであれば、弁護人主張の理由によって、被告人らに対してのみ処罰するのは、平等原則に違反する不平等起訴・処罰であって、違憲無効であるというが、これは不相当で理由のない主張である。

 それは、どの店も行っていること、公安委員会がこれを容認ないし黙認してきたことは、決して明らかでないからである。

C 別紙弁護人意見書(二)について

 弁護人は、打ち込み機についての検証結果を基にして、一では、第一から第四まで、同書記載のとおり主張する。これらの機能については、概ねそのとおりである。そして、弁護人のこの意見によっては、これまでの認定、判断に特段の支障を及ぼさない。二では、打ち込み機を接続することによってパチスロ機本体の性能を何ら変更していないという。本来打ち込んだだけではパチスロ機の性能はそのままだという。この点については、既に判断済みのところである。

(2) 弁護人の主張は、証人乾(中山)研一(以下「証人」という。)の意見書の主張によるところが多いので、併せてその主張の要点について検討する。

 @ 第一点

 証人は、規則七条にいう「遊技機の基準」は、検定等規則の「技術上の規格」に具体化されており、「遊技機の基準」を持ち出すことは法が予定していないのであるから、遊技機の無承認変更があったか否かは、「遊技機の基準」ではなく「技術上の規格」によって判断すべきであるとする。

 しかし、証人のこの主張に理由がないことは、(七)(1)@イのとおりである。

 A 第二点

 証人は、打ち込み機自体が、遊技機として禁止されるわけではなく、パチスロ機が、著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機に変化したかどうかこそが問題であるとする。

 もとより、打ち込み機自体が遊技機として禁止されるわけでないことはもちろんであるが、打ち込み機をパチスロ機に接続することによって、その時点でパチスロ機の性能が、つまりスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う性能を持つ遊技機となる、ということである。

そして、このような遊技機は、営業者による打ち込みという人為的操作を持ち込み得ることから、著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機となるものである。したがって、証人の主張は理由がない。

 B 第三点

 証人は、遊技機の基準七号の「遊技の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」とは、七号全体の趣旨が、回転が速すぎ、回転の停止の調整ができず、公正を害するような調整機能がついていたりするために、客の技量によらずに遊技の結果が左右されるおそれが著しい遊技機を設備面から規制しようとする点にあるというべきであるから、これら具体例に準ずるものに限定して解釈すべきであり、設備面から離れた、客以外の者が関与した場合一般に拡大して解釈すべきでないとする。

 しかし、このように限定して解釈すべきではない。

 そもそも右七号を含む規則は、パチスロ機が著しく射幸心をそそるおそれのあるものか否かの判断を具体的に行うために規定されたものであり、七号には、明文で「客以外の者」と、この者が記載されているのであり、この者の「意図により決定されるおそれが著しい」と記載されている。このように「者」が明記されているのであり、何ら拡大解釈に当たるものではない。

 これは、このような状況にあるパチスロ機が著しく射幸心をそそるおそれのあるものと認めたのであり、それが妥当であることは言うまでもない。

 あえてそれを不自然に限定することに合理的根拠はない。

したがって、証人の主張は理由がない。

 C 第四点

 証人は、打ち込みによってパチスロ機に内部当たりの状態を生じさせても、それは機械に一時的な内部当たり状態を作り出したに過ぎないから、それによって遊技機が著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機に変化したとは言えないとする。しかし、この主張も理由がない。前述の如く、パチスロ機に打ち込み機を接続したことによって、その遊技機自体が、スタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う性能を有する機械に変化し、そこに営業者による打ち込みという人為的操作を持ち込みうることになって、著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機となるからである。

 したがって、証人の主張は理由がない。

 D 第五点

 証人は、打ち込み機を接続しただけでは、いまだ内部当たりの状態にもなっていないのであるから、それだけでは、著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機に変化したとは言えないとする。

 しかし、パチスロ機は、打ち込み機の接続自体によって、右に述べた如くその性能を変化させるのだから、また、これは取りも直さず、著しく射幸心をそそるおそれのある状態に変化したということだから、証人の主張は理由がない。

 E 第六点

 証人は、証人早乙女昌幸ほか一名が行った打ち込み機の鑑定について、右早乙女らが所属する保通協は技術専門家集団であって、「遊技の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機とするための機能を有する」というような抽象的判断をすることになじまないから、そのような判断は鑑定結果としてとらえるべきものではないとする。

しかし、証人早乙女ほか一名が行った打ち込み機の鑑定において、「遊技の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい」という点についての判断を行ったことは、鑑定結果として認めるに十分である。

 すなわち、右早乙女らは、遊技機の型式検定試験や鑑定に従事した経験をもとにして判断しているのであり(第三回公判における早乙女の供述一九丁表)、そこで得た知見を用いて右の判断をすることが保通協の立場を踏み越えるものとは言えない。したがって、証人の主張は理由がない。

C 弁論要旨の憲法違反について

ア 弁護人主張の要旨は、『法は、定義規定が著しく不明確で、いかなる行為が処罰されるのか国民にとって容易に判定しがたいばかりか、政令、国家公安委員会規則等への白紙委任となっており、罪刑法定主義(憲法三一条)に違反する法律である。このことは、遊技機の規制について特に言えることである。

 ここで、本件についてみると、法の定義規定がいかに不明確で、何を処罰の対象としているか不明であることは、いみじくも本公判における検察官の主張の変遷から明らかである。検察官は、冒頭陳述において、「人為的に短時間の遊技で大当たりを出せる状態に置いた」ことを違法としていたのに、平成八年一一月八日付釈明では、「営業者の自由な判断によって、人為的に、打ち込み機を接続することにより、実際に遊技をすることなく、機械的、強制的かつ確実に回胴式遊技機に内部あたりの状態を発生させること」を違法と主張し、論告においては、後に述べるとおり、さらにそれとは異なる主張を展開しながら、検察官は、「主張は全く変遷していない」という。この一事を見ただけでも、法の規定がいかに不明確で、警察・検察の思うがままに人を処罰できるか(明らかに主張が変遷しているのに、変遷していないということができる程に不明確、逆に言えば警察に都合のよい規定であるか)が明らかである。

