◆担当医の方針に疑問 メールで開けた活路

 「乳がんかどうか調べるため、乳房を切り開いて細胞を取り出す生検を受けることになりました。担当医に『傷跡が残り、乳房も変形する』と言われたのですが、本当に必要な検査でしょうか」

 奈良県に住む会社員小松久美子さん(36)は昨年1月、インターネットで見つけた医療相談コーナーにこんな電子メールを送った。

 ひと月前、健康診断で訪れた地元の総合病院の診断は、乳腺(にゅうせん)が固くなる「乳腺症」。その後の超音波検査で、がんの可能性もあると言われた。

 生検では2センチ四方の乳腺を取り出すという。「がんなら仕方ないが、検査で乳房の一部を切り取る必要があるのだろうか」。未婚でもあり、不信感は募ったが、ごう慢な担当医にとても聞けず、思い悩んだ末の相談だった。

 「乳房を切り開く前に針を刺して少量の細胞を取り出す針生検が現在は一般的。結果も1週間前後で出て、跡は残らず乳房も変形しません」

 相談の翌日、メールが届いた。小松さんは直前に迫った手術をキャンセル。別の病院で針生検を受け、3日後、がんではないと判明した。

 「利用してよかった。乳房が変形せずに済んだこともあるが、詳しい知識を教えてもらうだけで安心しました」

 ◇「仮想外科クリニック」◇

 小松さんが相談したのが、金沢市立病院の永里敦医師が開設する「仮想外科クリニック」(http://www.nsknet.or.jp/〜nagasato/index.html)。一昨年11月以来、約200人の相談に答えてきた。

 治療に疑問がある時、別の医師から「セカンドオピニオン」を聞き、納得できる治療法を選ぶことが大切だが、国内では一般的ではない。

 「インターネット上の相談なら、気軽に患者がセカンドオピニオンとして利用できるのではないか」と始めた“クリニック”。一般的な治療法の提示や考えられる病気の可能性を示唆するだけだが、相談者は20〜40歳代を中心に徐々に増えつつある。

 「肺がんと診断されたが、検査に3か月もかかり、治療法を質問するとカルテを投げつけたり、どなったりする」と担当医への不信感を訴える人や「担当医が教えてくれない」とがんの生存率を聞いてくる人もいる。

 インターネットが盛んな欧米では、病院が詳しい治療法を解説するホームページを持つケースが多い。国内でも医療相談のページはここ数年で、個人病院の医師や各地の医師会などを中心に20か所以上。外科、内科から精神医学まで開設され、複数の医師でインターネット病院を構成しているページも出てきた。

 基本的に無料。自分で写した患部の写真をパソコン通信で送り、医師が見る形式のものや、自覚症状によるチャート診断ができるホームページも登場。この診断で「パーキンソン病」と判明するきっかけになった人もいるという。

 ◇予備知識として利用◇

 永里医師は「本来は、実際に病状を見ている担当医の診断が最も的確。インターネットでは、実際の病状を知らないので一般論しか話せないし、病状などについて互いに誤解が生じる恐れもある」と問題点を指摘しながらも、「担当医の対応に納得いかない場合などに予備知識として利用しては」と話している。

(1月17日9:13)