急性心膜炎

 

 急性心膜炎は心膜の急性炎症で,時に心筋炎,心内膜炎を合併する.病理学的には,心膜の反応,滲出液の性状により,線維素性,漿液性,出血性,化膿性に,また滲出液の有無により,乾性,湿性に分けられる.

・特発性心膜炎:急性心膜炎のうち,頻度がもっとも高く(23%),原因は不明.症状は急性に始まり,胸痛,発熱を主訴とすることが多い.約半数に上気道感染症が1〜2週間前に先行する.約25%に胸膜炎を合併する.経過は一般に良好であるが,時に再発を繰り返したり,希に死亡することもある.心タンポナーデを生じたり,収縮性心膜炎へ移行する例は少ない.

・感染性心膜炎:細菌性(肺炎球菌,ブドウ球菌,連鎖球菌など)結核性,ウイルス性(コクサッキーA・B,インフルエンザなど),真菌性,寄生虫性などの感染による.

・リウマチ性心膜炎:リウマチ性汎心炎の部分症状で,リウマチ熱の診断基準を満たす場合に診断される.

・尿毒症性心膜炎:腎不全の末期に約50%に起こる.一般に心膜炎の症状は軽く,心膜摩擦音で発見されることが多い.心タンポナーデの出現に注意する.

・悪性腫瘍性心膜炎:原発性は希で,乳癌,肺癌,気管支癌,白血病などからの転移,浸潤が多い.大量の血性滲出液を伴う場合に疑われる.

・心筋梗塞後症候群(Dressler症候群)・心膜切開後症候群:前者は心筋梗塞後2〜6週に,後者は心膜切開手術後1〜4週に発熱,胸痛で発病する.ともに副腎皮質ホルモンが奏功することにより自己免疫反応と考えられている.

・心筋梗塞や解離性大動脈瘤に伴う心膜炎:ともに発病後まもなく発症する.前者はDressler症候群とは異なる.

・膠原病性心膜炎:SLEに合併することが多い.

・その他:外傷,放射線照射に伴う心膜炎,ヒドララジン(血圧降下剤)やプロカインアミド(抗不整脈薬)などの薬物に対する過敏反応による心膜炎など.

 

臨床症状

・自覚症状

1)胸痛:前胸部から肩,頚部に及ぶ胸痛を主訴とすることが多く,その性質や程度は種々である.深呼吸,咳嗽,体動,嚥下で増強し,臥位,特に左側臥位で増悪し,前屈の坐位で軽減するのが特徴であり,心筋梗塞の胸痛との鑑別に役立つ.

2)呼吸困難:呼吸により増強する胸痛を軽減するため,浅く速い呼吸となり,気管支圧迫による咳嗽,呼吸困難を訴える.

3)その他:反回神経圧迫による嗄声,食道圧迫による嚥下障害などをみることがある.ほかに発熱,発汗,倦怠感,食思不振,体重減少をみる.

・他覚症状

1)心膜摩擦音:心膜表面に付着した線維素が心運動で摩擦し合って生じるが,一過性であり,滲出液の貯留につれて減弱または消失する.音の性質は表在性で,粗く,ざらざらした,あるいは紙を引っかくような音で,胸骨左縁下部に多く聴こえ,しばしば限局性であり,上半身を前屈すると増強し,心拍ごとに変化することがある.前収縮期,収縮期,拡張早期のいずれでも聴取され,機関車様(locomotive)である.

2)心膜液の貯留におり,心拡大心音の減弱心尖拍動の減弱をみる.また左肩甲骨下に濁音を生じ,この部位に気管支性呼吸音を聞く(Ewart徴候).これは拡大した心臓により圧迫されて無気肺を生じたためである.

 

臨床検査

・胸部X線検査:心膜液の貯留が大量(300500ml以上)になると,心陰影は左右に拡大し,水差し型となる.肺うっ血はなく,肺野は明るい.また透視で心拍動の減弱をみる.

・心電図:初期にほぼ全誘導でST上昇STは上方に凹型の上昇を示す点で心筋梗塞と区別される.異常Q波は出現しない.経過とともにST低下.心膜液が貯留すると,QRS波は低電位をなり,しばしば電気的交互脈(1拍ごとにQRS波形が変わる)を示すが,これは心臓の1拍ごとの振り子運動のためである.

・超音波検査:心膜液が貯留すると,心膜と心外膜の間にエコーがみられない空間(echo-free-space)が現れ,液貯留の有無を知るのに有用.

・心CT・心プールシンチスキャン:前者では心膜液貯留の検出,その存在部位と量の診断,CT値より血性,非血性の推測が可能.後者はRIによる心内腔の大きさと,X線による心陰影の大きさの不釣り合いで心膜液を診断するが,大量でないと検出率は劣る.

 

診断

 

 発熱,胸痛,心膜摩擦音,心尖拍動の減弱,心電図の変化,心エコ−図や心CTあるいはMRIで,心膜液貯留の所見をみれば診断は容易である.さらに心膜穿刺によって貯留液を証明すれば診断は確定する.液は少量である場合には冠動脈や心筋をを穿刺して出血による心タンポナーデを惹起する危険が高いので安易に行うことは慎むこと.

 

治療

 入院治療を原則とし,発熱,胸痛が消退するまでは安静とする.この間に原因疾患を検索し原因疾患に対する特異的な治療方針を立てる.

胸痛の治療:通常,非ステロイド消炎鎮痛薬(アスピリン,インドメサシン),強い場合は麻薬を用いる.

原因疾患の治療:抗生物質,抗結核薬,抗腫瘍薬などを用いる.特発性心膜炎や心膜切開後症候群,Dressler症候群ではステロイドが著効を奏する.

心タンポナーデの治療:心膜穿刺術やドレナージによる排液を行う.