 本件は、このように憲法違反の(少なくともその疑いの強い)法律によって被告人を処罰しようとするものであって、到底許されないことである。』という。

イ 弁護人主張の「定義規定が著しく不明確で、いかなる行為が処罰されるのか国民にとって容易に判定しがたいばかりか、政令、国家公安委員会規則等への白紙委任となっており、罪刑法定主義(憲法三一条)に違反する法律である。」というが、このとおりであれば、そういうことになる。しかしながら、法四九条三項一号には、先に見た(第三二1)如く、要約「(1) 風俗営業者が、九条一項の規定に違反していること (2)風俗営業者が、九条一項の承認を受けてないこと (3)風俗営業者が、構造又は設備の変更をしていること」とある。この(1)には「九条一項(二〇条一〇項において準用する場合を含む。)」とあり、これを受けて「二〇条一〇項には、(九条一項・・・の規定は、一項の風俗営業者が設置する遊技機の増設、交替、その他の変更について準用する。この場合において、九条二項中「四条二項一号の技術上の基準及び」とあるのは、「四条三項の基準に該当せず、かつ」と読み替えるものとする。)」とある。次にこの(3)には「営業所の設備(四条三項に規定する遊技機を含む。)の変更をした者」とあり、これを受けて、四条三項には「風俗営業については、公安委員会は、当該営業に係る営業所に設置される遊技機が著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものとして国家公安委員会規則で定める基準に該当するものであるときは、当該営業を許可しないことができる。」とある。このように法律自体で明確にその基準を示しているのである。そして、この(3)については、このように法律自体で明確にその基準を示した上で国家公安委員会規則で定めることとしているのである。また、これを受けて規則七条でより具体化した遊技機の基準を定めている。このようなことなので、弁護人主張の前提を欠くことになるから、弁護人主張は、理由がないことになる。

D 弁論要旨の論告は破綻しているとの主張

ア 本件において何が違法であるのかが全く明示されていない

 本件においては、本件公訴事実の構成要件が極めて不明確であり、構成要件該当性が最大の問題である。そこで、弁護人は、検察官に本件公訴事実の構成要件を明確にするように求めたが、結局、明確な内容を示さなかった。

 検察官は、遊技機無承認変更とは、遊技機の性能に影響を及ぼすおそれのある変更を言い、変更には遊技機本来の部品以外の物を付加することも含むというが、何をもって遊技機の性能の変化があったというのかが全く明らかにされていない。

 検察官の主張は、一定しておらず、何が遊技機の変更であるかを明確としていない。結局、本件において何が遊技機の性能の変化であるのか全く明瞭にはなっていないと言わざるを得ないのであり、本件起訴自体が破綻しているのである。

イ 本件においての構成要件については、先にみたとおりで、不明確とは言えない。

 検察官は、本件公訴事実が、これらの構成要件に該当するとしているのであり、弁護人主張の如く内容を示していないことはなく、また、何が遊技機の変更であるかについても明確にしているのである。そして、本件において何が遊技機の性能の変化であるのかについてもこれを明瞭に主張するものである。

ウ 論告における新主張の追加

 検察官の違法性の論拠は、論告において初めて明瞭にされた主張が二つある。

 一つは、「パチスロ機に打ち込み機を接続したことによって、両者が一体の遊技機になるのであって、それはスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う性能を有する機械に変化し、そこに営業者による打ち込みという人為的操作を持ち込み得ることになって、著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機となる」という主張である。

 しかしながら、このような主張は、平成八年一一月八日付の検察官の釈明にも出てこなかったものであり、全く新規な主張である。

 弁護人は、被告人の防御権を侵害することのないように、繰り返し公訴事実の内容を明確にするように求めた。論告になって初めてこのような新規な主張がなされるなど、まさに弁護人の予感が的中したと言わざるを得ない。ことほど左様に、本件公訴事実の内容は不明確なのである。

 右主張の是非については、後に検討するが、ここでは一点だけ、検察官の右新規主張を支える証拠は何も提出されていないことだけを指摘しておきたい。早乙女・鬼頭鑑定書・証言でも、そのようなことは全く指摘されていない。また、検察官の新規主張を支える文献も存在しない。検察官の新規主張は、証拠により全く証明されていないのである。

エ 弁護人は、新主張というが、冒頭陳述でもスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行うことに触れている。そして、本件公訴事実の内容は不明確だ、との点についての判断は、既に述べたとおりである。

オ 論告における旧主張の撤回

 論告において明瞭にされたもう一つの主張が、「検察官は、打ち込みによってパチスロ機に内部当たりの状態を生じさせたことをもって、著しく射幸心をそそるおそれのある状態にしたと主張しているのではない」というものである。

 すなわち、検察官は、論告の前半部分において「営業者の自由な判断によって、人為的に、打ち込み機を接続することにより、実際に遊技をすることなく、機械的、強制的かつ確実にパチスロ機に内部当たりの状態を発生させるのだから」、著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機となるのだと主張していたものであるが、右新主張はこれを撤回するものである。内部当たりの状態は、遊技機のプログラムの正常な作動の結果生じるものであるから、内部当たりの状態が生じることをもって遊技機の性能の変化であると主張することはナンセンスである。検察官もこのことに気づいて、旧主張を撤回したのであろう。

カ 弁護人主張の如く、検察官が新主張をし、旧主張を撤回したということではない。打ち込み機を接続することによって、ある時点で内部当たりの状態になるが、このこと自体を遊技機の性能の変化であると主張するのではない。

E 弁論要旨の本件「遊技機無承認変更」の構成要件について

 弁護人は、『本件起訴にかかる犯罪構成要件は、法四九条三項、二〇条一〇項、九条一項を一つの条文として読み替えると、「あらかじめ公安委員会の承認を受けずに遊技機の増設、交替その他の変更(ただし、総理府令で定める軽微な変更を除く)をした者は、六月以下の懲役若しくは三〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」というものである。したがって、本件が有罪となるかどうかは、回胴式遊技機(パチスロ機)の主基盤端子に打ち込み機を接続することが「遊技機(の設備)の変更」にあたるかどうかによって決定されることになる。』と述べる。これはそのとおりである。

ア 法の構造

 弁護人は、遊技機の規制について法の構造は、法二〇条一項をその根幹として構成されている、という。そして、これについて述べる。

イ これはそのとおりである。

ウ 弁護人は、ここで、「技術上の規格」の位置づけと題して、詳細に検討されている。

エ これは誠に、そのとおりなのである。ただし、弁護人は、本件の遊技機の変更についても、この「技術上の規格」によるべきだというが、この点が問題である。既に判断済みのところである。

オ 遊技機の変更の基準が「技術上の規格」である実質的理由

 a 弁護人は、「罪刑法定主義」と題し、『「遊技機の変更」は、それに違反した場合は法四九条三項一号により刑罰を科することとされているのであるから、罪刑法定主義の要請に照らしても、その内容は一義的に明確な構成要件でなければならない。ところが、「遊技機の基準」に該当するような行為(たとえば、検察官の主張するような、「遊技機の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」)というだけでは、何がそれに該当するかは何ら明確にはならない。それに対し、誰にでも明確に判断できるように、「遊技機の基準」を具体的技術的に詳細に規定したものが「技術上の規格」なのである(早乙女も「遊技機の基準」を技術的に細かく規定したものが「技術上の規格」であり、「技術上の規格」に適合した遊技機は「遊技機の基準」には該当しない旨証言している。)。』という。

 b 罪刑法定主義に反するとの点については、既に判断済みのところである。

 また、「遊技機の基準」に該当するような行為(たとえば、検察官の主張するような、「遊技機の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」)というだけでは、何がそれに該当するかは何ら明確にはならない、というが、これは規則七条で具体化した基準なのであって、弁護人のこの主張は当たらない。「技術上の規格」が具体化しているとの点はそのとおりであるが、これは認定・検定の検定等規則での基準であることは、既に判断済みのところである。

 c 弁護人は、『総理府令五条との整合的解釈をすれば、総理府令五条は、「遊技球等の受け皿、遊技機の前面のガラス板その他の遊技機の部品でその変更が遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるもの以外のものの変更」と定めた。したがって、公安委員会の承認を要する「変更」とは、「遊技機の部品でその変更が遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがあるもの」を言うものと解される。

 そして「遊技機の性能」について唯一具体的に定めているのが、「技術上の規格」なのである。

 したがって「遊技機の性能に影響を及ぼすおそれがある変更」であるか否かを判断する基準は「技術上の規格」しかないのである。』という。

d いずれも、既に判断済みのところである。

 e 弁護人は、公安委員会による承認手続の不整備と題し、『法二〇条一〇項は「公安委員会は、前項の承認の申請に係る遊技機が四条三項の基準に該当せず、かつ、三条二項の規定により公安委員会が付した条件に適合していると認めるときは、前項の承認をしなければならない」と読み替えることができる。

ところで、法は遊技機の認定及び型式の検定については技術上の規格を定めて、その試験事務を保通協に全面的に委託しているにもかかわらず遊技機の変更の承認手続については、何ら特別の手続規定を置いていない。遊技機の事前チェックである認定・検定については保通協に任せて何ら実質的に関与しない公安委員会が、事後チェックである変更の承認だけをよくなしうることは、到底不可能なことである。遊技機の変更の承認の基準を「遊技機の基準」に求める立場によれば、この不可能を強要することになる。そればかりか、事前チェック(その基準は「技術上の規格」)とは別の「遊技機の基準」で事後チェックを行うことになるのであって、チェックの体を全くなさないことになる。事前チェックとは別の物差しを持ってきては変更の有無が判断できるわけがないのである。

 実際問題として、法改正国会において、政府委員は「技術上の規格」の制定経緯として、「最近の遊技機は大変IC等が使われまして、そういう遊技機の認定・検定には高度な技術を要するということになっておるわけでございます。そういうことで、各都道府県で行うことになっておりますけれども、なかなかそれだけの能力がない場合もあり得るわけでございます。そういう意味で、そういう能力、知識を持っている者が速やかに行うということが業界のためになると考えておるわけでございます。」と説明しているところからも窺われるとおり、法の建前としては遊技機の認定・型式の検定は公安委員会は、行うことになっているものの、公安委員会にはその技術的能力が不足しているため、それを保通協が行うことを法は予定しているのである。それにもかかわらず、その経緯を無視して、公安委員会が遊技機の基準の該当性の判断を行うといっても不可能であると言わざるを得ない。』という。

 f 法二〇条一〇項についてと試験事務を保通協に全面的に委託しているとの点はそのとおりである。そして、『遊技機の変更の承認手続については、何ら特別の手続規定を置いていない。・・・・・・・事前チェックとは別の物差しを持ってきては変更の有無が判断できるわけがないのである。』と主張するが、何ら特別の手続規定を置いていないのは、遊技機の変更は、まとめて検定するというのではなく、法改正前のように原則に戻り、個々的に審査する関係だからである。また、政府委員は「技術上の規格」の制定経緯として、「最近の遊技機は大変IC等が使われまして、そういう遊技機の認定・検定には高度な技術を要するということになっておるわけでございます。・・・・」とあるのは、つまり「そういう遊技機の認定・検定には高度な技術を要する」ところの遊技機の認定・検定(検定等規則の適用あるもののみ)が対象になっているからと解される。

 g 弁護人は、中山研一教授意見として、『遊技機の変更の違法性の基準となるべき基準が「遊技機の基準」であるのか(第一の立場)、「技術上の規格」であるのか(第二の立場)について、論理的にはいずれの立場もあり得るが、法が遊技機の型式に関する技術上の規格を定め、認定・検定を技術専門家集団である保通協の技術的専門的判断に全面的に委ねて、判断の客観性を担保しようとした法の趣旨に照らすならば、第二の立場こそが正当であると述べる』から、これによるべきと主張する。

 h 既に判断済みのところである。

カ 弁護人は、遊技機の変更の基準についての小結と題し『本件が有罪となるかどうかは、回胴式遊技機(パチスロ)の主基盤端子に打ち込み機を接続することが「技術上の規格」に照らして遊技機の性能に影響を及ぼすのか否かによって判断されるべきである。』という。

キ 既に判断済みのところである。

ク 弁護人は、遊技機の変更の基準時と題し『遊技機の規制に関する根幹である法二〇条一項は、「著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機を設置」することそのものを禁じているのではなく、そのような遊技機を設置して「営業を営むこと」を禁じているのである。そもそも遊技機の規制がなされるのも、「著しく客の射幸心をそそる」ことのないようにしようとしたものに他ならない。

 したがって、遊技機の変更の基準時は、営業時であって、営業中の遊技機が「技術上の規格」に照らして遊技機の性能に影響を及ぼすような変更がなされているのか否かを問題にすれば足りるのである。仮に営業時間外に遊技機の変更がなされていたとしても、営業時間中には設置時の遊技機と性能面において変更がないならば、客に対する関係では何らの変更がなされていないのであるから、違法という必要は何らないのである。』という。

ケ 遊技機の変更については、営業時間とは、直接に関わりのない事柄である。

コ 弁護人は、Eの結論と題し『本罪の構成要件は、あらかじめ公安委員会の承認を受けずに、営業時間中に、遊技機の増設、交替又は「技術上の規格」に照らして遊技機の性能に影響を及ぼすような変更をすることを処罰するものであり、本件では、営業時間外に、回胴式遊技機(パチスロ機)の主基盤端子に打ち込み機を接続したことが右構成要件に該当するか否かが問題となるのである。』という。

サ 既に判断済みのところである。

F 弁論要旨の「打ち込み機」の回胴式遊技機の性能に与える影響について

ア 弁護人は、ここで『回胴式遊技機の性能・特性と題し、1概説 2外観 3遊技の構成 4沿革 5本遊技機の入賞決定の仕組み 6役物連続作動(大当り)の入賞の仕組み 7「リーチ目」について 8当選図柄抽選の仕組み 9小結』と述べる。また『この弁護人の論述は、検察官が論告で述べた所と全く同一であり、表現や解説の角度を異にしているだけである。要するに、本件回胴式遊技機は、遊技者がスタートレバーを押すことによって機械的に抽選が行われ、この段階で内部当たりの状態にならない限り、遊技者の技量が幾ら優れていても、BB又はRBはそろわない。逆に、内部当たりになれば、遊技者の技量が劣っていても、プログラムによって入選図柄がそろうように「引き込み」がなされている。遊技者の技量は、内部当たりになって一、二回目の遊技でBB又はRBが出るか、一〇回程度の遊技を要するかの程度でしか影響されないのである。

 このように、本件回胴式遊技機においてBB又はRBが出るかどうかは、スタートレバーを押した瞬間に行われる抽選で内部当たりになるかどうかによって決定されるのである。すなわち、遊技の結果は偶然によって支配されているのである。BB又はRBが出るかどうかには、遊技者の技量はほとんど影響しないと言わねばならない。』という。

イ これらについては、同様の判断である。

ウ 弁護人は、ここで『「打ち込み機」の性能と題し、(1概説 2パチスロ機の電気信号の流れ 3打ち込み機を動作させる実際の行為 4結論)なお、ここでは、弁論要旨補充書での補充部分がある。』と述べる。

また、この結論として『打ち込み機は、人が遊技する場合と全く同じことをしているだけであり、それを超えること、すなわち特別な信号を主基板に送り込んで速やかに内部当たりに到達させるなどの事は一切していない。

 しかも、打ち込みの速度は熟練した遊技者が手で打ち込むときよりも遅い。打ち込み機は、手で遊技している場合と異なる機序を主基板に発生させて内部当たりを出現させているのではない。打ち込み機は、パチスロ機に対し、内部当たりの発生を強制したり、内部当たりを発生させるものではないのである。打込み機作動の場合も、内部当たりは、パチスロ機自身が発生させるもの、すなわちパチスロ機の主基板の抽選の結果生ずるものなのであり、手で遊技している場合と全く変わっていないのである。

 この点に関し、検察官は、「営業者は、打ち込み機の接続によって機械的、強制的かつ確実に内部当たりの状態になるまで打ち込みを行い、」と主張するが、『強制的』という表現は不適切である。

 また、甲五などの鑑定書でも、打ち込み機を付けることによって「BB又はRBの内部当たりを発生させることができる」(甲五号証6鑑定結果(3))と記述されているが、これも誤りである。打ち込み機は内部当たりを検出して打ち込みを終了するだけの機能しか有しない。』という。

エ 「打ち込み機」の性能について、その速度の点以外は同様の判断である。

オ 弁護人は、ここで『「打ち込み機」の回胴式遊技機の性能に与える影響と題し、1遊技機を変更していないこと、として、打ち込み機は遊技者が遊技を行っているのと全く異ならないから、本件回胴式遊技機の性能には何らの影響をも及ぼさない。打ち込み機は、回胴式遊技機の基盤に対してプログラムの変更を行う書き込み機能を有するものではないのである。したがって、「技術上の規格」に適合し「遊技機の基準」に該当しない遊技機は、打ち込み機を接続しても、認定・検定を受けたときの状態と何ら変わらないのである。それゆえ、手動で打ち込みを行い、リーチ目で止めておくことが「遊技機の変更」に該当しないのと同様、本件回胴式遊技機に打ち込み機を接続することも「遊技機の変更」には該当しないというべきである。』という。

カ 打ち込み機の機能は、そのとおりである。遊技機は、打ち込み機を接続しても、認定・検定を受けたときの状態と何ら変わらないとの点が異なり、これは既に判断済みのところである。

キ 弁護人は、ここで『遊技の結果にも影響を及ぼしていないことと題し、BB又はRBの大当りは頻繁に生ずるものである。

 弁一四は被告人会社の八二二番台パチスロ機の平成八年七月二七日から同月三一日までの五日間の遊技のコンピューター記録であるが、BB又はRBの発生回数を「特賞回数」としてカウントしてある。一日平均二〇・六回発生しており、多い日には一日三四回も発生している。一日の営業時間は一四時間であるので、一日平均約四一分に一回、多い日には約二五分に一回発生していることになる。しかもこれは一台の台に開店から閉店まで遊技者が休むことなく遊技していたとしての計算である。実際には、客がよく付く人気台でも一日当たり延べ一から三時間客が付かないことがあるので、実遊技時間を基礎にすると大当りの発生間隔(時間)はもっと短いことになる(弁一五ないし一八のグラフで、グラフが水平になっている時間帯が、客が付かず遊技されていない時間帯)。

 ちなみに当裁判所における検証では、大当り一歩手前の内部当たりに到達するまで一時間二〇分を要したが、これは、たまたま検証に供したパチスロ機の大当りの抽選確率が低い時期に遭遇していたためである。すなわち、パチスロ機の抽選は乱数によって行われているところ、乱数の発生は無限回数(無限時間)で平均すると予定されている各数値、例えば〇から九までの各数値につき均一に発生するが、短時間で見るとバラつき、かたよりを生ずる(広辞苑「乱数」の項参照)。例えば、弁一五号証のグラフでいうと、一二時三〇分から一四時までの一時間三〇分間大当りが発生していないが、検証に供されたパチスロ機もちょうどこの時期にあった訳である。

 以上のとおり、打込み機によりいわゆるモーニングセットを行うことは、二〇分ないし一時間くらいの間に必ず現われる(一日平均約二一回現われる)大当りの周期を手前にずらせるだけであり、大当りの発生頻度を変更するものではないので、遊技の結果に影響を及ぼすものとは言えないのである。』という。

ク 弁護人主張によれば、打込み機によりいわゆるモーニングセットを行うことは、大当りの周期を手前にずらせるだけであり、大当りの発生頻度を変更するものではないので、遊技の結果に影響を及ぼさないというが、既に判断したとおり、ここでの変更とは、パチスロ機が、そのスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行うことができるパチスロ機に変化したということである。これが遊技機の変更になったということである。したがって、弁護人主張は理由がない。

ケ 弁護人は、ここで『打ち込み機は歴史的に遊技機の変更としては認識されていなかったと題し、本件で問題となっているようなパチスロ機が登場したのは昭和五五年ころであり、当時はモーニング機能(営業時間前に打ち込みを完了し、開店一番に大当たりになることから、打ち込みのことをモーニングと称するのが業界の用語例であった)がパチスロ機本体に内蔵されていたが、昭和六〇年頃から本件のような打ち込み機が用いられるようになった。法改正が行われたのも同時期の昭和五九年であったが、打ち込み機の接続を理由に検挙された事例はなかった(被告人代表者B本人調書)。その後、一般に広くモーニングが行われるようになり、パチスロ雑誌などでもモーニングはパチンコ店のサービスとして当然のように受け止められていた。その間、平成七年九月八日の松江簡裁略式命令(甲三四)が現れるまでは、打ち込み機の接続が処罰されたことはなく、その後も本件に至るまで五件が略式処罰を受けたにすぎなかった(甲三五〜三九)が、そのことは業界でも全く話題にならず、警察から行政指導がなされたこともなかった。

 平成七年当時、遊技機の不正改造事犯としては、ロム(読取り専用記憶装置)やラム(読取り書込み記憶装置)等の遊技機の電子部品の改造が問題視されており、モーニングについては何ら遊技機の不正改造事犯としては捉えられていなかった(弁六、七号証)。ようやく本件の後である平成八年八月二六日付をもって全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)から第一次自粛通達が承認され、その中において「モーニングサービスは禁止する」との条項が盛り込まれ、福井県内においては、平成八年九月五日付をもって福井県遊技業協同組合から県内各パチンコ店に全日遊連の自粛決議が通達された。その内容は、モーニングを営業自粛規制をするというものであり、違法行為であるとの認識は何ら示されていない。

 このように打ち込み機は、パチスロ機の登場と同時に用いられ始めたにもかかわらず、打ち込み機の接続は、警察当局からも何ら違法視されることなく、かえって客からはパチンコ店のサービスとして当然のごとく受け止められていたのである。これは、結局は、打ち込み機の接続が遊技機の性能に影響を及ぼす違法な変更ではないからに他ならない。

 仮に打ち込み機の接続が違法な無承認変更にあたるとしても、右のように歴史的に黙認されてきた経緯に照らすときは、その処罰は、法令の解釈の変更に等しく、営業者にとっては不意打ちであり、営業者のパチンコ行政に対する信頼を著しく損なうものであって、罪刑法定主義の要請に反するものである。このような場合、モーニングに対する法的規制は、まずパチンコ行政の監督官庁である警察による行政指導として行われるべきであって、いきなり刑事処罰するのは、憲法の保障する適正手続に反する誤りであると言うべきである。』という。

コ 打ち込み機の接続は、前述の如く遊技機の変更に当たるのであるから、弁護人の主張は理由がないことになる。また、弁護人主張の、罪刑法定主義の要請に反するないしは適正手続に反するとの点についても、弁護人主張の理由によっては、これを認めることはできないのであって理由がないことになる。

サ 弁護人は、ここで『検察官の新主張に対する反論と題し、検察官は、「パチスロ機に打ち込み機を接続したことによって、両者が一体の遊技機になるのであって、それはスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う性能を有する機械に変化し、そこに営業者による打ち込みという人為的操作を持ち込み得ることになって、著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機となる」という新主張を論告において行っているので、この点について反論する。』として、

 a 弁護人は、『まず、「パチスロ機に打ち込み機を接続したことによって、両者が一体の遊技機になる」と検察官は主張するが、この点は明瞭な誤りである。なぜなら、遊技機とは遊技の用に用いることができるものをいうところ(このことは文言解釈としても、また遊技設備についての解釈基準に照らしても明らか)、パチスロ機に打ち込み機を接続した状態では、客の遊技に供し得ないのであるから、客の遊技に供し得ないものを遊技機とは言えず、「(一体の)遊技機」であることはあり得ないのである。

 客の遊技に供する時点において、「スタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う性能を有する」のであれば、性能に影響を及ぼすと言うこともできよう。しかし、打ち込み機を接続した状態では客の遊技に供することは不可能であり、客が「スタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う」こともあり得ないのであるから、遊技機の性能に影響を及ぼすということはできない。

 何よりも、遊技機の型式検定試験を行っている保通協の早乙女証人が、回胴式遊技機に打ち込み機を接続しても、遊技機の機械的性能としては何ら影響はないことを認めているのであるから、検察官の主張は、およそ失当であると言うほかはない。』という。

 b 弁護人主張は、遊技中はパチスロ機が打ち込み機を接続していないので、遊技中に一体になっていない、また、客の遊技に供する時点において、遊技機は、打ち込み機による打ち込みがないので「スタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う」ということがなく、もし、この時点で「このような性能を有することになる」のであれば、性能に影響を及ぼすということもできよう。しかし、打ち込み機を接続した状態では客の遊技に供することは不可能であり、客が「スタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行う」こともあり得ないのであるから、遊技機の性能に影響を及ぼすということはできない、というものである。

 営業時に接続していないことは、正にそのとおりである。遊技機の変更については、営業時間とは直接に関わりのないところである。それは、前述した如く、遊技の結果が客以外の営業者の意図により決定されることになるおそれが著しい遊技機と判断されるパチスロ機となり、このパチスロ機が、そのスタートレバーの操作以外の契機により内部当たりの抽選を行うことができるパチスロ機に変化したからである。これが遊技機の変更になったということである。したがって、遊技機の基準によって判断されるものである。

 保通協の早乙女証人が、回胴式遊技機に打ち込み機を接続しても、遊技機の機械的性能としては何ら影響はないことを認めているのである、との点は、同日の証言部分で、他方、「これは、その測定の方法にもよると思うんですが、予め内部当たりになってますので、ビッグボーナスがすぐ出るという状態になってます。その状態をまた作り出して、もう一度打ち込みをすれば、多分またビッグボーナスが出てくると思いますので、それを試験すると、恐らく一二〇パーセントは越えてしまうんじゃないかと思います。」とある。これらの証言は、いずれにしても「技術上の規格」を前提にしてのものであることに、留意すべきである。したがって、弁護人主張は、理由がないことになる。

 c 弁護人は、『そもそも、遊技機の変更の基準時に照らすならば、パチスロ機に打ち込み機を接続するのは、営業時間外のことであり、営業時間中は打ち込み機ははずしているのであるから、パチスロ機に打ち込み機を接続することは公安委員会の承認を要しないのである。もし検察官理屈でいくならば、営業時間外に故障の有無をチェックするためにパチスロ機に出玉率試験器(打ち込み機と同じ構造と性能を有する)を接続することも違法な無承認変更ということになって、失当であることは明らかである。』という。

 d この例は、違法性がない。弁護人主張は、理由がないことになる。

G 弁論要旨の打ち込み機の接続により「遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」となるのかについて

ア 弁護人は『検察官は、「営業者は、打ち込み機の接続によって機械的、強制的かつ確実に内部当たりの状態になるまで打ち込みを行い、しかも大当たりを発生させる前の状態である内部当たりの状態で打ち込みをやめるのであるから、それはまさに通常の遊技によらないで、しかも客以外の営業者の自由な判断で、客に容易に大当たりさせることになって、客の遊技の結果を左右するものであり、まさに『遊技の結果が客以外の者の意図により決定』されていることは明白である」旨主張する。

 しかしながら、既に繰り返し述べてきたとおり、遊技機の変更の基準は「技術上の規格」であって、「遊技機の基準」ではないから、「遊技機の基準」七号の該当性を論ずる右検察官の主張は、その点において既に失当であるし、そもそも「検察官は、打ち込みによってパチスロ機に内部当たりの状態を生じさせたことをもって、著しく射幸心をそそるおそれのある状態にしたと主張しているのではない」旨述べているのであるから、この点の主張は撤回されたものと解される。

 しかし、念のため、パチスロ機に打ち込み機を接続しても、「遊技機の基準」にいう「遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」には該当しないことを以下に論ずる。』という。

イ この点については、既に判断済みのところである。なお、弁護人のいう検察官の主張は撤回されていない。

ウ 弁護人は、ここで『「遊技機の基準」の解釈の指針と題し、「遊技機の基準」は、法四条三項の「著しく客の射幸心をそそるおそれのある」遊技機の基準を定めるものであるから、法のいう「著しく客の射幸心をそそるおそれ」とは何かがその解釈指針となることは言うまでもない。

 法改正国会においては、ゲーム機の規制をめぐって、「射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの」とは何かが問題となったとき、政府委員は「遊技機で、遊技の結果が定量的にあらわれるか、あるいは勝敗が決せられるかというものを賭博に用いられる可能性がある」、偶然性の要素のあるものに財物をかければ賭博になる、偶然に利益を得ようとすることが射幸心であると説明し、また、「著しく客の射幸心をそそるおそれがある」という内容について、政府委員は、「『著しく』という解釈でございますけれど、こういうふうなものは、お客さんとしては偶然の機会に利益を得ようという客の気持ちがあるわけでございます。そういうことが、それは社会通念上もう許容できない程度に射幸心をそそる程度というふうに一応解すべきではなかろうか。(略)偶然だけで決まってしまうというようなことになりますと、これはやっぱりそういう『著しく』という要素になる可能性が強いであろう。あるいはまた、遊技じゃなくて、極端なことを言えば、そういうふうな財物の得喪だけを決めるというような、そういうふうな、遊技的な要素がなくなっちゃうというようなもの、それから一回の遊技で一定基準以上の、がさっともうけるといいますか、そういうようなことができるようなものが『著しく客の射幸心をそそるおそれがある』ということになるのではなかろうか」と述べ、具体的には「非常に短い時間に何万円もすってしまうというような形のもの」「一つの大きな入賞があると大変玉が出過ぎるというもの」「極めて短時間に勝負がついてしまうもの」、「技術介入の度合いが低いとか、あるいは一回あたりの出玉が著しく多かったり、あるいは発射速度が著しく速いといったこと」が規制されるとしている。

 要するに、遊技機に関して問題となる「著しく射幸心をそそるおそれ」とは、著しく賭博性、偶然性の高いものをいうのである。

 したがって、「遊技機の基準」は、著しく賭博性、偶然性の高いものの類型を定めたものと解されるのであって、「遊技機の基準」を解釈するに際してもそのような視点から解されねばならない。』という。

エ 弁護人主張の『「遊技機の基準」は、法四条三項の「著しく客の射幸心をそそるおそれのある」遊技機の基準を定めるものであるから、法のいう「著しく客の射幸心をそそるおそれ」とは何かがその解釈指針となることは言うまでもない。』とあるのは、正にそのとおりである。そこでこの法基準をうけて、規則七条は「著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準」を一号から七号まで定めたのである。この解釈の基準として、弁護人主張は意味がある。

オ 弁護人は、ここで『検察官の主張は「遊技機の基準」の解釈を誤ったものであると題し、「遊技機の基準」の内容を子細に検討すると、

 一号「一分間におおむね四百円の遊技料金に相当する数を超える数の遊技メダルを使用して遊技をさせることができる性能」は、短時間にあまりに多くのメダルを使用するような遊技機を規制し、

 二号「一回の入賞において入賞に使用した遊技メダルの数の一五倍を超える数の遊技メダルを獲得することができる性能」は、一回にあまりに多くのメダルを獲得できるような遊技機を規制し、

 三号「役物の作動により獲得することができる遊技メダルの数が、役物の作動によらないで獲得することができる遊技メダルの数に比して著しく多いこととなる性能」、

 四号「役物連続作動装置が設けられている遊技機にあっては、役物が連続して作動する回数が一二回を越える性能を有するものその他当該役物連続作動装置の作動により著しく多くの遊技メダルを獲得することができる性能」、

 五号「役物連続作動装置を短時間に集中して作動させることができる性能を有する遊技機であること、その他短時間に著しく多くの遊技メダルを獲得することができる性能」は、いずれもいわゆる連チャンによって短時間にあまりに多くのメダルを獲得できるような遊技機を規制し、

 六号「入賞とされる回胴の上の図柄の組合せが著しく多い遊技機または著しく少ない遊技機であること、その他客の技量にかかわらず遊技メダルの獲得が容易であり、または困難である遊技機であること」は、遊技の結果に客の技量が反映されず、偶然に支配される遊技機を規制している。

 いずれも賭博性の著しく高い遊技機を類型化したものと言える。

 それに対し、七号は、「@回胴の回転の停止を客の技量にかかわらず調整することができない遊技機であること、A回胴の回転が著しく速い遊技機であること、B遊技の公正を害する調整機能を有する遊技機であること、Cその他客の技量が遊技の結果に表れないおそれが著しい遊技機またはD遊技の結果が偶然もしくはE客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機であること」と定めている。条文の規定の体裁から考えると、@ABはCDEの例示と解され、@からDまでは、六号と同様、遊技の結果に客の技量が反映されず、偶然に支配される遊技機を規制していることは明らかである。

 ところが、本件で問題とされているEだけは、その文言から判断する限り、賭博性、偶然性とは関係のない基準となっている。もし規定の文言どおりに解釈するのであれば、Eは法の「著しく客の射幸心をそそるおそれのある」遊技機の基準たり得ないものとなっているから、法の規則に対する委任の範囲を超えたものとして無効と解される。これを効力を有するものと解するためには、@からDに準じた、遊技の偶然性を意味する規定と考えるしかない。

 したがって、検察官の、<「客以外の営業者の自由な判断で、客に容易に大当たりさせることになって、客の遊技の結果を左右するものであり、まさに『遊技の結果が客以外の者の意図により決定』されている」から、「遊技機の基準」に該当する>との主張は、営業者の判断が客の遊技に影響を与えていることを問題とするものである限り、「遊技機の基準」七号は無効である(少なくともそのような意味を有するものではない)から、失当である。』という。

カ 弁護人主張は、弁護人意見書(三)第二についてのウとほぼ同旨である。異なる部分の『営業者の判断が客の遊技に影響を与えていることを問題とするものである限り、「遊技機の基準」七号は無効である(少なくともそのような意味を有するものではない)から、失当である。』についてであるが、その理由とするところは、『本件で問題とされているEだけは、その文言から判断する限り、賭博性、偶然性とは関係のない基準となっている。 もし規定の文言どおりに解釈するのであれば、Eは法の「著しく客の射幸心をそそるおそれのある」遊技機の基準たり得ないものとなっているから、法の規則に対する委任の範囲を超えたものとして無効と解される。これを効力を有するものと解するためには、@からDに準じた、遊技の偶然性を意味する規定と考えるしかない。』としている。

 弁護人は、『本件で問題とされているEだけは、その文言から判断する限り、賭博性、偶然性とは関係のない基準となっている。』というが、これも賭博性、偶然性と関係のある基準なのである。そして、法四条三項は「著しく客の射幸心をそそるおそれのある」ことを、遊技機の基準と定めるのであるから、何ら法の規則に対する委任範囲を超えたものとは認められない。弁護人主張は、理由がないことになる。

キ 弁護人は、ここで『検察官の主張は「遊技機の基準」の判断対象を誤ったものであると題し、要するに、本件遊技機の性能を「一般的定性的に変更するものではあり得ない。中山教授の言によるならば、「パチスロ」機の内部状態の一時的な変化にすぎず、これを『遊技機の変更』と解することは無理だと言わざるをえない。」』という。

ク 既に判断済みのところである。

ケ 弁護人は、ここで『打ち込み機の接続は「遊技の結果が客以外の者の意図により決定される」ことになるのかと題し、要するに『打ち込み機による打ち込みは、遊技機本来のプログラムの作動の結果であるから、「客以外の者の意図により決定される」ものではないのである。

 「遊技機の基準」のうち「遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機であること」の基準は、無効ないし意味をなさないことは既に述べたとおりであるが、仮にこの基準を是認したとしても、検察官の主張が成り立たないことはこれで明白になった。』という。

コ これらは、いずれも既に判断済みのところである。

サ 弁護人は、ここで『抽選確率設定変更も「客以外の者の意図により決定される」ものではないと題し、「遊技機の基準」七号の「遊技の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」の基準には、D遊技の結果が偶然により決定されるおそれが著しい遊技機と、E遊技の結果が客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機の二つが含まれている。

 ところで、そもそも回胴式遊技機は、既にみたとおり、BB又はRBが出るかどうかは、スタートレバーを押した瞬間に行われる抽選で内部当たりになるかどうかによって、すなわち偶然によって支配されているのに、それでも右Dの基準に該当しないとされる。

 また、本件回胴式遊技機は「入賞図柄の抽選確率を六段階のいずれかに設定できる機能を有して」おり、客以外の者である営業者の意図によって内部当たりの抽選確率が変動されるにもかかわらず、なおEの基準にも該当しないとされる。

 結局、営業者の意図によって内部当たりの抽選確率の設定が変更されてもEの基準に該当しないとされるのは、確率設定の変更がなされても、その後の客の遊技そのものには営業者の意図は介入せず、客の技量と偶然とによって遊技の結果が決定されているからに他ならない。確かに確率設定の変更前と比較すると、抽選確率に変動が生じており、これは営業者の意図によるものであるが、抽選確率が変わっていることを除けば、客の遊技そのものには営業者の意図は何ら介入していない。

 同様に、打ち込み機をセットしたところで、打ち込み終了後の遊技そのものには、営業者の意図は介入せず、客の技量のみに従って遊技の結果が表れるのであるから、「客以外の者の意図により決定される」ものではないのである。打ち込み終了後の遊技は、それ以前の遊技の結果が内部当たりの抽選と客の技量との兼ね合いで決定されていたのに比較すると変わっているが、しかし、遊技そのものには営業者の意図は何ら介入しないのである。』という。

シ 弁護人主張の『そもそも回胴式遊技機は、既にみたとおり、BB又はRBが出るかどうかは、スタートレバーを押した瞬間に行われる抽選で内部当たりになるかどうかによって、すなわち偶然によって支配されているのに、それでも右Dの基準に該当しないとされる。

 また、本件回胴式遊技機は「入賞図柄の抽選確率を六段階のいずれかに設定できる機能を有して」おり、客以外の者である営業者の意図によって内部当たりの抽選確率が変動されるにもかかわらず、なおEの基準にも該当しないとされる。』との点は、これは正に、検定・認定における「技術上の規格」を経た遊技機で検定等規則によって認められているところである。そして、『打ち込み機をセットしたところで、打ち込み終了後の遊技そのものには、営業者の意図は介入せず、客の技量のみに従って遊技の結果が表れるのであるから、「客以外の者の意図により決定される」ものではないのである。打ち込み終了後の遊技は、それ以前の遊技の結果が内部当たりの抽選と客の技量との兼ね合いで決定されていたのに比較すると変わっているが、しかし、遊技そのものには営業者の意図は何ら介入しないのである。』というが、この二つの『遊技そのものには、営業者の意図は介入しない』との点が異なるのである。

 よって、弁護人主張は、理由がないことになる。

ス 弁護人は、ここで『保通協鑑定は検察官の主張を支持しないと題し、保通協の鑑定書には、鑑定結果として「(3)鑑定資料は、(略)「遊技の結果が偶然若しくは客以外の者の意図により決定されるおそれが著しい遊技機」とするための機能を有するものに該当する。」と記載されているが、鑑定人である早乙女の証言によれば、そのように判断した根拠は、「打ち込み機をつなぐ場合に、回胴式遊技機のふたを開けて、それで、コネクターをつないで、接続して、打ち込みをしなければいけませんので、客以外の者の意図によるということになると思いますので、そのように判断しました。」、「打ち込み機は客が持っていないので、客以外の人じゃないかなと思いました」ということにつきる。

 しかしながら、保通協では、遊技機の型式検定の試験の基準としては「技術上の規格」しかなく、「遊技機の基準」に照らして試験を行うことはなく、「遊技機の基準」に照らした判断は保通協が常にしてきた業務とは異なるのである。しかも、鑑定人の一人である鬼頭は、「遊技機の基準」七号の読み方すら知らなかったのであり、「遊技機の基準」七号の該当性判断の適格はないと言わざるを得ない。したがって、前記保通協鑑定結果は、早乙女らが日常の業務経験を基に判断した結果ではありえないのであって、およそ検察官の主張を証明するものでないことは明らかである。』という。

セ 弁護人主張する、鑑定人の一人である鬼頭は『「遊技機の基準」七号の読み方すら知らなかったのであり』については、同証人は、同証言の中で『「保通協」の中での型式試験、その他の業務の中で、普段目にしているのは技術上の規格で遊技機の基準は見ていない。型式試験では、規則七条は見ていない』とある。これは当然のことと思える。元来、型式試験は検定等規則で「技術上の規格」によることであり、型式試験では規則七条は何らの基準ともなっていないのだから、当然のことである。ただし、『私は、法律は教養ではやったが、法律の難しい話をされても困ります。』とも述べる。そして、規則七条の、あなたが、これに該当するとした基準は、どういう場合にあたるのかとの問いに対し『今回、遊技機に打ち込み機をつなげまして実験した結果、確かに内部当たりすることが確認されました。内部当たりしたということは、もう既に当たっているということは、今の言葉どおりに受け取られれば、客以外の者の意図により決定されるおそれが著しいというふうに該当するんではないかと思いましたので、記載しました。』と述べる。また、弁護人主張するとおり、本件鑑定人である早乙女証言があることはそのとおりである。

 しかしながら、かような証言があるからといって、本件鑑定書での鑑定結果が弁護人主張のとおりとなるものではない。よって、弁護人主張は、理由がないことになる。

Hア 弁論要旨の「結論」として、弁護人の主張『打ち込み機の接続は「技術上の規格」に照らしても、「遊技機の基準」に照らしても、公安委員会の承認を要する遊技機の変更には該当しないから、被告人らは無罪である。』という。

イ これらについては、既に判断済みのところであり、公安委員会の承認を要する遊技機の変更には該当するものである。

四 本件公訴事実と法律要件の当てはめ

 以上のとおり、打ち込み機をパチスロ機に接続することは、法四九条三項一号に、すなわち、先にみた第三二1中の(1)(2)(3)のうちの(3)に当てはまることとなる。

 したがって、本件公訴事実は、遊技機の変更に該当するものである。 なお、検察官は、本件公訴事実で、「同社が設置する遊技機の設備を変更をしたものである。」とあるが、これは、法文にしたがった用語の使用の仕方の範囲のものと認められるし、更に、被告人、弁護人においても、遊技機の変更を中心に据えて弁論をなし審理を尽くしてきたものであるから、特段、この字句の補正にはこだわらなかったものである。